1/2
1
靴を履き、なんてことない一日がはじまった。
「いってきます」
玄関で母に声をかける。母はいつものように、おはようとだけ返してくれて、そのまま洗面所へ行ってしまった。
父はもう仕事に出かけたようだ。今日は朝から会議があると言っていたのを思い出した。
玄関を出るとき、ふと、昨日のことが頭に浮かんだ。
あのとき、ぼくに何ができただろう? あの子はどうなったんだろうか? 気になったけれど、ぼくにはそれ以上知るすべはなかったし、何より、そんなことを考えている余裕もなかった。
学校までの道すがら、昨日のことを思い出していた。
あの子の顔を思い出すたび、胸の奥がきゅっと痛む。
「おはよう」
後ろから声をかけられた。振り向くと、同じクラスの子だった。
「おはよー」
そう答えながら、その子の顔を見ていた。
見覚えのある顔だなぁと思ったからだ。
でも、すぐに思い出せない。誰だっけ?
「ねえ、ちょっと話さない?」
「いいけど…………」
断る理由もないので、ついていくことにした。
その子が案内してくれたのは、校舎の裏にある非常階段の下だった。






