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悪役令嬢だって心変わりできるんです!③

更新:2021.10.27

「エマ!」


「は、はいっ?どうしましたか?」


「聞いて欲しいことがあるの!そ、相談にのってくれないかしら?」


 言ってしまったぁ…と、ルイスは思いつつも思っていた程に後悔はなく、頷いてくれたエマに自分のことを話したのだった。そして、今、自分がどう思っているのかも彼女に打ち明けた。


「トール様ってそんな方だったのね。何だかがっかりね。」


「がっかり?」


 “そんな要素あったかしら?”


 少なくともルイスはがっかりはしていない。


「ええ、だってトール様に憧れる女の子は少なくないはずよ。それなのに、その憧れている女の子たちに手を出した方が酷いと思うの。ルイスはシルフィーナばかり悪く言うけど、本当に悪いのは彼女をその気にさせているトール様だと思うわ。」


「確かに言われてみれば…そうね。」


 何だか人に言われると妙に納得できるのが、不思議だ。


「でも、ルイス?貴女、トール様の事、本当に好き?」


「えっ?」


「何かルイスの話を聞いてると、そう感じないの。えっと…何て言うかドキドキしない?というのがしっくり来るわ。普通、女性同士の恋の話ってドキドキするのだけど、ルイスとトール様の話はそういうのがないのよねぇ...。」


 言われてルイスは悩む。婚約した頃はドキドキしていたと自分自身気付いていたし、お顔を見れば心が踊っていた。だけどそれは妃教育が始まり、妻としての役割を知るほどにその気持ちはなくなっていった。別に誰かの妻になるのが嫌になったと言う訳ではない。妻として夫をたてるためには感情を押し殺す必要があるのだが、そうしているうちに何も感じなくなったのだ。トールを好きかと聞かれれば嫌いではないと、ルイスは答えるだろう。

 だがそれは好きと言う感情とは違うのではないだろうか?と、ルイスは疑問に思い始めていた。


「まぁ、それは良いとして…婚約解消のサインはどうするの?」


「うーん。書くこと自体が面倒になってる。」


「もう、トール様に未練はないのでしょう?それなら、サインしちゃえば良いんじゃない?」


「でも家が…」


「他にあてはないの?」


「うーん…」


「それなら、リュカさんに相談してみたらどうかしら?色々な情報に詳しいみたいだし、話を聞いてくれると思うのだけど…?」


「えっ?」


 名前を出されてルイスはドキリとする。別にやましいことがあるわけでもないのに、動揺している自分がいるのだ。



「ふーん、そう言うこと…」


「えっ?どういうこと?」


「ルイスって見てて分かりやすいわね。」


 言われてルイスは自分の顔を押さえる。


 顔に出てたかしら?と。


「フフ、ルイス可愛いね。」


「えっ?どこが?」


「もっと古きを良きとする、保守派の堅い人だと思っていたのだけど、表情豊かで見ていて飽きないわ。」


「それ、誉めてるの?」


「もちろん。」


 ニコリと笑うエマは屈託のない笑顔だった。だけどすぐにしゅんとその笑顔は消えてしまう。


「ルイス、ごめんなさい。」


「なんで、エマが謝るの?」


 エマの声に彼女を見ると、浮かない表情をしていた。


「私では役に立たなさそうで…それに、ルイスがこんなに悩んでいたのに、気付いて上げられなくて…」


「い、良いのよ。解決できない自分が悪いのだし。」


 ルイスは自嘲気味に苦笑いすると、エマは首をかしげる。


「そんなことないよ。自分で解決出来ない悩みなんて、たくさんあるんだから。それをいちいち、自分のせいにしていたら、窮屈じゃない?」


「窮屈?」


「そう…胸がモヤモヤしたり生きることに疲れたりするようなイメージ。と、言ったら伝わるかな?」


「ええ。…でも…じゃあ、どうしたら良いのかしら?」


 ルイスの言葉にエマはクスリと笑う。


「そんなの簡単よ。自分の気持ちのままに動けば良いの。周りなんて気にしないで、言いたいことを言うの。」


「自分の気持ちのまま…」


 楽しそうにニコニコと笑って見せるエマには、恐らく自分の本当の気持ちが分かっているのだろうなと考えたら、ルイスは何だか笑えてきた。


「ありがとう!何だか気持ちが軽くなったわ。」


「気にしないで、私も嬉しいの。」


「え?」


「ルイスが私を頼って、相談してくれたのだもの。こんなに嬉しいことはないわ。」


「そ、そんなに?」


「ええ。」


 そう言って笑うエマは、本当に可愛かった。


「あら、もうこんな時間。ルイスといると時間があっという間に過ぎてしまうわね。」


「私もよ。エマといると楽しくて、時間なんてあっという間に過ぎるの。」


 そう言って、二人で笑った。


 別れ際に頑張って!と、応援までされてしまった。友がこんなにも背中を押してくれるものだとルイスは知らなかった。格下なら守って上げなきゃ。と思うことはあっても、相談をすることなど前の彼女なら考えられなかっただろう。こんなにも心強い友が出来たのだ。自分も頑張らないと、と思うのだった。




 ルイスは家に帰ってすぐに自分の部屋へと戻る。ドキドキする胸を押さえて呪文を唱えた。


『リュカ。最近、全然来てくれないのね。あ、あのね…リュカに相談したいことと…そ、それと伝えたいことがあって、聞いて欲しいの。だから明日の夕方、図書室で待っているわ。』


 話し終わると、ルイスはその声をリュカへと届けるための魔法を唱える。前のとは違い、会話が出来るものではない。それは、リュカと直接話をする勇気がルイスになかったからだ。



 もしかしたら、彼は来てくれないかもしれない。

 やっぱり迷惑だったかしら。

 送るのやめれば良かった。

 そんな悪いことばかりが頭を過ってしまい、気付けばルイスは一睡もできずに朝を迎えていた。

 その日は気が気ではなくて、授業も頭に入って来なかった。授業がいつもより長い気がして、そわそわして落ち着かない。リュカに会えることが待ち遠しいのに、放課後が来て欲しくないとも思うのだ。


 そんな落ち着かない心にエールをもらおうと、エマを探すが見当たらない。朝はいて挨拶したし、昼も一緒にご飯を食べていた。ただその後は頭が一杯で、いつからいなくなっていたのかは、分からなかった。

 ルイスは何だか胸騒ぎがして、エマが大切にしている本につけたという追跡魔法を使って、エマの行方を探してみる。するとどうやら、教室の一室にいるようだと分かり、ルイスはすぐにそこへと向かったのだった。


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