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彼女たちを守るために俺は死ぬことにした  作者: うんちん丸
第4部 お姫様に寵愛を
141/301

2019年 冬②

 ◆◇◆◇◆◇




 数日後、演説原稿を見てもらうために生徒会室に行くと、先輩方の雰囲気がよそよそしく感じた。


 前来たときはフレンドリーだったのに、今日は誰も話しかけて来ない。むしろ、あたしの周りに見えない結界が張られてているかのように、遠巻きにされていた。



 異物を見るような視線が突き刺さる。


 会長デスクについて黙っていた杠先輩は、意を決したように立ち上がるとあたしの前まで歩いて来た。下ろした指を前で組み、困ったようにこちらを見る。



「実は部田さんに謝らなきゃいけないことがあるの」


「どうかしたんですか?」


「うん。えっと……。毎年生徒会長の立候補が出ないって話してたんだけど、二年生の安達くんも立候補したんだ」


「安達って……安達カケル!?」



 先輩がこくりと頷く。


 あたしと同級生の安達カケル。ちょっとチャラついているけど、確か成績は悪くない印象。


 人当たりがよくて、先生もよく怒ってるけど目にかけてるっぽいし。安達カケルが取り持って、クラスのいじめがなくなった話も聞いたことある。


 あの人、生徒会長に立候補したんだ。そういうのは興味ないと思ってた。


 そうすると、あたしと対立するってこと?



「それで、謝りたいことっていうのがね」



 黙って考えていると、杠先輩が恐る恐る言葉をつなぐ。


 え?? 生徒会長確定の話が流れたってことだけじゃないの?



「安達くんに応援演説を頼まれて、わたしが話すことになったの」


「!?」



 慌てて周りを見渡すと、すでに知っていたらしく先輩全員が目を逸らした。


 そっか。選挙になるなら、応援演説が必要なんだ。


 どうしよう。あたしには手伝ってくれる友だちなんていない。応援演説なんて、誰に頼んだら……。


 でもそんなこと、ここで愚痴れない。



「ごめんね。安達くんは幼なじみだし断れなくて。わたしが演説するから、生徒会みんなそっちの手伝いになっちゃって……」



 だからこの雰囲気か。あたしがここにいることが居心地悪いんだ。そっか。



「でも、部田さんの演説のアドバイスや添削もしますよ。先に約束していたことですから」


「……大丈夫ですよ、生徒会長」



 持ってきた紙をくしゃっと握りつぶして、ポケットに隠す。



「ライバルに手の内を明かすのは、お互いにとってもあまりよくないことですよね? あたしはなんとでもなりますから。失礼します」



 心なしか、生徒会長の顔がホッと緩んだような気がした。


 生徒会室を出ようと振り向いて、自分が立っている場所にようやく気づく。ドアまでたった数歩の距離。そんなところで立ち話してたんだね。


 誰にも受け入れられていなかったことが身に染みて心がざわつく。


 たった数歩を引き返し、部屋を出てからあたしは走った。向かう場所なんてないけれど、早く敵陣から離れたい。そんな感情だけでやみくもに走った。


 あはは。あたしはなんとでもなる?

 

全然なんともならないよ。こんな仕打ち、あんまりじゃない!?


 ……ううん。これはあたしの見立てが甘かったせい。応援演説があることも考慮しておくべきだった。


 なんにでもトラブルはつきもの。予定調和なんて夢ものがたり。これを対処しないと、生徒会長なんてなれないよね。

 あたしが先輩たちを責めるのは、お門違いなんだから……。

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