前編
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西暦202X年、平成に代わる新元号にも人々がなじんできたころ、日本は突如として地球から切り離され、呼吸可能な大気と生物の生存に必要な温度と水を持つ全く未知の地球外天体に列島ごとテレポーテションしてしまうという変事に見舞われてしまう。
ウェブ上の小説の最近のトレンド、いやそれよりも前からかもしれないが、このような状況にさらされた日本が超大国として君臨するのが習わしだが、残念だがそうはならず、苦難に見舞われる過酷な歴史がこの時を境に始まる。
再度言わせてもらうがこれがウェブ上で氾濫する小説ならば、未知の惑星に移動した日本が現地の技術力が魔法という特殊能力こそあれどそれをのぞけば中世そのままの文明であるために資源と食料の問題を解決し、地球では不可能だった超大国の座を手にするのが定番の展開だろう。
しかし、そんな都合が良く甘すぎるほど心地の良い展開を日本が辿ることなどなかった。何故なら日本が地球から未知の天体に来たのと同様に、この未知の天体に並行世界の地球や地球外惑星からも国土ごと飛ばされてきた国家勢力が存在しており、日本と同レベルか少し劣る程度、あるいは遥かに進んだ科学技術を保有していたためだ。つまり日本が圧倒的な技術力で超大国として君臨することなど夢のまた夢ということだ。
但しこれは何も悪いことばかりではない。中世程度の文明を相手に貿易で李危機を得るよりも同程度の文明を相手にしたほうが遥かに貿易などで都合が良いし、同じく科学技術文明であれば石油という必要資源についての理解があり、貿易などによっても入手しやすい。
幸いにして今回この惑星に飛ばされてきた勢力は日本周辺ではまっとうな民主主義的な国家体制の国ばかりであり、その中には豊富なエネルギー資源を有し外国への輸出も行ってきた国があるため、石油資源の確保については容易だった。勿論未知の惑星に国土ごと飛ばされるという未曽有の現象であり、既知の国家ではない見知らぬ国家との接触であるため、石油輸入を実現するまでに紆余曲折があったのは言うまでもない。日本よりも先進的な技術を持つ国家勢力も領土的野心を持つ国は少なく、貿易交渉の場において激論が交わされたものの、先進的な技術の産物についてもきちんとした関税をかけるなど国内産業の保護に成功している。
但し、全てがうまくいったわけではない。並行世界であるため歴史的経緯の違いから同じ地球に出自を持つ国家でも日本に対して敵愾心を抱く国家も飛ばされており、並行世界の異なる日本といっても戦争や冷戦とまではいかなくとも従来の敵愾心を引きずり、日本に対して悪感情を有している国家も存在しているし、地球外惑星に起源をもつ国家も出現しているため、ヒューマノイドやヒューマノイドタイプではない著しく外見が人間と異なっているなど外見上の際で異星人とトラブルや対立を抱えることもあった。
出現した技術レベルが高い勢力も問題であった。何も領土的野心を有し、体制が人権蹂躙も行うこともありうる非民主的な国家も問題だったが、それ以上に危険視しなければならない勢力も出現していたからであった。
何らかの国家組織が開発したものの、AIが制御不能の状態に陥り、知的生命体の抹殺を目的に行動する無人兵器群。
地球や異星を含む技術力の高い国家といえど一惑星内の勢力にすぎないのだが、恒星間進出能力を持つ異星人の侵略部隊。母星から切り離されたせいで降伏する組織もいたが、資源地帯を確保していたり、高度に自動化された無人製造設備をもつなどの理由で独立勢力として行動するものもいた。
核戦争やそれ以外にも生物化学兵器、ナノマシンなど様々な要因によって文明崩壊を迎えていた地域も出現していた。単純な無法地帯ならまだよかったものの、信じがたいごとに人間や従来の動植物が遺伝子に異常をきたし、最悪は装甲戦闘車量も投入しなければできない駆除が困難な凶暴な生物が繁殖する魔境となっていたのが問題だった。
それら文明崩壊を遂げた地域は技術的に進んでいたために無法者といっても対戦車戦闘が可能な軍用パワードスーツを発掘して使用するなど人間にも気をつけねばならなかった。
