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彼女たちを守るために俺は死ぬことにした  作者: うんちん丸
第4部 お姫様に寵愛を
144/301

2019年 冬⑤


………………


…………


……




「凛々子ちゃん。これお店からのサービス♡」


「いいんですか!?」


「いいのよ、うちの子が悪いんだから!」



 カウンターテーブルにアールグレイのシフォンケーキと紅茶が置かれて、ついつい顔がほころぶ。隣に、おとなしくなった小鳥遊くんがショックを受けた面持ちで座っている。



「プリ◯ュアも強いほうが都合が良さげだったから気づかなかった……」


「別にプリ◯ュアも日常編で怪力自慢はしてないでしょう」



 観たことないから知らないけど。



「俺の知ってるアニメでは、大体の女の子は力を欲しがってんだよ!」


「なんでアニメ基準なのよ! もー、本当にさっきからあー言えばこー言ってうるさいわね。あんたってば、スズメみたい。もー、チュン太でいいわ」


「え、やだよそんなカッコ悪い通り名!」


「通り名じゃない!」


「もっとあるでしょ、“震威(しんい)の語り手”とかさあ!」


「よくそんなのポンポンと出てくるわね。普段からそんなことばかり考えてるの?」


「ううん、思いつき〜!」



 頭にチョップを落とそうとして、直前で手が止まる。肩をすくめて頭を抱え、片目でこちらを伺い見ている小鳥遊くん。


 この子、ちょっとは弁が立ちそうね?



「まあいいわ。ねえチュン太って、学校どう? その……クラスとか、友だちとか」



 小鳥遊くんはおそるおそる腕のガードを解くと、顎に手を当てて考え込む。



「んー、男子とは結構みんなと仲良いかなー。女子も話すことは話すよ?」



 あたしよりもきちんと友人関係を築いてそうね。ちょっと癪だけど。



「そう。じゃああなたに指令があります」


「え、指令?」


「3月。生徒会長の選挙があるんだけど、あたしがそこに立候補します」


「うん」


「そこで、あなたにあたしの応援演説をして欲しいの」



 平常心を装って、一気に捲し上げた。



「? 何すんのそれ」



 1年だから知らないのも当然ね。でもここは断られないように、慎重にそれっぽい説明を……。



「全校生徒の前で、いかにあたしが素晴らしいかを説くのよ」



 小鳥遊くんは少し黙って考えたのち



「えーーーーーーー!?!?!?」



 本日二度目の絶叫をした。



「え、なんで俺? しかもお願いじゃなくて命令!?」


「そうよ」


「だって、俺1年生だし、選挙?も初めてだからどうしたらいいのかわかんないよ!」


「知ってるわよ。でも2年生だって去年一度しか体験してないからみんなやり方なんて忘れてるし、どうしたらいいのかわからないのは一緒よ」



 対抗安達くんの応援演説の人は、経験豊富だけどね……。



「やだよーーー無理だよーーー」


「もちろんあたしもお礼はする。チュン太にお願いしたいの!!」


「えー、なんで俺なの? 1年なんか出たら凛々姉が笑われちゃうよ!」


「っ!」



 あたしにはお願いできる人がいなくて、仕方なく小鳥遊くんを誘った。でも小鳥遊くんは自分が嫌だからじゃなくて、あたしのことを考えて断ってくれてたんだ。


 ちょっと悪いことしたかも……。


 でも、だったら改めて、この人にお願いしたいかも!



「……わかった。ちゃんと理由を話す。聞いて?」



 こうなったらあたしもカッコつけていないで、きちんと向き合ってみよう。



 あたしが生徒会長になりたかったこと。


 中学に入ってからはそれだけを目標に頑張ってきたこと。


 自分の成長ばかり優先して、友人関係をおろそかにしていたこと。


 こんなとき、頼れる人が一人もいないこと。



 全て正直に、小鳥遊くんに話した。


 怖くて手が震える。

 それをもう片方の手で止めようと握りしめるけど、体全体が震えているから、止まるはずがない。



「小鳥遊くんに頼みたいと思ったのは、あたしのことを知ってるし、心に届く話し方をする人だって感じたから。あたしに持っていないものを感じたのよ」



 小鳥遊くんはなにも言わない。

 ただちょっと困ったような表情で、目の前のお茶をもてあそんでいた。



「……でもごめんね。久々に会ってからする話じゃないか。重い、よね。ほんと、さっきまでそんなつもりはなかったのよ。だけど少し話してみて、学年とか関係なくて。思い上がりかもしれないけど、あたしのことを少しでも考えてくれる人に、応援演説をお願いしたいなって思ってしまったの」



 人んちでテンション上がって、自分のわがままを押し付けて。なにしてんのよ、あたし。冷静になれば、顔から火が出そうだわ。



「あ、あたし帰る! 今日のことは忘れてっ!」



 急いで立とうとすると、隣から腕を掴まれた。



「忘れねーし。じ、事情はわかったから、凛々姉」



 ぶっきらぼうな声で、顔は前を向いていてよく見えない。



「凛々姉が俺がいいって思ってくれているなら、ちょっとでも助けになりたいかなって、思ったかも」


「……うそ。いいの? ほんとに?」


「でも俺、先言っとくけど、作文は苦手だからね!」


「いいよっ、一緒に考えるっ。ありがと、ありがとう……っ!」



 いつの間にか体の震えは止まっていた。

 あたしはスウェットの裾で目元を拭った。



「よし、あたしは文武の才を持つ女。絶対に負けない! よろしくね、小鳥遊くん」



 小鳥遊くんはニコリと笑う。



「なんだよ。チュン太、なんだろ?」

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