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靴を投げて始まる恋物語? 前編

お金のために結ばれた婚約。

それでもメリッサはこの婚約を大切にしていた。


それなのに結婚式当日に事件は起こる。


メリッサは幸せな結婚が出来るのか?



全2話の短編です。

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更新:2022.4.17

 夢にまで見た結婚式。花嫁の衣装を身にまとい、教会の扉の前で今か今かと合図があるのを待つ。扉の向こうでは白のスーツに身を包んだ、婚約者であるサミュエルが待っているのだろうと、想像しただけでメリッサの胸はときめいた。


 少し気の弱いところがある彼女の婚約者は、彼女より2つ年上で侯爵家の長男。メリッサは伯爵家の次女で、本来ならあり得ない結婚話だ。この奇跡的な婚約が決まったのは、メリッサの父が古くからサミュエルの父と仲が良く、事業拡大のために援助してもらうなど交流があったためだ。

 つまり、メリッサにとって玉の輿というやつだ。彼と結婚すれば将来安泰が確約されたようなもの。それも彼女の心を弾ませる理由の一つだった。


 なんて素敵な未来が待っているのだろうと想像していたら、扉が小さく叩かれる。合図だ。ゆっくりと重々しい扉が開かれる。

 教会内はガラス張りの天井で光をたっぷりと取り込んで輝いていた。青々とした木々の葉がさらに美しくしている。


 そんな神秘的な景色の中、白のモーニングコートを着たサミュエルが、こちらを見守っている。少し緊張しているのか、表情に余裕がない。


 メリッサは晴れやかな気持ちで、父のエスコートに合わせてバージンロードを歩く。一歩一歩と歩く度に緊張が高まる。

 いくらドレスを着慣れているとはいえ、さすがにウエディングドレスは緊張する。と、メリッサは思う。周りの視線を感じながら、裾を踏まないようにと慎重に歩いた。


 なんとか転ばずに教壇の前まで来れば、エスコートの相手がサミュエルに交代する。


「とても綺麗だよ。」


 ボソリとメリッサにだけ聞こえるように言うサミュエルに、彼女の胸が跳ね上がった。緊張して震える手を彼の腕に置き、神父の方を見る。神父が誓いの言葉を述べる。


「サミュエル・アルバートン、あなたはメリッサ・アンジェリーニを妻とし、健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、妻を愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」


「…はい。誓い」



 バンッ!




「ちょっと待ちなさい!!」





 教会の閉ざされたはずの扉が勢いよく開らかれる。そしてそこには、ウエディングドレスに身を包む少女が二人立っていた。


 一人でも驚きなのに、なぜ二人も?と、メリッサは開いた口が塞がらなかった。きっと驚く程、ウエディングドレスが似合わないような顔をしていただろう。

 そしてさらに驚くことに、乱入してきた新婦のどちらもメリッサの知っている顔だったということだ。


 隣のサミュエルを見ると、焦った様子で冷や汗をかいている。どうやら身に覚えがあるようだ。


「サミュエル!私との約束はどうなったの!?婚約を解消して、私と結婚するって言ってくれたじゃない!あれは嘘だったの!?」


「何言ってるのよ!サミュエルは私と結婚する約束をしているのよっ!」


 並んだ二人は何やらもめ始める。薄紫色のロングヘアをまとめている年上の女性がヴィオラ。一方、茶色の少しウェーブした髪をまとめている私と同じ歳の女性がソフィア。どちらも侯爵家のご令嬢だった。


 メリッサがサミュエルの家に行くと、必ずといっていいくらいの頻度で彼女たちは彼の家にいた。側室を取るのが当たり前のこの国では、それ自体は珍しいことじゃない。


 だが、この状況はどう言うことなのか?と、メリッサは混乱していた。当然、両家の親族も唖然と二人の花嫁を見ている。


 メリッサが睨み付けると、冷や汗を流すサミュエル。


「こ、これは…」


 彼が言葉に困っていると、二人の花嫁がこちらに向かって来た。全員がサミュエルを見て、彼の答えを待っている。

 そんな三人の花嫁を前にして、サミュエルは戸惑っていた。


 “って、なんだよこの状況は…。”


