飛ばされてきた勢力の思惑
それは、椅子に腰掛けながら一人考えに耽っていた。腰掛けている椅子も、部屋の内装も、それも含めておよそ地球人の感性からかけ離れた姿をしている。
それもそのはずで、さまざまな勢力が未知の天体に飛ばされているなかでも、極めて高い技術力を保有している外宇宙からの侵略者であるためだ。
生命進化とは、さまざまな考え方があるにせよ基本的に突然変異と、突然変異によって発生した性質が環境に適応するかによって行われるものだ。よって地球とは異なる星ならば、地球とは異なる進化を辿り、姿形の異なる生物がいても不自然ではない。
一応酸素大気で呼吸可能という共通点を有してはいるが。
寧ろ異星から未知の天体に飛ばされてきた勢力の中に、地球人と同一の外見をした知的生命体が存在している方が不自然というべきだろう。
並行世界の地球に武力侵攻した異星の軍隊の最高指揮官は、今後どのような活動をすべきか悩んでいた。何しろ超光速恒星間航法を実現している彼らの技術力をもってしても本国との連絡はつかず、孤立化した状況だ。
恐らく次元の異なる宇宙か、同一の宇宙でも本国から何光年単位で離れた星系に漂流したのだろう。
時空が乱れた影響なのか、宇宙船の超光速恒星間航法機関は不調を来しているため、無人の居住可能な惑星に入植を図るということもできない。この天体の存在する星系には居住可能な天体は他に存在せず、如何に自動化の進んだ文明でも現状の装備ではテラフォーミングは至難を極めるから同一星系内に入植することも不可能だ。
では地球人に降伏するかというとこれも不可能だ。確かに
彼らが侵攻した地球の国家と多国間連合軍も飛ばされてきているが、列強というべき星間大国としてのプライドと降伏したところで生命が保障されないため降伏するわけにはいかない。
彼らが地球を侵略した理由は、領土でもなければ、資源でももない。星間大国である彼らは居住可能な惑星を多数保有しているし、銀河系内だけでも生物の生存に適した惑星はそれこそ無数に存在する。テラフォーミングの技術も有しているし、宇宙船内に自然環境を再現する技術もあるため居住可能惑星を侵略する意味はない。
資源にしても小惑星や無人の天体を開拓すれば、問題なく確保できる。侵略という労力を有する有人惑星を侵略する必要はない。
彼らが地球を侵略した理由とは、領土や資源の確保という目的も含んでいるものの有機コンピューターの確保---地球人の脳をコンピューターとして利用するという生体資源の確保のためだった。
彼らは捕虜にした地球人を軍民問わずに脳を外科的に摘出して有機コンピューター用の資源として本国に輸出するという行為を実行しており、降伏すればまともな扱いを受けないのは火を見るより明らかだ。
地球の倫理観では野蛮に思えるかもしれないが、かつての地球の列強というべき国々と同じ行動を繰り返しているに過ぎず、異星人である彼らからすれば残虐だろうと全くの別種に行っているため、罪悪感を覚えづらいのかもしれない。
また全ての異星人がこの行動を良しとしているわけではなく、同規模の星間大国や中小規模の星間国家が地球侵略に対して非難声明を上げている。ただ実力で阻止に動かないだけだ。
やはりこの天体に独立勢力を築き上げるしかないかと異星の指揮官は結論づける。独立勢力を築き上げると言っても、何も未知の天体全域を制圧するわけではなく、既に制圧した地域を独立国家にするという形だ。
最終的には司令部幕僚や各部隊指揮官とも合議した上で決めることになるだろうが、今の状況ではこの路線で行く他ない。
彼らと同じく地球侵略を行ない飛ばされてきた異星人の中には、圧倒的な技術格差からか単一の強力な兵器を頼りに侵略を決行したものも存在しているが、彼らは大規模な兵力を率いて地球侵略を行なった。
侵略先の地球から巻き添えで未知の天体に飛ばされた異星の軍人は、本国への帰還が不可能であるため、どのように独立勢力をこの地に築き上げるかということに思考を回していった。