第一章8 戦意喪失はひふへほ
雪見時雨は、日が昇るまでずっと雷雷のことを探していた。
しかし雷雷は見つからず、雪見時雨は途方に暮れていた。そんな雪見時雨の前に、ヴァイオ凛が現れた。
「何の用だ?」
「いえ、特に重要なことではありません。ただあなたは我々ヒーロー派遣会社と協力関係になりましたので、これを差し上げたく参りました」
凛は黒い手のひらサイズの機器のような物を手渡した。
「これは?」
「窮地に陥った時、その機器のボタンを押せば私に君の位置情報が届けられる。その場合、ヒーローが君のもとへ駆けつけるという代物だ」
「君たちヒーローの力を私は未だ信用できないのだが。実際、倒されてばっかじゃないか」
「だがきっと役に立つ。だからしばらく持っておいてくれ」
「使う機会はないだろうけどな」
「ありがとうございます。それではまたいつか」
凛は静寂の中、音も立てずに去っていく。
それから間髪いれず、入れ違うようにプロローグが現れた。
「何をしに来た」
刀に手を当て、プロローグを威嚇する。
「良いのですか?雷雷が死にますよ」
雪見時雨は固まった。
それを見て、プロローグは笑みを浮かべる。
「やはりあなたはそういう人ですか」
「そういう人?それはどういうことだ」
「レベル=ファイブから聞きましたよ。あなたはかつて目の前で大親友を死なせてしまった。それに負い目を感じているからこそ、君はもう二度と他人を失いたくない、大事にしたいと思っていると」
雪見時雨は刀を抜きたくなる衝動に駆られるも、そこを堪えた。
「あなた、意外と頭を使えるのですね」
「プロローグ、お前たちの目的はなんだ」
「大体察しはついているのでしょう。我々が人間を使い、何をしようとしているのか」
「ああ。そんなの、私が一番分かっている。だから本当は今すぐここでお前を斬りたい」
雪見時雨は抑えていた。
心の底からわき上がる憤怒、それを抑えようにも、過去が、今がちらつく度に、怒りは収まるどころか膨らむ一方だ。
不発弾のように、いつ爆発するか分からない。ほんの些細なことで彼女の怒りは爆発する。その怒りを、雪見時雨は舌を噛むようにして抑えている。
「ここでお前を殺せば雷雷を救えない。だからプロローグ、雷雷を取り戻した時、お前を殺す」
「ああ」
プロローグはふと雪見時雨の刀へ目を向け、すぐに目線を逸らした。
「では雪見時雨、あなたを雷雷のもとへ案内しましょう」
人通りのない住宅街のゴミが錯乱する裏路地を通り、行き止まりに行き着く。電柱に刺さっている釘を抜くと、行き止まりだったはずの場所の壁は横へ動き、地下に続く階段が出現する。
その先を進むと一本道に入り、長い道を進んで行くと、周囲を十メートルほどの壁で囲まれた円形の場所にたどり着いた。
そこでプロローグは足を止めた。
「ここに雷雷がいるのか?」
「ええ、ただしーー」
プロローグは口に微笑を浮かべた。その時、壁の上からは大勢の声が聞こえ始めた。
プロローグは壁の上に飛び、そして雪見時雨へ言った。
「これよりショーの開幕だ。雪見時雨、君がこれから現れる吸血鬼に勝てたのなら、雷雷を解放しよう」
「そういうことか。相変わらずお前らの考えはゲスいな」
「人間にどう思われようとどうでも良い。我々吸血鬼は人を喰らい、血に興奮する生物だ。故に雪見時雨、面白い戦いを見せてくれ」
壁の上には無数の吸血鬼の姿が。
舌打ちをしつつも、雪見時雨は刀を構える。
「さあ誰でも良いから出てこいよ。私が瞬殺してやるから」
「ではカモン。雷鳴ちゃん」
轟く電気を纏う刀、それに雪見時雨は覚えがあった。
「まさか……」
「昨日ぶりだな。冷気女」
そこに現れたのは、雷雷の姉、雷鳴。
「貴様の首、斬り落としてやる」
怒りに満ちた雷鳴は、牙を尖らせて雪見時雨を睨みつけた。
「では両者、始め」
雷雷の姉、雷鳴の電撃が轟く。
雪見時雨はどう戦うのか。