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ヒーローのいない街  作者: 総督琉
第一章『白き死神』
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第一章1 逃げた吸血鬼の行方

 昨夜の吸血鬼の事件は、あっという間に噂として広まっていた。

 吸血鬼と戦った二名のヒーローは、ヒーロー派遣会社の本社へと呼び出されていた。


「レッドテイル、ブラックアサシン、なぜ吸血鬼を取り逃がした」


「申し訳ございません」


 ブラックアサシンは社長へ頭を下げた。

 しかしレッドテイルは腕を組み、すねているのか社長へそっぽ向いて頭を下げる気配はない。

 相変わらずだと社長は頭を抱える。


「まあしかし、二人を呼んだのは吸血鬼を逃がしたから、という理由だけではない。現場に残されていた氷の欠片、あれが一体なんなのかという点だ」


「そういえばあの吸血鬼、氷結なんて力使っていませんでしたね」


「やはりか」


 社長は氷の欠片について、何か思い当たることがあるらしい。

 それが一体何であるのか、現場にいたレッドテイルとブラックアサシンは気になって仕方がなかった。


「社長、そういえば吸血鬼に倒された後、意識が朦朧としてはっきりとは見えなかったのですが、あの場にもう一人、吸血鬼と戦っている者がいた気がするのです」


「実はな、最近吸血鬼が我々ヒーロー派遣会社以外の者に狩られているらしくてな」


「昨夜の戦闘でその者が現れたということですか」


「ああ。実際、彼女については未だ謎が多い。分かっているのは女性、そして冷気を操るという点だけだ。本当はもう少し情報がほしいところではあるが、彼女は吸血鬼しか殺していないところを見ると、少なくとも敵ではないだろう」


「安心して良いのですね」


「まあそういうことになるな。しかし、たった一人で吸血鬼を狩れる逸材がわが社に入ってくれると嬉しいのだが。最近吸血鬼の動きが活発化している。少しでも戦力はほしい」


「ではもし次会う機会があれば、話してみますね」


「ありがたい。ではこれからも、ヒーローとして仕事に励んでくれ」


「はい」


 ブラックアサシンが元気良く返事をする横で、レッドテイルは未だすねたまま無言で社長を睨んでいた。レッドテイルはひと悶着起こすこともなく、静かに部屋を出ていった。

 部屋を後にし、ブラックアサシンはレッドテイルとともに食堂へ向かった。

 食堂はがら空きで、ほとんど人がいない。そんな食堂を眺めていると、まだ十二歳くらいの見た目の少女がブラックアサシンへぶつかった。


「痛っ」


 少女はおでこを押さえ、健気な表情をブラックアサシンへ送る。


「ごめんなさい」


 幼いながらも可愛い少女に心を打たれ、ブラックアサシンは気分良く少女を許した。


「次からは気をつけるんだぞ」


「はい」


 元気満点にそう言うと、少女は逃げるようにして走り去っていく。

 その背中を眺めながら、レッドテイルは呟く。


「あんな幼いガキもヒーローなんだな」


「ヒーローに年齢なんて関係ないよ」


「だが、あの年齢で吸血鬼との戦闘は無理があるんじゃないか」


「そうかな。意外と戦えると思うけどな」


「まあヒーロー試験に受かった時点で、そこそこの力はあるんだろうけどさ。それか、強い能力を持っているのかもだね」


「そうかもな」


 他愛もない会話をしながら、二人は食堂に腰かけた。

 その時、社内全体でサイレンのような音が響き渡る。その音が告げるのはたったひとつ、ヒーロー出動要請だ。

 犯罪者が出たのか、それとも吸血鬼の出現か。

 サイレンが鳴った要因を伝えるため、アナウンスが流れる。


「ただいま、住宅街にて誘拐が発生。早急に対処せよ」


 吸血鬼ではなかったことに、二人は安堵する。


「吸血鬼は夜の方が本領を発揮できるからな。わざわざ弱点の中で戦う必要などないか」


「アサシン、行くか?」


「そうだね。とりあえず行こう」


 社内の女子トイレで、それを聞いていたとある少女は武器を整え、住宅街へ向かう。





 その頃、住宅街で誘拐を働いていた犯人グループは、人目を避けるように路地裏を歩いていた。暴れる少女を二人がかりで押さえながら。

 そんな彼らの行く手に、白スーツの男が立っている。


「てめえ、退()け」


「退かねえと殺すぞ」


「殺す、ですか」


 白スーツの男は一切恐れる様子はなく、むしろ口に微笑を浮かべていた。

 異質な雰囲気を漂わせる男に、むしろ誘拐犯らの方が脅えている様子であった。


「殺すという言葉をそんなに容易く使うものではないですよ。むしろ、覚悟のないあなた方のような者が」


 男は誘拐犯の一人の首を素手で斬り飛ばした。

 一瞬何が起こったか分からなかった誘拐犯であったが、血飛沫がかかったことで仲間が死んだ、ということを理解した。


「丁度お腹が空いていましてね、食べさせてくださいよ。あなた方の血肉を」


「お、お前、何なんだよ」


「私は、吸血鬼」


「吸血鬼!?」


 犯人たちは足をガクガクと震えさせ、脅えていた。逃げようとした犯人は直ぐ様吸血鬼の餌食となり、残る一人となった犯人は舌を噛み、自ら死を選んだ。


「さて、あとは少女だけだが……」


 吸血鬼は脅える少女を見て、あることをひらめいた。


「そういえばレベル=ファイブが面白いことを考えていましたね。吸血鬼の血を人間に流し込んだらどうなるのか」




 それから二十分後、現場に着いたレッドテイルたちは、血まみれで倒れている男らを発見した。


「アサシン、こいつら、多分誘拐犯だ」


「吸血鬼に遭遇して、殺されたのか」


「だが残念なことに、拐われた少女がいない。上手く吸血鬼から逃げたか、それとも……」


「まずは社長に報告だ。すぐに帰るぞ」


 そんな彼らを、マンションの屋上から眺める者がいた。

 彼女は白いため息を吐くと、どこかへと消えていった。

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