8/30(火) 野中貴臣②
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「久しぶりだな知実。制服姿のお前もまぶしいぜ!!」
「おい! 知実って言うなクソ野中!!!」
校門前で抱きつかれたのを、引っぺがそうともがいた。朝イチでいちばん暑苦しいやつに会ってしまった自分のタイミングの悪さを呪う。
こちとら久々のシャバでな、学校前の坂を登りきるだけで、息しんどいんだよ! 無駄に叫びたくねえ〜〜〜〜!!
「はっはっはっ。この照・れ・屋・さん♡」
「照ーれーてーねーえーーー!!」
手のひらの付け根を突き出し、野中のアゴに斜めに入れる。これでやつの動きは封じた。
しかし、学校到着早々さっそく叫んだな……。『叫んではいけない学校24時』なんてやったら俺、尻が破裂する自信ある。
「おはおはー☆ なっちゃん冷たいなー」
野中の後ろから七瀬が出てきた。
おー、久々のこの顔! ちょっと感激。
「ってか、野中には基本優しくしてる! 下で呼ばれるのが嫌なの!」
「そだけどさー、ほづみんやいっちーはいいの?」
はっ!? 横目で両端の二人を見る。
うおお、いちごが申し訳なさそうな顔して固まってるんだけど! 音和は……。
「あたしと知ちゃんはずっと仲良しだからいいよ」
「おはー。だよねー!」
いいよじゃねーよ、いいけどよ! こいつは心配することなかったわ。
「いちごはうちでバイトしてるから、苗字だとややこしくなるからいいんです。なあ?」
「あ、そうだ。それが発端だった!」
こくこくと高速でうなずくいちご。まったく、ニヤニヤしやがって野中も七瀬も……!
「あーあ、いっちーは役得だねえ」
「なんで? 役得? 七瀬ちゃんやっぱり知実くんのこと……」
「わーー、ないない! ぜったいないー!!」
「お前さっきから俺に失礼だぞ!」
「うっさい、じゃーあんたはあたしに気があるってこと?!」
なん……っ!?
「ごめんなさい」
「謝ってんじゃねーかよ!」
ひらりとスカートが舞ったかと思うと、おみ足が俺の腹にHitしていた。
「ぐぬぬ……暴力振るう女なんて……なんて……っ!!」
「朝から気分悪い! 行こいっちー」
「ちょ、七瀬ちゃ、わーー」
女子たちが去って行き、残ったのは野中と音和だけになる。
「ひえー怖い怖い。ほら、カバンよこせ」
野中が近づいてきて、手を出した。
「いや、いいよ」
「歩けんのか、そんな消耗して」
あ、体調を気遣ってくれたのか。なんていいやつ。
チラリと音和を見ると、心配そうに、でも黙ってこっちの様子を伺っていた。
「……たしかにあのキックのせいでつらみ」
「だろ」
素直にカバンを渡すと、ついでに腕を支えて立ち上がらせてくれた。
本当にいいやつだな。ちょっと泣きそう。
………………
…………
……
下駄箱でそれぞれ靴を履き替えていると、音和が小走りで近づいてきた。
さっきから人の顔をじろじろと見て、なんなんだ?
「知ちゃん……あのう」
しかし、もじもじしながらせわしなく視線を彷徨わせるだけで、なかなか先を言わない。
靴を履き終えた野中も隣に来て、ふたりで囲むようにして音和を黙って見下ろした。
「……ううん、やっぱあとでいいや」
??
「じゃあ、また!」
てけてけと走っていく後ろ姿を見ながら野中は言った。
「んー、とうとう告るつもりかね?」
「っ!!」
「なーんて、さすがこんなところではねーよなw」
……ごめん、本当はだいぶ前に、言われています。
返事をするって約束した日も近付いてきた。今までなあなあにしてたけど、それもちゃんとしないといけないな。