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ヘテロドックスは眠らない  作者: 宮野 森
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溺れる人魚-プロローグ-

ハードボイルドな小説が書きたかったので書いてみました。

色々な小説に影響を受けているので、後で文章など書き換えるかもしれません。

人間は、幸せでなくても愛さえあれば生きていける。

-ドフトエフスキー-


大阪に来て初めての秋に僕は人魚を見た。水中を力強く蹴るのは尾ヒレではなく、水泳選手らしい鍛えられた二本の脚だったけれど、優雅に泳ぐリサはおとぎ話の人魚姫そのものだった。

「私ね、別に好きな人が私を好きになってくれなくてもいいんだ」

どんな話の流れでそんな発言が出たのか今となっては思い出せないが、学校が終わり電車のホームでそう呟いたリサの横顔だけは今でも鮮明に覚えている。

「好きな人いたの?」

どこか浮世離れした彼女から同年代の女の子らしい事を言われたのが珍しくて思わず聞き返していた。

「うん、いるよ。 週刊誌にタレコミしないでね」

小さく笑いながら「これでも将来有望な水泳選手なんだから」と冗談を口にする。そんな冗談につられて僕も笑みを浮かべた。

「しないよ。 それにしてもリサは大人だね、そんな考え方なかなか出来ないよ」

「別に私が大人だからそう思ってるわけじゃないよ、そう思えるくらい好きな人がいたってだけ」

そう思えるくらい好きな人、という言葉にクラスメイトの何人かが悲鳴をあげた気がした。あわよくば将来有望な水泳選手である美少女とお近づきになりたいと思ってる男子は少なくないのだ。そんな事など知らないリサは、不意にこちらを向いて穏やかに微笑んだ。

「アキラくんは居ないの? そう思えるくらい好きな人」

「僕は……」

そんな人は居ないよ。と言いたかったが、それを口にするのは躊躇われた。行き場をなくした言葉は熱く喉の奥で引っかかり、電車のアナウンスと共に消えた。ほんの少しの沈黙の後で、電車が通り緩やかな風が頬を撫でる。

「じゃあ私こっちだから」

僕の返事を待たず「バイバイ」と告げ、背中を向けたリサは颯爽と車内の中に乗り込んで、人混みの中へと消えた。

もしかしたらこの時すでにリサは覚悟を決めていたのかもしれない。そんなどうしようもない事を数ヶ月が経った今でも考える。

リサがおとぎ話の人魚姫のように死んだのはそれから二日後の事だった。

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