2019年 冬③
なにこれ、万事休す……。
中庭の池の縁に腰掛けてため息をつくと、ポケットからポロリと演説の原稿が落ちた。
原稿は担任に添削してもらうとして、応援演説かぁ。ほんっとにどうしよう。
ひとりで解決することは得意だけど、他人を頼るとか無理だ。
体育の2人組を組むときとか、家庭科で3人組を組むときとか。それすらも嫌な汗をかくあたしが、誰を頼ればいいんだか。
しかも相手の応援演説は生徒会長だし。できればこっちも先輩にお願いしたいけど、同小の人で仲いい人いないし、部活も入ってない。
文章得意な人、明るい人……。
いろいろと思い浮かべてみるけれど、どの人もあたしより安達カケルの方が仲がいい。それに顔はわかるけど、名前を思い出せない。
あたし、人脈なくない? マジでか……。
「あっ! うっそ、凛々姉じゃん!」
ふと自分を呼ぶ声に顔を上げると、目の前で男の子が立ち止まった。
「ちわー! 遊んでる凛々……部田先輩珍しいっすね!」
えっと、彼は同じ小学校だった……小鳥遊くんだ。手には竹箒を握っている。
「遊んでるわけじゃないし……。ねえそれって、ポイント稼ぎ?」
「うん! 1年は結構やってる人多いっすよ〜」
無邪気な笑顔が眩しい。杠先輩が作った制度を知り合いに目の前で見せつけられるのは、今はなんだか複雑だわ。
「部田先輩、学校で全然見ないから本当にいたんだってびっくりしましたぁ。だってもう2月なのにさ〜」
小鳥遊くんはケラケラと笑うけど、当然すぎて笑えない。冗談じゃなく、毎日早く帰って塾に特訓、家勉の日々だからね、あたし。
「……別にいいよ、凛々姉で」
「えっと?」
「だって昔はよく遊んでた仲でしょ。そんなかしこまらなくてもいいよ。隣、座ったら?」
「あ……う……でも……」
せっかくの再会だし、もう少し話せたらと思ったんだけど。小鳥遊くんは困った顔で言葉を詰まらせていた。
……ああなるほどね。仲良くない人に近づくと、こういう反応になるんだ。なんだか選挙のこと、余計に落ち込んできちゃった。
「……やっぱりなんでもない。引き止めて悪かったわよ」
もういいや、帰ろう。
最悪、クラス委員なら引き受けてくれるでしょ。うちのクラス委員ちょっと頼りないけど、仕方ないわねこの際だもの。
「あのっ」
焦るようにキョロキョロと周りを見渡して、小鳥遊くんはあたしの耳元に口を近づけて小声で言った。
「本当はもっと話したいけど、ここだと恥ずかしいから。暇だったらうち来ない? 俺もすぐにこれ片付けてくる!」
え、家? いや近所だけど……男子の家!?
中学に入ってから、異性の部屋なんて行ったことないわよ!
小鳥遊くんとそんなに仲良いわけじゃないけど。久しぶりだし、ちょっと話したい気も……。けど、男子と何話せばいいのよ!?
「ウチ覚えてるよね? んじゃ、着替えたらウチ集合で!」
小鳥遊くんは笑顔に戻ると、手を振って走って行ってしまった。
なによ、世の中学生たちはみんなこうやって、男女でイチャイチャ過ごしてるっていうの!?(※そんなことはない)
……。
い、行けばいいんでしょ? 行ってやるわよっ!