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7/22(金) 月見里 蛍③

  ◆◇◆◇◆◇



『……二日連続だ』


「嫌なら切るけど」


『ダメ! 違う、びっくりしただけ』


「……」


『知ちゃん??』



 結局、音和に電話して落ち着く俺がいる。



「お前の声を聞いていると、そっち側とつながってるって安心するな」


『そっち側?? 今どこ?』


「地獄の入り口、かな……」


『……温泉??』



 不審がられているけどまあそれでいい。俺にぞんぶんに遊ばれてくれ、音和よ。



『カフェも観光のお客さんも増えたよ』


「それはそれは大変だろうな」


『あたしもちょっと手伝った!』


「そうだったのか、俺がいないばかりに。悪いなあ」



 カフェか。去年は休みなく、くるくる働いたからなあ……。


 もう来年からはお断りだ!!と夏休みの終わりに、さすがに父親に抗議したっけ。あれから1年。念願叶ったってわけで。



「七瀬とか葛西先輩とかは?」


『芦屋さんはバストアップCDを買ってた。あ、これ絶対知ちゃんには言っちゃダメって言われたやつだった』



 ふむ。夏休み明けにいじろう。



『で、葛西せんぱいはわかんない。メッセグループもあんま話さない』



 何してるのかわからないと余計に気になるな……。



『……やっぱ、知ちゃんがいないなんて難しい』


「難しいってなんだよ(笑)。まあ、こっちも楽しくはないな」


『ひとり知らない土地だし、毎日暑いし大変だね』


「いや……」



 病院という顔見知りの増えた地で、快適に過ごしています、はい。



『ちゃんと帰ってくる、よね?』


「なんで? 当たり前だろ」


『うん。帰ってきたら遊ぼうね』



 早く、帰りたいよ。俺だって。




  ◆◇




 病室に戻ると相部屋の人たちはみんな寝る準備を終えてダラダラしているところだった。いつの間にか、そろそろ消灯の時間のようだ。


 隣を仕切るカーテンを引こうとすると、それを隣人が手で止めた。



「どこ行ってたんだよ。女か?」



 ザキさんはニヤニヤと勘ぐってくる。



「ただの幼なじみっすよ」


「仲いいんだな。どんな子?」


「いや……隣に住んでるヤツでガキの頃からずっと一緒なんだけど、あほの子で手がかかる、どーしようもない妹みたいなやつ」


「妹系幼なじみキター!! 贅沢だなおい! やっぱり朝は起こしてもらうのか?」


「むしろ俺が電話……」


「寝起きやべーー! シチュエーション最高じゃねーかクソが死ね!!」


「おい人の話聞け!!」



 大暴走じゃねーか! この男、テンションは高校生より高いかもしれないっ!?



「はあ妹系萌ゆる。でもここのエミちゃんもいいよな。もー白衣の天使っていうか~♡」


「俺……あの人のおかげで日々内出血増えてて、退院が伸びてる気がするんだけど……」



 そろそろ注射の腕を上げて欲しいのだが。



「そういえば今日も来てたな。ほたるちゃんだっけ?」


「そうっすね……」



 重い話を思い出すとどうにもテンションが上がらない。



「女に囲まれてうらやまけしからんぞ少年! やっぱエミちゃんも、おっさんより高校生のほうがいいよなあ」


「いやあ、俺よりザキさんのほうがしっかりしてるし、どー見たってザキさん圧勝でしょ」


「え、そう思う? そうかなあ。でもなあ、連絡先教えてくれねーんだよおお」



 気が済んだのか、ザキさんは泣きまねをしながらベッドに寝転んだ。


 今はちょっと病気っぽい顔してるけど、元気になればぜんぜんモテそうなのになあ。よく喋るし。


 そう思いながら寝る仕度をしていると、ザキさんのベッドからばさりと雑誌が落ちた。



「おーい、ザキさん落ちましたよー」



 ちょうど俺とのベッドの間に落ちたそれを拾おうとすると、ザキさんがベッドから飛び起きてさっと拾い上げた。



「……」


「……なんですか。見てないっすよ……」


「そっか、よかった!」



 そう言って満面の笑みを浮かべると、ザキさんは布団にまた潜り込んだ。


 今度こそカーテンを閉めて、俺も寝ようとする。すると隣から申し訳なさそうな声が聞こえて来た。



「……ちょっとハードなエロ本でさ、テンパっちゃったテヘ! 終わったら貸すから怒らんといてな」



 なんでちょっと照れてんだよ! 中学生か!

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