第一章2 吸血鬼の隠れ家
午後七時。
腰に刀を下げる女性は白い息を吐きながら歩いている。
彼女の横を通りすぎた者は皆突発的な寒さを感じている。
「血のにおい。近いな」
彼女は血のにおいに敏感で、においを辿って吸血鬼を探していた。午後になると、彼女は必ずといって良いほどに街中を歩き回る。
彼女は吸血鬼へ並々ならぬ恨みがあるからだろう。
血のにおいを辿って歩いていると、老人を喰らっている若い青年の姿をした吸血鬼を見つけた。
「あの時の吸血鬼ではないか」
舌打ちをしつつも、女性は刀を抜く。刀には冷気が纏われている。
吸血鬼は走って逃げようとするも、下半身が凍りついていた。
今にも泣き叫びそうな吸血鬼の眉間に刀を押し当て、まるで鬼でも宿っているかのようなおぞましい表情で言い放つ。
「なあ、最近住宅街付近で吸血鬼が多く出現しているのは偶然か」
「し、知らないっすよそんなこと」
とぼける吸血鬼の右腕を、容赦なく斬り飛ばした。
腕を押さえて悶え苦しむ吸血鬼の首へ刀を当て、再び問う。
「お前たちのボスはどこにいる」
「本当に知らないんだ。俺は何も知らな」
首が宙を舞い、血が錯乱する。
「もう少し痛めつけていたら吐いていただろうか。そんなことを考えても仕方ない」
殺したことを後悔しつつも、彼女は刀を鞘に収めた。
「必ず見つけ出してやるさ。お前を」
後日、再び吸血鬼が冷気を操る何者かに殺されたことをヒーロー派遣会社社長は知る。
ブラックアサシンは一人呼び出されていた。
「最近は吸血鬼が頻繁に出現しているな。それも住宅街周辺で」
「どうされますか、社長」
「住宅街周辺に吸血鬼の隠れ家があるに違いない。吸血鬼の被害をこれ以上出させないためにも、ヒーローを選抜して対処に当たらせる。そのためにブラックアサシンの他に十名、ヒーローを呼んである」
すると扉が開き、十名のヒーローがブラックアサシンの前に現れた。
その中にはレッドテイルの姿もあった。
「彼らは皆、吸血鬼戦において功績を残してきた者たちだ。彼らを率い、吸血鬼を殲滅せよ。彼らを統率し、吸血鬼を一網打尽にせよ」
「分かりました」
ブラックアサシンは自分の胸に釘を打ち込むように、返事をした。
これまで住宅街周辺では、三十人を越える死者、行方不明者が出ている。その事件に終止符を打つため、ブラックアサシンらは住宅街周辺の捜索を始めた。
第6支社所属ヒーロー、トランペッター。
彼女は腕をトランペットにすることができる。その代償として、聴力は倍以上になる。能力と代償の相性は悪いものの、偵察においては優れている能力だ。
その代償を駆使し、トランペッターはマンションのとある一室からある話を聞く。
「そういえば隣のマンションの住人、今では誰一人見かけなくなったけど大丈夫かな」
「吸血鬼に襲われたらしいよ」
第1支社所属ヒーロー、ホワイトアーチャー。
彼はマンションの一室を借り、そこからトランペッターの情報を参考にし、隣のマンションの様子を一日中見張っていた。
すると案の定、マンションからは一人も外に出ることはなかった。真夜中にのみ、一人の男が外に出る。
「こちらホワイトアーチャー、例のマンションより男が一名出ていきました」
「了解」
そう言った第4支社所属ヒーロー、レッドパチンコは男の後をつける。
真夜中にどこへ行くのかと思えば、夜道でたむろしている子供たちへと突然走りかかった。
「まずい」
レッドパチンコはすぐにY字型のパチンコを取り出し、赤い鉄球を挟んで男の足へ放った。しかし玉は外れ、男は子供を一人掴んだ。
泣き叫ぶ子供を目にし、男は笑みを浮かべる。そんな視界の中に、塀を走って徐々に近づいてくる者の姿があった。その男は腰から赤い尻尾を生やしている。
「その子を離せ」
男の顔へ重く尻尾が振るわれた。子供を手離し、地面に横たわる。レッドテイルは男の上にのし掛かり、動きを封じる。
その間に子供たちは走って逃げていく。
「いきなり何をする?」
「お前、吸血鬼だろ。既にお前らについて散々調べ尽くした。お前が出てきたマンションがお前らのアジトだろ」
そこへブラックアサシンを含め、三名のヒーローが駆けつけた。
「もう逃げ場はない。白状したらどうだ」
吸血鬼とバレ、命も握られているこの状況下では、どう考えても窮地であろう。
しかし男は笑みを浮かべ、興奮からか声が裏返りながら言った。
「君たちの尾行には気付いていたし、調査を始めていることも気付いていた。だから、お前たちがマンションにいる部隊と離れた時を狙い、襲いかかる」
「何を言っている?」
「つまりは、」
「こういうことさ」
突如上空より現れた吸血鬼、彼はレッドテイルの腹に背中から刀を突き刺した。
「レッドテイル!?」
レッドテイルは血を吐き、倒れた。
押さえつけられていた吸血鬼はレッドテイルを蹴り飛ばした。
「ヒーロー、負けるのはお前たちさ」
ブラックアサシンらを囲むように、二十人ほどの吸血鬼が空を飛んでいた。
「さあ、終わりですよ。ヒーロー諸君」
白スーツ姿の男はワイングラスを持ち、紳士的な風貌で歩いてきた。
「お前は……」
「さあ狩ってしまいましょう。ヒーローを殺せ」
白スーツの男の言葉とともに、吸血鬼は一斉にヒーローへ襲いかかる。
追い込まれるヒーローたち。
絶望的状況下を打開する策はあるのか。