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5/17(火) 穂積音和①

「おえ……」



 目覚ましは7時をさしていた。

 やっべえ、隣の人起こさないとまた怒られる……。


 起き上がろうとするが、強烈な吐き気と頭痛でうまく身体が起こせない。もともと偏頭痛持ちだが、最近またひどくなっている。


 身体が睡眠を求めて、俺をベッドに縛り付ける。



「ぐう」



 身体の声に従って二度寝を貪ろうとするが、体調の悪さに目は冴えるばかり。


 手を伸ばしてチェストの戸を開け、薬を取り出して枕元の水で飲み込み、台風のような症状が治まるのをただひたすら待つ。薬は看護師をしている穂積のおじさんがくれたものだ。


「ちゃんと病院に行けよ」といつも言ってくれているが、行くヒマがない。


 そろそろちゃんと行こう……。と、頭痛が起きたらいつも思う。そして治ったらケロっと忘れる。悲しいけれど、人間なんてそんないい加減なものだ。業である。


 そんなことを考えながら、割れそうな頭に冷却シートを貼りつけ、時が過ぎるのをひたすらと待ち耐えた。



 30分後、まだ痛む頭をさすりながら音和の家のドアを叩いた。



「おー! とー!(怒)」


「おや。知くんおはよう」



 声がした庭をのぞくと、軍手をはめてタオルを首にかけたパジャマの男性が見えた。朝から草むしり中のおじさんだ。


 趣味が庭の手入れなのか、そこまで大きな庭ではないのにもかかわらず、休みの日の朝はいつも庭で作業をしている。



「おじさん、はよっす……。音和はまだ寝てるんですか?」


「んん?」



 おじさんは立ち上がり、一度腰を伸ばした。



「いや、今日は委員会があると言って早くに学校に行ったが」


「はああああ!? っつ……」



 やべえ。大声出すとまだ頭に響くな……。つか、なんだよあいつ。今日委員会ねーし……。



「音和がまたスネたのかな? すまんね知くん。甘やかしてきたばっかりに」



 申し訳なさそうに頭を下げられた。

 そのおじさんの言葉で一気に身体が熱くなって目が覚めた。

 ああーそうだ。昨日、音和に告白されたんだ。



「どしたんだい? 顔が赤いが。今日も体調がよくないのかい?」



 目ざとく俺の顔色を観察するおじさんに、どぎまぎしながら答える。



「あ、いやこれは……」


「薬は飲んだかな」


「今朝、飲みました」


「そうか。あんまり長引くようなら、帰りに検査しに来なさいね」



 まっとうなことを言われて気まずい。

 ぺこりと頭を下げると、俺はそそくさと穂積家を撤退した。



 さて、俺は音和に避けられたわけだ。やっぱり顔合わせづらいよな……。


 いつも引っ付いてきた音和がいないのは寂しいし、結構ショックだった。あいつまた泣いてないだろうな。元気がないのをいいことに、変な男にたぶらかさないだろうか。


 ……ああ、ちくしょう、心配になって来たじゃねーか!



┛┛┛



「ねー音和チャン。今日はひとりってめずらしーネ!」



 悪い予感は的中するものだ。学校についてすぐ、校門のところで音和を発見したはいいけれど、さっそく悪い虫もついていた。



「……別にいつも知ちゃんと一緒なわけじゃない」


「ふーん? じゃあ今日は俺と学校サボッてさ。イ・イ・コ・ト、しないっ?」


「「キモいわ!!」」



 声が重なったことに驚いて、パッと振り返った音和と目が合う。俺は構わず音和の前に立ち、男を引き離した。


 男は俺の顔を見ると、なぜか可笑しそうに吹き出し、降参とばかりに手を挙げた。



「よう」


「今日は早いのな、野中」



 どうやら野中が相手をしていてくれたようだった。良かった。からかわれていた音和は機嫌が悪そうだけど。



「んー、ちょっとな。気分悪いからサボるけど」


「まだ始業もしてないじゃん」


「つかなっちゃんは過保護すぎ。アホになんぞこいつ」



 野中の手が伸び、俺の後ろから顔を出していた音和の頭を乱暴にかき乱した。

 音和はその腕にしがみついて抵抗しているが、まるでダメージを与えられていない。



「自立しろよお姫」


「うっ……さ、い! アホでも……、ない!」



 はは、体力ねえなあ。



「んじゃまたなー。愛してるよなっちゃん、担任によろ」



 満足したらしく音和を俺に押し付けると、登校している生徒の波に逆らいながら野中は坂を下っていった。



「なにしに学校に来たんだよあいつ、なあ?」



 と、音和を見ると、俺の片腕の中にすっぽりと収まったまま、黙っていた。


 急に、照れが身体の中からわき起こる。なんか汗出てきたし。いや、でも、だって音和だぞ? こ、こんなのふつーにやってることだし。平常心、平常心。


 結論。


 密着しているから恥ずかしいんじゃない。校門前で目立っているのが恥ずかしいんだよ!!


 登校中の生徒らと目がバッチバチ合うのが気のせいではないと分かってから、シャーーッと威嚇をしたけど埒あかーん!

 もう、仕方ねーなっ。



「場所変えるぞ」



 抱えていた肩を離して音和の腕を引っ掴み、校門から離脱した。

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