 メリッサは渦中の人なのに、第3者的な位置から冷静にその様子を見て思う。


「何で、メリッサと結婚式を挙げようとしているのかしら?彼女とは婚約を解消するって言ってましたよね?」


 ソフィアが言って、ヴィオラも頷いている。


「婚約解消?…なんの話かしら?サミュエル?」


「えっと…その…」


「貴女みたいな格下の女と結婚するなんて考えられない。それに、僕は君を愛しているんだ。と、言っていたのは嘘でしたの?」


「あら、聞き間違いかしら?ソフィアの言い方だと、まるで自分がサミュエルの相手だと言っているように聞こえますわね。」


「そう言いましたわ。ヴィオラこそ、まるで自分がサミュエルの婚約者だと言いたそうですけれど、間違っていましてよ?彼と婚約するのは私です!」


 睨み合う二人。これではせっかくのウエディングドレスが台無しだ。


「ま、待って!僕のために争わないでくれ!!」


 サミュエルの言葉に、メリッサは虫でも見るような嫌悪の顔を彼に向けた。言うまでもなく、自分のウエディングドレスも台無しだろう。と、思う。

 せっかくの自信作なのに。と、彼女はため息が漏れた。


 しばらく黙って揉める様子を眺めていると、二人を宥めていたサミュエルがこちらを振り向いた。


「ご、ごめんっ!!」


 頭を下げて謝るサミュエル。だが続いた言葉は耳を疑うものだった。


「君との婚約は解消させてもらいたい。やっぱり僕は彼女たちを愛しているんだ。」


 彼女たち?せめて一人に絞れよっ!と、メリッサは下品な言葉をなんとか飲み込む。


「だから、き、君にはここから退場して欲しい。ただでさえややこしいのに、関係のない君がここにいると大変なんだ。分かってくれるよね?」


 この人は、何を言っているのだろう? メリッサは同じ人間と話していたつもりなのに、まるで言葉が通じないものと話している気分になる。





 だが、このままでは埒が明かないとはメリッサも思う。それにこんな場所にずっといるのも嫌だった。

 彼女はそう思って、とても癪だったがサミュエルの言うとおりその場を辞することにした。




 控え室に戻り、メリッサは事の次第を整理する。今日は自分ほの晴れの日だったはず。 どうしてこうなったのか?考えても疑問が積もるばかり。

 自分の結婚式に花嫁が、二人も乱入してきた。そして、自分は対象外だから退場しろと言われて、ここで待機している。おかしくはないか?と思う。頭が痛くなり、手で押さえてため息が漏れた。



 コンコン



「メリッサ…」


「お父様、お母様。」



 部屋に入ってきたのは彼女の両親で、二人とも落ち込んだ様子だった。それはそうだろう。自分の娘が結婚式で振られたんだ。気が狂っても仕方ないと思うが、メリッサの両親はそこで喧嘩できるようなタイプではない。泣き寝入りするタイプの人間なのだ。


「…すまない。」


「お父様が謝ることではありませんわ。それより、どうなりそうですか?」


「サミュエルとの婚約は解消されることになるだろう。今はまだ揉めているが、ヴィオラかソフィアとの結婚が決まりそうだ。」


「そう。」


 何となく予想はしていた。侯爵家のご令嬢が結婚式に乱入してきたんだ。伯爵家が敵うはずもない。


「メリッサ…」


 母は目に涙を浮かべて、メリッサに申し訳なさそうな顔を向ける。


「大丈夫よ…。ねぇ、お父様、お母様。悪いのですが着替えたいので、メイドを呼んできてもらっても良いですか?」


 メリッサが言うと心配そうな顔を向けたが、微笑んで見せると父が母の背中を押して部屋を出た。


 ふぅ…これで少しの間は一人になれそうだ。と、メリッサはホッと安堵の息をつく。

 窓の外をみれば鮮やかな緑がまるで絵のように見える。気になって窓の前まで行くと、緑の良い香りに深呼吸をすれば心が洗われる。窓の外に広がるのは、木々に囲まれ緑が美しい庭。その奥には先程まで私がいた教会が見える。


