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8/11(木) 部田凛々子④

………………


…………


……



 すっかり空気が悪くなり、結局乗り物にも乗らず、しばらく無言でベンチに座っていた。


 誕生日に悪いことしたとも思わなくもない。でも、凛々姉だって。俺なんかと過ごすから……。


 隣を盗み見ると、凛々姉は園内を歩く人を見ていた。子供たちははしゃいで、カップルは笑顔で、みんなが幸せそうなのに。俺たちは異物のような存在だ。



「チュン太」



 凛々姉が口を開いた。俺の視線に気づいていたようだ。



「あたしたちの付き合いは長い。虎蛇で活動している仲間として、友人として。……もっと頼って欲しい。あんたはひとりで抱え込みすぎるから心配なのよ」



 頼って欲しい……か。



「それに、今は弟のように思ってる」



 “今”は、ね。それはとてもありがたい話だ。



「……俺は」



 胸の奥が焼けるように熱い。言うつもりのなかった言葉が、病のように流れ出た。



「凛々姉が大好きだったよ。女の子として」



 それは、あなたも知っている通り。



「……だってそれは、昔の」



 目を逸らして居心地悪そうにしても、絶対逃がさない。



「そうだよ、昔の話だよね」



 もう今は消滅してしまった感情。

 中学生の頃、凛々姉にフラれたときから、恋という感情が迷子になっているんだと思う。



「だからさ、昔とはいえ好きだった女の子の前ではカッコつけたいじゃん。全然ついてないけどさ〜w」


「……」



 一転、明るく振舞っといた。

 ともかく、凛々姉の前では道化でいなければならない。それが俺が彼女にしてやれる、最後のことだから。



「……あたしたちの間には、確かに3年間の空白がある」



 そわそわしていた凛々姉の動きが、いつの間にか止まっていた。



「生徒会長に憧れてたけど、もともと友だちが少なかったあたしが支持を得るなんて絶望的な話だった。それを助けてくれたのはチュン太だったね」


「中学で凛々姉と再会して。まあ……勝手に懐いてたな」



 好きという感情が芽生える前。特別に慕っていた先輩だったから。



「あんたの人懐っこさ、本当に羨ましかった。その人望もね」


「はは。それはねーよ」


「謙遜はしなくていい。野中や穂積みたいな難しそうな人間も、あんたには心を開いてる」


「……どうだろうね」



 そうならうれしいけれど。



「でも、あたしは、生徒会長になれなかった」



 俺たちは隣にいるにも関わらず、ゆっくりと時間をかけて、目を合わせた。



「もう、過去のことよ」



 心臓の痛みと、背中からくる怖気を抑えるのに、精一杯だった。

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