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ひなぎく  作者: くらむ
6/22

6 ドッペルゲンガー

 そこでぼくが目にしたものとは、ひなぎだった。

 えええ!?

 ひなぎが……二人?

 しかもよりにもよって、二人目のひなぎは、ちょうどぼくから見て真正面のテーブルに、

「ふーんふーんふーんふーんふーんふーふふーん♪」

 と、バッハの『フーガの技法』の鼻歌を歌いながら、ついたのだった。

 

 鼻歌を歌っている方のひなぎが、一瞬ぼくの方をちらっと見る。

「げっ」

 ぼくは反射的に、ゲタをはいている方のひなぎの後ろに隠れてしまった。

「どうしたの? 耕作くん」 

 と、ゲタをはいている方のひなぎは、二人目のひなぎに気づいていない。

 なんだよこの状況。 


「ふふふんふんふんふふふんふんふふふふふふふふふんふんふんふーんふーんふーんふーんふーんふふふーん♪」

 と二人目のひなぎは、足をぶらぶらさせながら、注文札の番号が呼ばれるのを、幸せそうにして待っている(というかすごい鼻歌だな)。

 あれは一体……やっぱり双子だったとか?

 

 待てよ、そうか、なるほど。

 聞いたことがある。

 ドッペルゲンガーだ!

 マジか!


 言い伝えによれば、もし、自身のドッペルゲンガーに出会ってしまった場合、その人は死ぬ、と言われている。

「はわわ」

 とぼくは言った。

 もしそうなったら大変だ!

「どうしたの、耕作くん?」

 とゲタをはいている方のひなぎがキョトンとしてぼくを見たので、慌ててなんでもないふりをした。

「いやいやいや、なんでもないよ! なんでもない! ほんとのほんとになんでもない!」


 ……ほんとのほんとに?


 ……最終的なアンサー?


 と、突然どこからかまた、変な声が聞こえてきて、

「さ、最終的なアンサー」

 とぼくはつい言ってしまう。

「なーんかあやしい」

 と、ゲタのひなぎがジトーッとぼくを見つめた。

「なんでもないよ? あは、あは、あははははは!」

 ぼくの演技に、ひなぎの命がかかっていると思うと、つい動きがぎこちなくなった。

「あははははは!」

「ふーん……………まあ、いいけど」

 と言われぼくはホッとした。 

 なんとかごまかせたぞ。


 だけど、この場合、目の前にいるひなぎと、その向こう側にいるひなぎと、どっちがドッペルゲンガーなんだ?

 ……どう考えても、「この令和の時代に」ゲタなんかはいているひなぎの方が、あやしいに決まっているのだった。

 だけど、とぼくは思う。

 どちらがドッペルゲンガーだとしても関係ない。

 とにかくこの二人を出会わさなければいいのだ。

 がんばるぜ!


 と決意を固めたその時である。

 鼻歌ひなぎ……とぼくは省略する……の番号が呼ばれたらしくて、

「はーい!」

 といきなり元気よく手を挙げた(わざわざ手なんか挙げなくてもいいのに)。

 その声にびくっととしたゲタひなぎ……とぼくは省略する……が、

「な、なんなの?」

 と後ろを向いてしまった。

 あ。 


「「ああ~! わたしだ~っ!?」」


 終わった。

   


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