 どうやらまだ、揉めているのだろう。教会は重い扉を閉めたまま沈黙している。

 メリッサは徐に靴を脱いで手に持ち、勢い良く振りかぶった。


「バッカヤローーー!!!」


 そして教会に向けて叫びながら、その靴を思いっきり投げつけた。投げられた靴は勢いよく真っ直ぐに飛んでいく。



 ガサッ



「え?あっ、ちょ、と、止まってーーー!!!」


「え?」


 木の影から出てきた人物に、メリッサの靴は見事にクリーンヒットした。


「イテテ…」


 靴が頭に命中した青年は、頭を手で擦りながら落ちた靴を拾う。そして、不思議そうに辺りを見渡している。


「す、すみませんっ!」


 メリッサの声に青年が彼女の方を向いた。そして、ゆっくりとメリッサの方へと向かって来る。怒っているだろうなと思いながらも、メリッサは青年がこちらに来るのを待つ。


「君がこれを?」


 尋ねる青年は、透き通った水色の髪に澄んだ深い青色の瞳が美しい。先程の事がどうでもよくなるような美男子だった。


「聞いてる?」


「えっ?あ、はい。…私のです。すみませんでした。怪我はありませんか?」


「大丈夫だけど…君…」


 普通に考えて、靴を投げられて頭に当てられたら誰だって怒ると思う。メリッサはそう考えて怒られる覚悟を決めた。だが彼女の予想に反して聞こえてきたのは、楽しそうな明るい声だった。


「ここからあそこまでこれ投げたの!?すごい力だねっ!」


「えっ?」


 楽しそうにいう青年に、メリッサは驚いたがすぐに恥かしさで頬が染まっていくのが分かる。


 よし、話題を変えよう。メリッサはそう思い、話をそらせる。


「あ、あの貴方、結婚式の参列者ではないの?」


「あ、ああ。証人として呼ばれていたんだけど、何だか揉めているからね。」


 困った様子の青年にメリッサは申し訳ない気持ちになる。だが、青年は毒気のない顔でとんでもない言葉を続けた。


「女性関係に締まりのない男ほど、情けないものはないよね。見ていられなくて、とりあえず散歩してたんだよ。」


 なかなかすごいことを言うなと思う。恐らくはサミュエルが呼んだ証人だろう。彼の性格ならば、自分より格下を選ぶだろうから、メリッサと同じ伯爵クラスだろう。なのに、この物言いは余程サミュエルを嫌いなのだなと感じた。


「…ああ、自己紹介がまだだったね。」


 これは失礼と、礼を取る青年。その優雅な動作にメリッサは見とれてしまう。


「リアム・マルティネスと言います。よろしくね…メリッサ・アンジェリーニ。」


「リアム…王太子の名前?え?それに、わ、私の名前?なんで?」


「アハハッ…お、面白いね君。とりあえず少し落ち着きなよ。ね?」


 ね?って言われて落ち着けるわけない。リアムって言ったらこの国の王太子の名前だし、それが本当なら何で彼がここにいて私の名前を知っているのだ?そ、それに、もし本物なら私は王太子に靴を投げつけたってことになるじゃないか!!

 と、メリッサの頭は再び落ち着きをなくした。そしてとんでもない方に考えがまとまった。


「あ、あなた…」


「はい、なんでしょう?」


 メリッサは王太子に向けてビシッと指を突きつける。





「王太子の名を騙る不届きものねッ!!」





 それがメリッサとリアムの出会いとなった。


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