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後衛の死神 ②

更新:2021.11.20

 それから私はトーマたちと様々な依頼をこなした。

 基本的にはランクEからCの間で、洞窟などの狭い空間の依頼は受けず、草原や森の中といった囲まれにくい場所を選んだ。

 初めての討伐では、私の魔物を引き寄せる力に3人とも驚いた様子だったが、特に嫌がられるわけでも気持ち悪がられるわけでもなかった。


 アレンたちとパーティーを組んでいた時のようだと思った。


 依頼の報酬については生活に必要な最低限だけを受け取り、後はトーマたちにあげていた。


 なんでもトーマの父親が病に倒れて、家計が苦しいらしい。小さい弟もいて皆を一人で養わなくてはいけず、働けない父親の代わりに生計を立てているトーマを、少しでも応援したいと思ったのだ。


 そして私自身、少しでも戦力になれるようにと、毎日時間を見つけては弓矢の練習を欠かさないようにした。




 そして彼らとパーティーを組んでから、しばらく経ったある日のことだった。トーマたちがランクAの依頼を受けたいと言い出したのだ。


「だ、ダメ。それだけは…」


「大丈夫だって。今回の依頼はAランクの魔物討伐だけど、それはその魔物が強いだけで、他は雑魚しかいないような場所だから。」


「でも、その強い魔物がたくさん出てきたらどうするの?」


 私の言葉にトーマはないないと首を横に振る。


「その魔物は相当珍しいんだよ。1体見つけられるかだって怪しいのに、そんなのが2体も出てくるはずない。」


「その魔物は群れないから、大丈夫よ。死神ちゃんは心配性ね。」


 呆れたように笑うイオラもこの依頼を受けることに賛成しているようだった。あとは…と、最後の頼みだとバルカスを見る。


「うーん…確かにいつもよりは危険だろうな。ちなみに、イオラ、その魔物の特徴は?」


「半魚人みたいな姿をしていて、池や沼とか水の中に生息しているわ。火炎系の魔法に強くて、雷系の魔法に弱いみたい。硬い皮膚に覆われているけど、口や目、お腹を狙えば武器での攻撃も通用する。私たちのレベルなら討伐可能よ。」


「他の魔物がいても大丈夫か?」


「うーん、大量じゃなければ。」


「それなら、先に水場周辺に集まった雑魚をやっつけて、それからその池?沼?に行けば集団で襲われる可能性は少ないか。」


 イオラと話をしているバルカスもどうやら乗り気のようだと分かり、私はどうしたら彼らが諦めるかを考えるが思いつかない。


 結局、3対1と分が悪く、私は彼らに押し負けてしまったのだった。




 私たちはいつもより道具を多めに持って、目的の池へと出発した。目撃情報だと、街から出てすぐ目の前に広がる森の中にいるということだった。そのどこかということまでは分からなかったが、水場がなければ生息できない魔物だったので、私たちは池や沼など水場を探して森を歩いた。


 私の体質から野営は危険のため、日が暮れる前には街へと戻らなければいけない。そのため、私たちは地図を使って、行動する範囲を決めて動く。木々に印を残して同じ場所を歩かないように工夫もした。



 そんなことを繰り返すこと数日。



 この日は太陽が雲に隠れ、薄暗かった。薄気味悪い森の中を4人で歩いていると、一つの沼を見つけた。大きさはそれほど大きくなく、霧が出ている森でも反対岸が見えるくらいしかない。


 沼の近くにいた魔物はあらかた退治をして、今は私だけが沼の前に弓矢を構えて立っている。もし、魔物が出てきたら、私の弓矢とイオラの魔法で先制して、相手が怯んだところをトーマとバルカスでたたみかける作戦だった。


 今までも、水場を見つけては同じようにしていたが、目当ての魔物は現れなかった。だから今回も沼に何の反応もないので、外れだったかなとホッとため息が漏れる。



 ちゃぽん…



 水のはねる音がして、水面が波立つ。私は数歩下がり、こちらに向かって来る影を捉えた。矢じりをその陰にピタリと合わせるように動く。


 目の端でイオラを見ると彼女も雷系の魔法を唱えている。



「来た!」



 バシャン!と水音を立てて飛び出してきたのは、光沢のある鱗に覆われた魚の様な魔物。だけど、それは人間と同じように二本の足で立っている。ギョロリと魚特有の大きな目玉がこちらを見ている。


 私は狙いを定めて魔物へと矢を放った。



 キンッ!



 矢は魔物の手で、いとも簡単に払い除けられてしまった。そこへ、イオラの雷撃魔法がすさまじい音と共に、魔物の頭から足元まで一気に流れた。


 間髪入れずにトーマとバスカルが、それぞれの武器で相手の急所を狙おうと駆ける。


 しかし振るった武器は届くことなく、弾き返されてしまった。無力な子供の様に吹き飛ばされる2人は、大木に背中を打ち付けて何とか止まった。内臓を少し損傷したのかバスカルは口から血を吐いている。





「ど、どういうこと…?」





 イオラの声に魔物へと視線を戻して、私は絶望した。




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