9/2(金) 穂積音和①
昼休み、いちごと並んで屋上へ向かっていると、後ろから声をかけられた。
「知ちゃん……」
この学校で「知ちゃん」と呼ぶのはあいつしかいない。
しかし覇気のない声だな?
「せんぱーい! 私たちもご一緒していいですか?」
振り返ると音和の隣に、3人の見慣れない女子たちがいた。
「誰?」
「えっと……」
「あたしたち、穂積ちゃんと同じクラスなんです!!」
パチンとウインクをした中央の女子は、薄い茶髪のセンターパートのロングヘアに切れ長の目が特徴的で、薄い唇には真っ赤なリップが色づいていた。
うおお、正真正銘のギャル! ギラついてんなっ。
隣のいちごを見る。
「ああ、なんか安心する……」
「どういうことかな、知実くん?」
「はっ! いや、他意はないです」
やばい、いちごちゃんがジト目だ。
ともかく!
「なんだよ、友だちがいるならそっちでメシ食えよ。ほらお前の弁当」
袋から自分の弁当だけ抜いて音和に渡す。
「違くて、先輩! たまには後輩とも交流しましょうよっ」
「文化祭実行委員されているんですよね〜。かわいい後輩っちに、文化祭のこと教えてください〜♡」
右サイドだけお団子にした金髪に、チュッパチャップスを3つさした超ミニスカートのギャル。それからピンクのベストを着た、ふわふわのロングヘアで目だけバチッと目立つ色白ギャルが、俺のシャツの袖をつかんで離さない。
「あ〜〜〜〜悪い。こういうの嫌がるのがひとりいるんだよね。可愛い女子に人見知りするっていうか」
野中、騒がしい女子のあしらい方が鬼だからな……。
「え〜〜〜〜〜〜〜」
「んじゃ、うちの子をよろしく頼むよ!」
「知ちゃ……」
「偉いな音和。また放課後な〜」
音和の頭をくしゃくしゃに撫でて、再び階段をのぼる。
うんうん。二学期早々、いいできごとだ。
数段上にいたいちごを追い越して、屋上の扉を開けた。
それから、給水塔のふもとのいつもの場所へまっすぐに向かった。
後から上がってきたいちごは、何か言いたげな顔をしている。
「? なに?」
「ううん。ちょっと心配になって」
「なにが?」
「音和ちゃん。大丈夫かなって」
「チャキチャキしてそうな子たちだから、音和のこと引っ張ってくれるだろ」
「うん。でもちょっと……」
首を傾げるいちごを横目に、シートを広げた。
俺が座ると、隣にちょこんと腰掛ける。
「そういえばあいつの友だちって、ちゃんと紹介されたことないな」
「初めてなんだ?」
「うん。まあなんかちょっとだけ、もやもやするかなー」
「友だちに嫉妬? それは過保護すぎだよ〜」
さっきまで眉根を寄せていたいちごが、思いっきり笑う。
うーむ。音和だってクラスに友だちくらいいるよなあ。
でも、そんな自分の知らない世界が、本当にちょっとだけ、寂しいかもと思った。
俺も保護者とか言わずに、音和離れしないといけないな。……頑張れ俺。
◆◇
弁当を食べはじめたころ、野中が遅れてやってきた。
「暑い! 死ぬ! なんでおめーら平気で外でメシ食ってんだよ」
「おつ~」
「野中くんおつ~」
「おつ~」
文句を言いながら野中もはしごをのぼり切った。
「せっかく掃除したし使わないと。また片づけるのやだし」
「せやけど小鳥遊ぃ」
「ネクストコナンズヒーント、動くのだりぃ」
「それは答えかな?」
暑いがシートは給水塔の陰に広げてるし、我慢できないことはない。さすがに昼寝とかはしたくないけど。
「そういえばお姫がひとりでメシ食ってたけど、ケンカでもしたー?」
ピタリと、箸を持つ手が止まった。
「は? 見間違いじゃね?」
だって、さっき友だちとメシ食うって言ってたし。
「? 今日は俺らと一緒にメシ食うって言ってたのにいねーじゃん。それにあいつ、普段からよくひとりで昼メシ食ってるぞ?」
野中は眉間にしわを寄せながら、パンの袋を開ける。
「ちょっと、知実くんってば」
いちごが心配そうに俺を揺する。あぶね、びっくりして固まってた。
「野中、音和はどこにいた?」
「1階の渡り廊下。倉庫舎に行く途中の」
「なんでお前、そんなへんぴなとこ……」
「つか、行かねーなら俺が行くけど?」
「いや俺が行く」
箸を置いてすぐハシゴに手をかけた。
一体なんなんだよ、あいつは!?