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8/8(月) 月見里 蛍①

 ようやく個室に空きが出て、病室を移った。


 快適だけど、代わりに前のようなわいわいとした雰囲気はなくなった。


 でも、さみしいかといえばそうでもない。



「「よっしゃーーーーーッ、とったあああああ!!!」」


「海高のピッチャー人間じゃねーな」


「あの4番を封するとは、やりおる!」



 病院に遊びに来ていた野中と、甲子園の中継を観て盛り上がっていた。

 クーラーの効いた病室は、扇風機しか支給されていない実家よりはるかに居心地がいい。



「おっ……しゃああああ、勝ったーー!!」


「うわほーーーーー!!」


「ギャアギャアうるさいわねっ!!」



 ノックもしないで部屋に怒鳴り込んできたのは美原さんだ。


 しかし俺がひとりじゃないのに気づくと、急に勢いがしぼんでいく。



「え……小鳥遊の……友だち?」



 テレビの真ん前に身を乗り出す俺と野中を見て目を白黒させている。


 まあ、今まで親以外の外部の人間を連れてくることなかったしな。


 美原さんは察した様子で、頭をぽりぽりとかいた。



「友だちを呼ぶのはいいけど、外に声漏れてるわよ。気をつけなさい」


「あ、待って美原さん!」



 扉を閉めて出て行こうとした美原さんを呼び止める。



「なに?」


「ほたるに全然会えないんだけど」


「そう……」



 野中のことを気にして一瞥するが、扉を閉め、険しい顔のままベッドに近づいてきた。



「ホスピスに行く準備をしてるところなのよ。予定よりちょっと早まってね」



 エミちゃんも言ってたな。完全に動いてるってわけだ。



「そんな顔しないでよ。したいのは月見里のほうなんだから」


「わかってるよ……」


「あの子がこっちにいる間、しっかり支えてあげて」



 押し殺したような静かな声だった。

 頷いてから俺は尋ねる。



「何日に移動?」


「そうね。本当は明日にでもしたいのだけど、事情があって木曜かしら」


「急だな……」


「病院とはそういうものよ」


「ここにいるとよくそれがわかるわ」



 苦笑してからカレンダーを見る。

 あと3日後、か。



「今日は夕方なら落ち着いていると思うわよ。月見里」


「お、サンキュー!」



 今日は特に用事ないし、後で行こう。容体も気になるしな。


 美原さんは深く頷くと、次は野中に顔を向けた。



「こんにちは。小鳥遊の主治医の美原よ。なにかあったら看護師か、あたしを呼んでちょうだい」


「……」


「じゃあ、あんまりうるさくしないように」



 そう言うと、今度こそ美原さんは部屋を出て行った。



「……なんでだんまりなんだよ野中」


「タバコ臭い女は嫌いなんだよ」


「そーですか」



 ため息をついて、布団の中からひとつの冊子を取り出す。



「じゃあ水曜の夜にするか。どうだね貴臣(たかおみ)くん」


「水曜ね……お、晴れじゃん。決まりだな?」



 ニヤリほくそ笑むと、俺たちはがしっと手を組んだ。

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