エピローグ ①
ここまでご愛読いただきありがとうございます。
この次で一度完結に致します。
※今回の話について
ただの短編集として読みたい方は
読まないことをおすすめします。
一度完結には致しますが、少しお時間いただいて
続きを作成する予定でございます。
少々お待ちください。
窓ひとつない真っ白な部屋にはベッドと椅子が一つずつあるだけ。生活に必要な調度品は何一つとして置かれていない。天蓋付きのベッドには白いレースのカーテンがかかり、まるでそれは外界との関係を遮断するように覆っている。
そんなベッドにはブラウン色の肩まである髪に、紫色の瞳を持つ少女が横たわっている。身体が弱いのか、ネグリジェから覗く腕は真っ白で、簡単に折れてしまうのではないかと心配になるくらいに細かった。
そのベッドとレースのカーテンで隔てられた外界には、一人の少年が椅子に腰をかけている。黒髪のショートヘアに赤色の瞳の少年は額に翡翠が埋め込まれている。少年の名前はスーリヤ。見た目はヒト族とほとんど変わらないが、この世界では魔族と呼ばれる存在。
そのスーリヤは手に一冊の本を持っていた。
「そこに想う相手がいることを確かめるように…。おしまい。」
まだページの途中だったがその本を閉じて膝の上に乗せた。少年が浮かない顔をしているのに対して、ベッドに横たわる少女は天蓋を見つめて、興奮冷めやらぬと言う雰囲気で感嘆の息を漏らす。目をキラキラと輝かせているようにも見えた。
「はぁ…良かったぁ。二人は結ばれたのね。とてもドキドキした。」
「気に入ってもらえたかな。」
「ええ、とても。魔族と人間の恋…素敵ね。そうは思わない?スーリヤ。」
「そうだね。」
「まるで、私たちのようだわ。」
「うん…」
何とかスーリヤは微笑んで見せた。こんな場所にいてそんなことが言える彼女は凄いと彼は思う。
「メリル。気分は大丈夫かい?」
「ええ、今日はとても気分が良いの。」
「それは良かった。じゃあ、夕食の食事の準備をしてくるよ。少し時間がかかるから休んでいて。」
「いつもありがとう、スーリヤ。」
そんな言葉を言われるような奴ではないと、スーリヤは内心で自分を責める。
メリルは自分を慕ってくれている。だからこそ彼女を娶ったのだ。
だが、その結果がこの様だ。
周りのもう反対を押し切り祝言を挙げたせいで、彼女の味方になるものはいなかった。だからこそ元居たスーリヤの故郷から遠く離れ、ヒト族の住む国に近いこの場所に移ったのだ。
食事もスーリヤたちが食べるものは人間にとって毒でしかない。だから、特別に用意したもので、スーリヤ自身の手で作っているのだ。
メリルの部屋を出て、階段を降りていくスーリヤ。
メリルのいる部屋は魔法で保護されており、この階段を使わなければ入ることはできない。この階段も魔法がかけられており、侵入者を排除する仕組みになっている。それも、メリルを守るために用意したものだ。他のものに襲われないようにと…。
全ての階段を降りると、普通の一軒家のような部屋が広がっている。スーリヤの家は誰がどう見ても普通の一軒家で間違いない。魔法で螺旋階段を造りあげて、空間をねじ曲げている。
スーリヤは一つの古い扉に手を掛ける。重く開きにくい扉は、ガガッと異音を鳴らしてゆっくりと開いた。その先にあるのは小さな部屋で、これでもかと言う大量の本が並んでいた。そして、中央に一脚の椅子と机が置かれている。
スーリヤは手にしていた本を椅子に放り投げると、机に乱雑に置かれた本に目を落とす。
それは今までメリルに読んできた本だった。その中の一つを手に取る。それは子供向けに書かれたおとぎ話で、ずっと思いを寄せてきた騎士と結ばれたいと願った少女が、婚約者にフラれるために奮闘して、最後は念願叶って婚約者にフラれるのだが、その事実を知った父親が少女の愛した騎士を殺してしまうと言う話だ。親の言いつけは守りなさいと、子どもに教えるために作られた魔族世界の物語だった。
その他にも…魔王と婚約した力なき魔族が周りの魔族たちに虐められるという話がある。彼女は最後まで魔力や能力を使いこなすことができずに、魔王にも相手にされず彼の配下に殺されてしまう。これは、力を誇示して相手を畏怖させなければ生きていけないのだという教えを示している。
「…次はどうするかな。」
スーリヤは本棚に置かれた本を眺めながら考える。
この魔界には人間にとって楽しいと思えるような本はない。だから、人間界にいた頃に読んだ本を思い出しながら、似たような明るい話にスーリヤが書き換えていた。少しでもメリルに喜んでもらいたかったから。
だけど、先ほど読んだ物語は止めておけば良かったと後悔している。あれはまだ話の途中で、その後エルヴァは寿命がないことの本当の辛さを知るのだ。ルネはヒト族で寿命が短い。
彼女を失った後の彼の絶望を書いた本。これは、言うまでもなく異種属間の恋を戒めるための物語だ。自分の胸に突き刺さる。
メリルは自分の意思でスーリヤの妻になることを望んだ。そして、幸せにすると誓ったのは自分だ。
だが、魔界の外は彼女にとって毒と同じだ。本来であればそれを浄化してくれる魔石があるのだが、これがなかなかに見つからない代物なのだ。メリルから目を離すわけにもいかないから、探しに行くことも難しい。買い出しに行く際に、街の店を見てはいるが売られていることもない。
身体を動かせず、満足なご飯も食べさせることもできず、日に日に痩せていく彼女を見るのは辛かった。だからせめて彼女の笑顔を絶やさないようにと本を読みはじめたのだ。
「よし、次はこれだな。」
そう言ってスーリヤが手にしたのは、己の婚約者が自分の兄を好きになってしまう話だ。結局、最後は兄の元に行ってしまう婚約者を殺してしまう物語。
さて、これをどうやって書き換えようか…と、スーリヤはその本を手にして書斎を出る。キッチンに向かうと、本を片手に考えながらも料理を始めたのだった。
これは、スーリヤにとって長い長い物語。スーリヤは終わりの見えないこの物語にため息をついたのだった。
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