魔力量を理由に婚約破棄されたのですが、愛のない結婚なんて興味ありません ①
婚約者であるオスカーに魔法を使える種類が少ないということで、婚約を破棄されたエミリー。
愛のない婚約など不要だと、エミリーはあっさりと切り捨てて、次の婚約者を探すためにお見合いを始めた。
そのお見合いで出会ったのがルーカス・オルコットだった。
全4話の短編です。
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更新:2022.4.17
「君とは価値観が合わないようだ。」
そう吐き捨てるのは私の婚約者。冷たい声に冷たい視線が突き刺さる。
そんな彼の隣には私と同じくらいの年齢の女性がいて、彼の腕に自分の腕を絡めてぴったりとくっついている。
「君との婚約は破棄させてもらう。」
彼がそう述べるので、私は当然の言葉を返した。
「理由を聞いてもよろしいかしら?」
私の言葉に婚約者と浮気相手がクスリと笑う。
「分からないのか?」
馬鹿にしたように聞かれて、ムッと思うが私はいたって冷静に返す。
「ええ、教えてくださらないかしら?」
それに対してやれやれとため息をつかれる。私の返す笑顔はひきつっていたかもしれない。
「君の魔力量だよ。君は火の魔法を操るけど、それだけだ。僕は火と風、光の3種類の魔法を操れるトレだよ。釣り合わないと思わないかい?」
婚約者の隣で浮気相手がうんうんと頷いている。私は呆れて言葉が出て来ず、黙っていると彼が続けた。
「昔は2種類操れるドゥーエですら珍しかったようだけど、今では当たり前になっているんだ。だけど、君はそれすらもないじゃないか。」
オスカーは鼻で笑って、隣の浮気相手を見る。
「彼女は氷と地の魔法を扱える。君は本当に国王直属の宮廷魔道師の娘なのかい?信じられないよ。」
浮気相手に同意を求めるように、彼女へと視線を向ける婚約者。すると、浮気相手は甘えるような顔をして頷いてから、私を蔑んだ目で見ると鼻で笑った。
「フフ、本当に…今時、1つの属性しか扱えない侯爵家なんて驚きですわ。」
クスクスと馬鹿にしたように笑う2人。
そんな2人に私は呆れ果ててため息が出てしまう。
「ハァ…理由は以上ですか?」
「ああ、侯爵家である僕にとっては譲れない大事なことだからね。だから、婚約を解消させてもらう。」
「左様ですか…。」
私の言葉に婚約者は意外そうな顔をした。
「もっと驚くかと思ったのに、驚かないんだね。」
「驚く?何にでしょうか?婚約者がいるにもかかわらず、浮気をなさっていることですか?それとも、婚約破棄のことですか?」
私の言葉が癪に障ったのか、婚約者は眉間にシワを寄せてあさましい者を見るような視線を向けてくる。
「君には気品を感じられないな。こういう時、はっきりと物事を言うのはタブーだと教わらなかったのかい?」
「お言葉ですが、私の品位云々の前に、婚約者がいるのに浮気することの方が問題だと思いますが?」
というより、婚約者がいたら浮気してはいけないと教わらなかったのか?という言葉は飲み込んだ。
私がそれ以上なにも言わずに黙っていると、話をしても無駄だという雰囲気でため息をつかれる。私は間違ったことを何一つしてないというのにだ。
「やはり、君とは合わないようだ。」
「そうですわね。」
「僕の方から正式に婚約破棄の話をさせてもらうよ。」
「ええ、お待ちしておりますわ。」
そう言うと婚約者と浮気相手は仲睦まじげに、私に背を向けて歩いて行ってしまった。
その数日後、母に呼び出されて私は母の仕事部屋へと向かった。
「なぁに、お母様。」
「なぁに、じゃないわ、エミリー。」
母は机の書類から目を離すと、私の方を見て呆れたような表情をする。
「今日、ミルフォード家から正式な婚約解消の話をされたのだけど、どういうことかしら?」
「だって、お母様。彼は私の運命の人ではなかったの。私、お母様みたいに恋をして結婚したいわ。」
「あなた、そう言ってオスカーと婚約したんじゃないの。運命の人だって言っていたじゃない。」
母は深いため息をつく。
「それは…あの時はそう見えたのよっ。」
「それがどうして…」
「だって、あいつ浮気したのよ。それに…」
「待って、エミリー、今なんて言ったかしら?」
母は机にダンッと勢いよく手をつき、前のめりになった。母の勢いに私は圧されて、戸惑ってしまう。笑顔なのだが、笑っていないと分かるほどのひきつりようだった。
私は刺激しないようにゆっくりと小さく後ずさる。彼女は怒ると怖いのだ。
だから、絶対に母だけは怒らせないようにしようと、父と約束していたのに…
「え、ええっと、オスカーが浮気をしたと、申しました。私の言葉遣いが悪かったのでしたら…」
「浮気ですって!?…そんな話、さっきはしてなかったのに…」
何やら呟いているのが漏れ聞こえるが、浮気したことを正直に相手の親に話す人なんて、この世にいるだろうかと疑問に思う。
そんなことを考えている間も、母は何やらぶつぶつと呟いている。家を燃やすならいつが良いかとか、慰謝料を取らなければとか、証拠集めをしなくてはとか、物騒な言葉がいくつも聞こえてきた。
「どうしたんだい?エミリー。」
「お父様!」
ちょうどよいタイミングで父が帰ってきて、私はホッと安堵の息を吐いて胸を撫で下ろした。
「先程、ミルフォード家から正式に婚約を解消されたのですが、オスカーが浮気していたので婚約解消は私にとっても願ったり叶ったりだとお母様にお話ししたら、家を燃やすとか物騒な事を呟き始めて…ちょっと困っていたところですわ。」
「それは…」
父は手を口許に当て、真剣な様子で私と母を見た。
「家を燃やすなら、人は避難させないといけないな。怪我人を出すのは問題だからね。
うーん、これは作戦を練らないといけないね。」
「お父様まで何をおっしゃっているのですかっ!」
私が怒ると、ニコリ微笑む父。何だか楽しんでいるようにも見える。
「お父様、楽しんでいらっしゃいませんか?」
「そんなことはないよ。大事な娘が浮気されたんだからね。
…どうやって家を潰そうかと考えていただけだよ。」
物騒なことをさらりと口にする父はニコニコと笑っている。それが余計に怖いのだと私は思う。
「私は何とも思っておりませんわ。だから、お父様まで私を困らせないでください。」
「あはは、冗談だよ。エミリーが傷ついていないならそれで良いさ。でも、何かあればすぐに言うんだよ。」
優しい笑みを向けられ、娘である私ですらドキリと胸が跳ね上がる。父は超がつく程の美男なのだ。紺色の少し長いショートヘアに紫色の瞳。少し切れ長の目は鋭いというより、儚げで美しさを強調していた。
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