後衛の死神 ①
魔物を引き寄せてしまう能力を持つミンシア。
能力といえば聞こえは良いが、オンオフの切り替えが出来るものではない。悪く言えば、魔物を引き寄せる体質だ。
そんな彼女もパーティーを組んでいた。
だがある日、パーティーのメンバーは彼女の体質によって魔物に殺されてしまう。
なんとか生き残ったのは、ミンシアと剣士のアレンだけだった。
だが、アレンはもっと強くなると行って旅に出てしまった。一人残されたミンシアを待っていたのは、恐怖や侮蔑の目だった。後衛の死神という二つ名さえ付けられて、誰も彼女を仲間にしたがらなかった。
全てに絶望しかけていた彼女のもとに、トーマと名乗る少年が現れる。そして、パーティーを組んで欲しいと言うのだ。
全3話の短編です。
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更新:2022.4.17
後衛の死神
それが私に付けられた異名だった。
この世界には魔物が多く存在する。襲い来る魔物から人々を守るために、街はとてつもなく高い城壁に囲まれ守られていた。
それでも街を襲って来る魔物は絶えることはない。だから人々は冒険者ギルドを組んで討伐を行っているのだ。
そんなことが当たり前の世界で生きていくには、街で生計を立てるか、冒険者となって魔物討伐をして稼ぐか、馬車を巧みに操って行商を営むかくらいだ。
そんな中、私は弓を扱う狩人として冒険者ギルドに所属している。三年前はいつも一緒に依頼を受ける仲間がいたが、今はもう誰もいない。
私ともう一人を残して死んでしまったのだ。
私には魔物を引き寄せる能力があった。能力と言えば聞こえはいいが、制御できるものじゃない。
体質といった方が正しいかもしれない。動物や虫が寄ってくるという人がいるのと同じ感覚だろう。それが私の場合、魔物だったと言うだけ。
何故こんな体質なのか理由は分からない。だけど、確かに私の周りには魔物が集まるのだ。ただ、それは必ずしも好意的なものではない。恨みでも買ったか?と、思うくらいに怒り狂って襲ってくることもある。
仲間が死んだのもこの体質が原因だった。
三年前、私たちは洞窟の探索をするという依頼を受けた。
いつものパーティーは私を入れて五人。剣士に戦士、魔道士、狩人とバランスの良いパーティーだったと思う。
洞窟内であまり弓矢は役に立たないのだが、多少の魔法は使えたし、荷物持ちくらいにはなれるだろうと、ついて行くことにしたのだ。
それが間違いだったのだ。
私たちは洞窟の奥で請け負った依頼のランクよりはるかに高いレベルの魔物と遭遇してしまったのだ。そして、私の能力が仇となり、狭い場所で魔物を引き寄せてしまった。狭い空間に魔物が寄ってくるということは、簡単に挟み撃ちにされてしまうということ。
レベルの低い魔物だけなら、私たちでもなんとかなっただろうが、敵は高レベルの魔物。私たちは無力だった。
目の前で仲間が踏みつぶされたり引きちぎられたりする姿を見て、相手とのレベルの違いになす術もなかった。そんな中、魔導士が最期の力を振り絞って、唯一の生き残りである、私と剣士-アレンを街へと送還してくれたのだ。
自分の無力さに私は嘆いた。
そして、自分を呪った。
それからアレンは強くなると言って旅に出てしまったのだ。彼は自分の無力さを嘆く訳でも私を恨むでもなく、ひたすらに前向きだった。
“ミンシア、必ず強くなって迎えに行くから。それまで待っていてほしい。”
私はその言葉を信じて、仲間の墓があるこの街に留まり続けている。他の街に行けば私の噂を知らない者も多いだろう。だけど、この体質のせいで、私は街から離れることが出来なかった。また、人の命を奪ってしまう。そう思っていたから。
でも、生活するには金が必要だ。そのために、私はギルドへと訪れる。
「死神だ…」
「また来たのかよ。」
「あいつのせいでパーティーが全滅したんだろ」
「一人生き残ったって話だぞ。でも、逃げ出したとか」
「そりゃあ、そうだろ。死神といて得なんてないぜ。」
「ね、ねぇ…この街にも魔物来るんじゃ」
「城壁はさすがに…でも街の周りには魔物が多いって聞くな。」
「早くどっか行ってくれないかな」
ひそひそと話し声が聞こえ、私へと向けられる視線は冷たい。いつまで経ってもこれだけは慣れない。グッと歯を食いしばり、泣きそうになるのを堪えて、私一人でも受けられるような依頼を探した。
「なあ。」
依頼は色々あって、ランク付けされている。私一人でも受けられるのはEかDランク。それも内容による。
「おいってば!」
「ひゃ!」
肩を叩かれて私はビクリと体を跳ね上げる。変な声も出てしまった。
何事かと後ろを振り向けば、茶髪のショートヘアに青い瞳の少年が立っていた。私の反応に少し驚いた様子だったが、私がそちらを向くとニッと笑う。
「お前が死神か?」
「え?」
突然聞かれて私は戸惑う。ひそひそと噂はされても、面と向かって聞かれたのは初めてだからだ。
「違うのか?」
「い、いえ。確かにそう呼ばれているわ。」
「そうか。俺はトーマ。名前は?」
「ミンシア。」
ニコニコと笑っているトーマは、まるで私を探していたかのような様子で見つけられて、なんだか満足そうだった。
「一緒に依頼を受けてくれないか?」
私は彼の言葉に耳を疑った。死神か?と聞いた時点で、私の噂は耳にしているだろう。それなのに、依頼の同行を申し出るとはどういうことなのか。
「その体質が役に立つんだよ。」
「役に立つ?」
「そう。」
明るく頷くトーマが嘘をついている様子はない。この魔物を引き寄せる体質を、役立つと言われたことなんて一度もなかった。アレンたちですらそんなことは言わなかった。
私にとってこの呪われた体質は、マイナスにしかならないと思っていた。だけど、役立てると言われて、私は彼の話を聞いてみようと思ったのだ。
トーマに案内されるままついて行くと、そこには2人の冒険者が待っていた。1人は色気たっぷりな女性でおそらくは魔導士。魔力を増幅させるアクセサリーや杖を手にしていた。もう1人は体格のいい青年で、斧を背中に吊っている姿から戦士だと分かる。
そして、トーマは剣士と人数は少ないがバランスの良さそうなメンバーだった。
「こいつらは俺の仲間で、イオラとバルカスだ。」
「よろしく、死神ちゃん。」
イオラと呼ばれた魔導士の女性がにこりと微笑んで言う。死神なんて嫌な異名だと思っていたが、ちゃんづけで呼ばれる日が来るとは思ってもいなかった。
少しだけ気持ちが軽くなった気がした。
「俺らとパーティーを組まない?」
「え?私と?」
トーマに言われて私は思わず聞き返すと、他に誰がいるのさ。と、呆れられてしまった。
「ミンシアのそれを使って魔物の討伐をしたら、効率良いんじゃないかなって。もちろんランクは低いものにするつもりだよ。いくら普段倒せる魔物でも、束になって掛かられたら危険性が高くなるからね。弱い魔物限定さ。」
「…」
「それに、どうしても危なくなったらイオラの移動魔法で逃げれば良いし。」
トーマの言葉にイオラが頷いてニコリと微笑んだ。
「大丈夫。飛んで逃げちゃえばいいのよ。」
「イオラもこう言ってる。それに、危険が少ない様に考えて依頼は受けるし、どうかな?」
「…それなら」
トーマが嬉しそうにガッツポーズをして、イオラたちもホッとしたような笑顔を見せるのだった。
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