異能の狩人
一人の男性がじいっとテレビを凝視していた。歳の頃は30代前半で、服の上からでも鍛え上げれた肉体の主であるとわかる。
テレビに映っている内容は、霊能力者、魔術師、超能力者、妖怪という信じがたい存在に対して、法案整備が進められているというものだ。それを煙草の紫煙をくゆらせながら感慨深げに眺める男性の脳裏には、相反する二つの考えが浮かんでいた。
一つは、純粋に法律の制定を歓迎する気持ちだ。人を人とも思わない人の皮を被った異能者や正真正銘の人外など人々を虐げてきた存在が公的に取りしまられるのは何よりも喜ばしい。
これで異能者に理不尽に人が虐げられる状況は大幅に歓迎すると心の底から法案整備を望んでいた。
もう一つは、狩りがやりづらくなるということだ。男性は、異能者を専門とする狩人、とどのつまりは殺人者であった。
アメコミで例えるなら、悪人の殺害をよしとするパニッシャーのような自警団員というべきだろう。
男性のいた並行世界の日本、いや地球では魔術、霊能力、人外と超自然的な存在が世界の裏側に潜み、先進国ですら非人道的な行為が日常的に行われていた。男性は幼少のころ、奇跡的に助かったものの、魔術師により家族を人体実験の材料として目の前で惨殺されている。
異能力者の存在がつまびらかにされ、警察などの司法の手が異能力者に届くようになるのは願ってもないことだ。が、異能力者が明るみに出れば男性のような異能力者を狩る存在も公権力に追われる側となる。
今後とも異能力者を抹殺するつもりの男性にとっては、具合が悪い。
男性が異能力者を地獄送りにしてきたのは、なにも復讐心のみではなく、自らのように異能者に人生を狂わされる人を出したくないためだ。
異能力者といっても善良な異能力者を殺害しないなど見境のつかない殺人鬼ではないし、異能力者を警察が将来的にとりしまるようになる現状では警察に逮捕されていたり、刑務所に収監された異能力者を殺害しないという分別も持ち合わせている。
客観的に見れば犯罪者に過ぎないという認識も備えている。
それでも男性が異能力者を抹殺する動機は、復讐心によるものが大きく、今もなお憎悪の炎が消えたわけではない。
例え公権力が異能力者を追跡するようになったことを本心から喜ぼうとも、今後とも彼は異能者への復讐を止めるつもりはなかった。
今後警察が異能力者の存在を認識する以上、身元が把握されないように一層気をつけねばならねばならないだろうと男性は思う。警察に指名手配される悪夢は避けたい。
そのためにはしっかりとバラクラバで顔を隠し、指紋や皮膚、毛髪など科学捜査で身元につながる証拠を残さないようにし、魔術的・霊的な捜査でも見つからないように妨害措置をする必要がある。
未知の天体に飛ばされ、さらに並行世界の日本が混ざり合ったお陰で何年もかけて築いた武器弾薬の調達ルートや表向きの収入を得られる立場も消え去ったからこれらもなんとかしなければならない。
男性の思考は、徐々にこの状況でどう異能力者を殲滅するかということに移り変わっていた。その後男性が未知の天体に飛ばされた日本でどのような活動を行い、その末路がどのような者だったかは、ここでは語らない。