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7/20(水) 小鳥遊知実②

 小さな冷蔵庫には、親が持って来てくれていたペットボトルのお茶が入っている。来客用のカップを取り出し、お茶を入れて少女に渡した。


 少女は受け取ってゆっくりと口をつける。こくこくと小さく喉が動いてるのが見えてほっとした。



「……ありがとう」



 今度は小さいながらもはっきりと言葉が聞き取れて、俺は自然と顔がほころんだ。



「座る?」



 来客用の椅子を引っぱり出していると、少女はその脇をてくてくと歩き、ベッドによじのぼった。ちょこんと足だけ下ろして腰掛ける。



「そこでいいの?」



 コクリ。と、また頷く。まあいいや。と、俺も隣に腰掛けた。


 二人で壁を見つめる状態である。


 まあ、向かい合うよりも隣に座るほうが緊張しないって言うもんねー。



「改めて。俺は小鳥遊知実。君は?」



 少女は俺の顔をじっと見つめて、重そうな口を震わせながら開いた。



「……つ、きみさと、ほたる」


「ほたるちゃんね」



 コクリ。



「よし、じゃあこれで友だちということで!」


「……?」


「なぜ首をかしげる!」



 ほたるは不思議そうにじっと見つめてくる。そこではじめて、まじまじとほたるの顔を見た。


 張りのある白肌に黒目がちな瞳と、腰まで伸びた黒のロングヘアが特徴的だった。そして小さく細身の体には、自前らしいピンクのパジャマを着ている。小学校中学年くらいだろうか?



「いくつかな?」


「……13。中2」



 ちゅ、中学生……だと?


 ……口に出さなくてよかった!!


 しかし小さい。病気のせいなのだろうか?



「??」



 おっと、レディーをじろじろ見てはだめだな。反省、反省。



「と、ところでどうしてここに来たの?」


「ん……」


「あーーー! 小鳥遊くん今度は誘拐ーー?」



 病室に響く高い声。


 ぱっと入り口を見ると、昨日ナースステーションで俺にイチャモン(?)つけた看護師さんが部屋をのぞいていた。



「違う! この子の意志だ!」


「女の子追っかけてたと思ったら、今度は連れ込んじゃってー! まったくどこの子よ……って、ほたるちゃんじゃないの! こんなおとなしい子に手を出してーー!?」


「だーかーら、合意だって!」



 ほたるはというと、ぼんやりと看護師さんを見上げていた。



「まあ、なっちゃんとほたるちゃん、合意の上でデキてたの〜?」


「エミちゃんまでー!?」


「え、なになに? 小鳥遊くんってそんな子だったの?」


「ちょっと可愛いと思ってたけど、やっぱ若い男ねー」


「未成年同士は犯罪じゃないんじゃない?」


「昨日もほたるちゃんを追いかけてたのあたし見ちゃった!」


「「「きゃーー!!」」」



 なんか……

 いろんな……

 看護師さんで……

 うちの病室の入り口が……

 塞がっているんですけど……!!!



「おお! 今日は美人がたくさん来てくれていいのう」


「ちょっと記念写真をとってくれ白岩さんや」


「じゃあわしはその次に」


「エミちゃーん愛してるよー!」



 この状況を喜んでいるのは、同室のじいさんズとザキさんだ。



「「きゃあきゃあ」」


「……」


「「きゃあきゃあ」」


「…………」


「「きゃあきゃあ」」


「てか全員、油売りすぎじゃーーっ!」



 叫ぶと、クモの子を散らすように看護師さんたちは出て行った。



「小児病棟にも報告しなきゃー♪」


「すなー!!」



 外から聞こえる声にもツッコむ。


 ……なんで? 病院ってこんなに疲れるところなの!?



「ッカー! 少年はモテモテだなあ!」



 隣のザキさんが頭を掻きながらぼやく。



「タッキーが入ってから、なんだかナースみんな浮き足立ってる気がするんだよね~」


「俺一応病人なんで、静かにしてもらいたいんだけど……」


「ツッコミ役がいなかったからね。みんなうれしいんでしょう」



 ニコニコと奥のベッドの森さんが笑う。


 まったく。とひとりごちて隣を見る。



「あれ?」



 いつの間にか、ほたるもいなくなっていた。

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