まだ常識的な対応が可能な力による現状変更や侵略を目論む勢力以上に危険視しなければならない勢力が出現していたのは、日本にとって悪夢だった。不幸中の幸いと言っては何だが、それらの勢力が出現したのは日本から離れた地域であったものの、何らかの対応をいずれとらねばならない相手だ。
この惑星に出現した国家勢力は、所謂サイエンス・フィクションのレベルに達したものも含む科学技術文明ばかりとかといえばそうではなく、地球の人間が想像するファンタジー小説そのままの世界も出現していたが、これも日本が科学技術による一方的な優位を確立できる勢力ばかりではなかった。
魔法などのなんらかの超常の力が存在する地域にしてもそれらを元に近代科学文明の水準まで発展を遂げている地域も存在していたし、魔法を除けば中世そのままの文明でも脅威であることに変わりはなかった。
魔法が単に火の玉を起こすのがせいぜいならともかく、一個人で核兵器に相当するような火力を実現することが可能な存在もおり、重力制御で飛ぶ木造や金属製の空中船という文明レベルからすると不釣り合いな代物を実現しているためだ。
そもそも文明レベルや魔法の火力で劣ろうと、魔法のなかに洗脳や読心、記憶の操作や瞬間移動などが存在すれば部分的に近代化学文明を上回っているし、犯罪や国家間の駆け引きに悪用することも可能だ。
これだけでなく、ファンタジー系の地域には幾許かの問題があった。近代化学文明の域まで達した地域からすればその限りではないが、技術や社会が中世そのままの世界では現代からすると非民主的な体制が築かれており、それらの価値観が現代と異なる文明とどうつきあうかという問題。
ファンタジー風に言えば亜人となるヒューマノイド型生物や悪魔への対応。亜人と呼ばれる種族の中には知能や人語を介する能力を持ち交流が可能な種族も存在するものの、中にはある程度の知能と人語をかろうじて理解できるだけの害獣としかいえない存在もいる。
地球で言えば高い知能を有しているものの、温和なイメージに反して凶暴性の高いチンパンジーかそれ知能をより高めたようなものだ。中には害獣と称して弾圧を受けているだけで交流可能な種族もいるものの、亜人のなかには害獣としかいえない存在がいるにもかかわらず、知能を有しているから保護するべきだと考える動物保護団体やリベラリストなどの対応に苦慮することになる。
悪魔や魔族に至ってはより深刻だ。悪魔や魔族のなかにも長い対立の歴史で怪物扱いされてきただけでまともな知的種族もいるにはいるのだが、よく言えば価値観が著しく異なる、悪く言えば破壊衝動の塊としかいいようがなく、殺害するほか対処しようのない極めて危険な種族としての悪魔や魔族も存在している。
高い知能と強力な魔法などを駆使する危険性の高い悪魔や魔族は、殺害するほか対処のしようがないのだが、民族浄化や人種差別といえなくもないため、亜人以上に政府として慎重な対応が求められた。
ある意味では中世そのままの国家以上に問題のある国家。
極端な実力主義国家や魔法を使える存在を絶対の存在と見做している国家も出現しており、国内で苛烈な民衆弾圧や他の国家への敵意を向けるなど頭の痛い存在だった。
最悪の存在なのは、日本人を拉致していた国家だろう。ファンタジーの国家の中には、異世界から人間を呼び寄せる一方通行な瞬間移動を実現する魔法を有しているものもおり、出現した国家のいくつかは結果的に日本人を拉致していた。
純粋に悪魔などの世界に危機に対抗するためにやむなく拉致を行なった国は、大抵は謝罪と賠償を行い、並行世界とは言え拉致された日本人を無事帰国させるなどしたが、異世界人を奴隷として拉致している国は、当然拉致被害者の帰国を認めず、外交問題として残ることになる。
最も分断して統治せよという法則に則ったのだろうが、拉致された日本人の中で異世界に赴くことで発現する特殊能力の水準の高いものを優遇し、優遇された日本人が特殊能力の水準の低いものを弾圧しているというケースが現地で起きていることもあり、その場合全員救出する必要はないという議論も湧き起こったので、拉致のみが厄介ではなかった。
かくして日本は、未知の天体に飛ばされたために厄介た事態に直面するが、それは国外のみならず国内においてもだった。