夢の中の少女
1
目が覚める。夢を見た。またあの夢だ。近頃おなじ夢ばかり見ている。
急速に薄れていく夢の記憶の中で、一人の少女の顔だけが鮮明に思い出される。彼女は何か叫んでいた。僕に向かって。それはとても重要なことだった気がする。
でも聞こえない。何か大きな音にかき消されて、彼女が何を言ったのかはどうしても聞き取れない。そんな夢だった。
2
「どうしたんだ、浮かない顔して」
午前中の仕事が一段落して、休憩していた僕のところへ同僚が来て言った。
「ちょっと、気になることがあるんだ」
僕は最近よく見る夢のあらましを説明した。
「それは不思議だな。特に、何度も見るというのが面白い」
「他人事だと思って」
「でも、ただの夢だろう。そこまで気にすることはないんじゃないか」
「それが、気になるんだ。彼女が僕に伝えようとしたことが。僕はどうしてもそれが知りたい気分になるんだ」
「愛の告白でもされたのか?」
「いや、そんなんじゃないんだ。もっと、とても大事なことだったような気がする」
同僚は少し真剣な表情になり、心配そうな目で僕を見る。
「彼女に見覚えは?」
「まったくない」
「本当に?」
「記憶力には自信があるんだ。一度でも会ったことがあるなら分かるはず」
「ううむ、手詰まりだな。他にヒントはないのか」
「確か、たぶん、外だったと思う。僕と彼女との間には少し距離があった気がする」
「ちょっと、その女の子を描いてみてくれないか」
同僚は僕に紙とペンを渡した。
彼女のことは鮮明に覚えている気がしていた。それでも、描けたのは下手な漫画の落書き程度の絵だった。
「意外にうまいじゃないか。でも、これで顔は判別できそうにないな」
「当たり前だ。僕は似顔絵師じゃない」
「でもこの特徴的な襟の形のブラウスには見覚えがある」
「なんだって?」
「隣町の、◯◯学院女子高のものだ」
○○学院女子高、初めて聞く名前だった。
3
その日の午後、僕は仕事を早めに切り上げて、電車で隣町まで来ていた。
○○学院女子高の生徒が使う駅で降りる。そこから地図を見ながら、高校まで歩いてみることにした。
ちょうど下校する時間なのか、女子高の生徒が駅に向かって歩いている。僕はすれ違いながら、生徒の顔をちらちらと見るが、夢の中の少女には出会わなかった。
我ながら怪しいな、と思う。でも、どうしても知りたかった。この記憶のもやもやがなんなのか、もし彼女に会えれば分かる気がした。
しばらく歩くと交差点に出た。信号を渡った向こう側に、高校が見える。なかなか立派な高校だ。信号が赤になったので、横断歩道の前で立ち止まる。
彼女だ。
道路の向かい側で、一人の少女が信号を待っている。高校の制服を着ている。彼女は顔を伏せていたが、夢の中で見た少女に間違いないと僕は確信した。
僕は彼女から目を離せなくなる。彼女が顔を上げ、僕と目が合った。その瞬間、けたたましいクラクションの音が鳴り響いた。
彼女が僕に向かって何かを叫ぶ。でもクラクションの音が大きくて、僕は聞き取れない。
それからゆっくりとした意識の中で、僕は軽自動車に跳ね飛ばされた。
どうやら、暴走したトラックが交差点に進入し、軽自動車に衝突したらしい。軽自動車はすごい勢いで方向を変えられ、僕の方に進路を向けた。そんなことを、スローモーションのような景色の中で僕は確認した。
そうか、彼女はそれを見て、とっさに僕に教えようとしてくれたんだ。
意識が急速に薄れていき、脳が逆流するような感覚を覚えた。
1
目が覚める。夢を見た。またあの夢だ。近頃おなじ夢ばかり見ている。
急速に薄れていく夢の記憶の中で、一人の少女の顔だけが鮮明に思い出される。彼女は何か叫んでいた。僕に向かって。それはとても重要なことだった気がする。
でも聞こえない。何か大きな音にかき消されて、彼女が何を言ったのかはどうしても聞き取れない。そんな夢だった。