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彼女たちを守るために俺は死ぬことにした  作者: うんちん丸
第4部 お姫様に寵愛を
145/301

2019年 冬⑥

  ◆◇◆◇◆◇




 思ってた通り、準備期間の1カ月はあっという間だった。でもそれは、決してまばたきをするような一瞬じゃなかった。

あたしにとって、こんなにも濃い1カ月は今までになかったと思う。


 ひとりで頑張ってきた今までとは違う。あたしには味方がいる。


 チュン太もきっと不安でいっぱいのはずなのに、あたしの前では常に笑ってくれていて、彼の強さにはとても励まされた。


 それからこれは思わぬ副産物だったけれど、チュン太といると、人が寄って来るようになった。



部田(とりた)さんって怖い人かと思った! でも違うんだねー」



 そんなことを数人に言われて驚いた。

 あたしは自分が他人からどう見られているか、気にしたことが一度もなかったから。


 だから、見た目のことだって。ううん、見た目はもとより自信がない。


 そんなことをうっかりこぼすと、チュン太は言った。



「あはは凛々姉、それもったいないよ!」



 恥ずかしすぎて思わずカバンで殴ったけど、すごくうれしかった。


 それからあたしはメガネをやめてコンタクトにして、演説の前には髪の毛をショートに切った。


 笑われるかと思ったけど、選挙の日、体育館の舞台袖でチュン太は言った。



「凛々姉はすごいね。再会してわずかなのに、日々、カッコいいを更新してる」


「な、なにを言ってるの」


「でも今日はその一歩だし、これからもっと手の届かない人になるんだね!」


「……え?」



——部田凛々子さんの応援演説は、1年A組、小鳥遊知実さんが行います。



「じゃあちょっち場を温めてくるぜぇ!」



 チュン太が颯爽と舞台へと出て行く。


 あたしはその背中を、口を半分開けたまま見送った。






………………


…………


……





 あたしの演説も終わって、二人で体育館を出た。


 達成感でいっぱいだったあたしたちは、パンと音を立ててハイタッチした。



「……まったく、原稿に書いていないことを言いはじめたから焦ったわよ」


「あはは。なんか急に違うこと言いたくなっちゃって」


「すっっっっっっごい、恥ずかしかったんだから……!」


「だって凛々姉のいいところ、みんなに知ってほしかったんだもん」


「だからって『部田(とりた)さんは孤独です!』はなくない!?」


「ちゃんとオチつけたでしょー?」


「もういいけど。ねえ、冒頭で『とある偉い人は言いました』って言ってたけど、どこの偉人の言葉を引用したの?」


「あれ? 俺」


「は?」


「俺の言葉だけど」


「はあ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!?!? ……ぷっ。あはははは!」



 二人で顔を見合わせて笑った。


 こいつは本当にチュンチュンぺらぺらと、適当なことが次から次に出てくるわ。


 でも……すごく照れくさくて、嬉しかったな。


 天気はいいけれど気温は寒いはずなのに、あたしの体温は上がっていて、このままずっと、陽気を感じていたい気分だった。






 あたしは、自分が思っていたよりもとてもとても、とても弱い人間だった。


 ううん、弱い人間になってしまった。


 孤独から救われたと、思ってしまったから。



 全部あんたのせいよ、チュン太。







  ◆◇





「ねえ知ってる? 部田(とりた)凛々子さんって時期会長候補だったんだけど、あの1年生の男子」


「応援演説してた男子だよね?」


「そう! あたし聞いたんだけど、部田さんを選挙で落とすためにこっそり動いていたんだって!」



————え?



「聞いた? 生徒会長選挙戦の裏話!」


「応援演説の男の子が裏で票を操作したやつ?」


「生徒会とずぶずぶの関係だったんだって」


「えーなんで!?」


「生徒会長になると忙しくて、構ってもらえなくなるからって理由らしいよ」



————みんな何を言ってるの?



「でも協力もしてたんでしょ?」


「近くにいたほうが、動きが読めるから」


「部田さん友だちいないし、やりやすかったって」


「エグー。引くわー」


「なんでそんなことするの?」


「よく知らないけど、恨みがあったみたい」



——チュン太が……?



「安達くんと仲良かったんだって、あの1年生」


「部田のそばにいて、スパイしてたんだろ?」


「味方かと思ったら敵とかこわーい!」


「うわ、俺なら人間不信になるなー」



————うそ……うそだよね……?

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