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7/18(月) 小鳥遊知実

 台に乗って天井を見上げていた。


 あーーー。なんかあれみたい。レースゲーム。



 真っすぐ進んだかと思うとドリフトをきかせて直角に曲がる。横目で周囲を観察すると、通行人が端っこに避けてこっちを見てる。ヘーイ、見せ物だよーーん。



「ねえねえ小鳥遊。どんな気分?」



 ストレッチャーを操作していた女性が愉快そうに声をかけてくる。



「ぜんぜん動けるのにこのような高級車なんかに乗って、とても申し訳ない気分ですね!」


「あっはっは、いいねー分かるわ。あたしも白衣着ているのが申し訳ない気分だもの」


「ちょっとそこは自信を持ってくれよ美原さん!」


「って動くな、本当に怪我するから。そういえばあんた、タバコ持ってない?」


「持ってるわけないし、吸うなよ病院だ、ここは!」



 実際には音なんてしてないけど、キキーッという音が聞こえるくらい急ブレーキをかけて、ストレッチャーが止まった。


 むくりと起き上がると、病院内のどこか廊下の途中……というか、喫煙スペースの前だった。



「あー、しんど。ちょっと喫煙行ってくるわ」



 ぜいぜいと息を切らす彼女を俺は冷ややかな目で見る。



「つかタバコ持ってるのにたかろうとしたのかよ!」


「いや。あン中にいる誰かが持ってるっしょ。じゃあね~」



 そう言うとヨロヨロと中に入って行った。ほんと図々しいな……。それにここどこだよ。



 検査に行く途中で主治医の美原さんに会った。彼女は俺の余命を宣告した主治医だ。


 『乗ってくかい?』という言葉に何だろうと甘えたら、それがストレッチャーゲームという気まぐれだったらしく、とんだ迷惑をこうむった。


 はあ、かわいそうに。きっと喫煙スペースの人たちも……。


 中をのぞいてみる。


 あれ。めちゃくちゃ和気あいあいとしてる。コミュ力たけえな!




  ◆◇




 遭難中、看護師さんに助けられ、無事検査を終えた。


 戻った病室は6人部屋で、俺のベッドは入ってすぐ右。入り口に近いところだった。


 寝転んで、ため息をついた。これから母親との約束である自分探しの旅という名の入院を約1カ月間しなければならないのだ。



 今回の入院は、これからどういう治療を行うかを決めるものだった。


 手術はしないことを前提に延命を行う。そして、可能な限りは学校に行きたい。そう、両親と美原さんには伝えている。


 そして大部屋なのは個室が夏休みで丁度空いていなくて、少し待ってくれとのことだったけど、別にまだ動けるほうだし、個室は金かかるしだったので、全然俺的にはオッケーである。



「ん?」



 荷物を片づけている途中、どこからか視線を感じた。ゆっくりと振り向いてみると入り口に女の子が立っている。


 誰かを探しに来たのだろうか。


 でもパジャマ着ているみたいだし、患者さんかな。


 ……いや、俺のこと見てない?


 カバンを置いてベッドから降り、茶色いスリッパを履く。そして入り口に向かった。


 しかしスリッパをはいてたくらいで、女の子はするりと逃げて行ってしまった。



「??」



 でもさっき、思い切り俺のこと見てたよな? なんなんだ……。



「あっはっはは」



 声の方へと振り返ると、隣のベッドの人が笑っていた。



「逃げられたな、少年」


「はあ。知り合いっすか?」


「いや、俺も初めて見た子だ。若い兄ちゃんが入院するから見に来たんだろう?」



 周りを見てみる。なるほど彼の言うとおり、相部屋の人も半分は年配の人だった。俺のベッドの隣とその奥の窓際の人は、比較的若いようだ。



「今日からよろしくお願いします。小鳥遊(たかなし)です」



 ベッドに戻って挨拶をした。隣の人はニヤリとニヒルな笑いを浮かべた。



「おう、俺は篠崎。ザキでいいよ。29歳だ。で、こっちは俺よりも先に入院していた森さん。36歳既婚者奥さんバリ美人」


「よろしくタッキー」


「いいねタッキー。お前はタッキーだ! ガハハハハ!!」



 あ、気さくでいい人たちだな。よかった、仲良くなれそうかも。



「俺は17歳っす」


「おお!? 高校生か。懐かしいなあ若いなあ!! じーさんども、10代が入ったぞ!」



 ザキさんは大げさに向かいのベッドにも声をかける。向かいのおじいさんたちもみんな歓迎モードで声をかけてくれた。


 会釈をしながらザキさんをチラと見ると親指を立ててウインクする。


 いい人、じゃない。この人、めっっちゃいい人じゃん!



 心配だった入院生活も、これならなんとか楽しく過ごせそうだなと、胸をなでおろしたのだった。

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