ゲームの世界
1
そのころの僕は、家に引きこもってゲームばかりしていました。あることがあってから、あまり外へ出なくなったのです。
家にあったゲームをほとんどやり尽くしてしまうと、僕はインターネットでゲームをダウンロードするようになりました。ただでダウンロードできるものでも、面白いゲームがたくさんありました。
そのゲームは、いろいろなサイトを巡っている時に見つけることができました。最初はあまり面白そうとは思わなかったのですが、やっているうちに病みつきになったのを覚えています。
ゲームを始めると、画面の真ん中に主人公の男が立っています。しかし、プレイヤーはこの男を動かすことはできません。
プレイヤーは、この男の環境を操作することができるのです。例えば男の近くにリンゴを置くと、男がそれを取って食べる、そのようにして、この男を動かしていくのです。
このゲームには、特にゴールというものがありません。男を自分が満足するように自由に動かしていくだけのゲームなのです。
2
僕は、いろいろなものを男の周りに作りました。家や家族、隣人、そして男の住む町を作っていきました。
男の勤める会社を作ると、男は毎日出勤するようになりました。男は朝から晩まで働き、両親の住む家に帰ってくる、そのように生活するようになりました。
しばらくの間、男は順調に働いていたのですが、次第に様子がおかしくなっていきました。仕事中にミスをしたり、夜あまり寝られなくなったりするのです。
僕はなぜそのようになったのか考えました。そして、男に会社と家を往復させることだけしかさせていないことに気づきました。
僕は、男の家の近くにテニスコートを作り、そこでテニス教室を開きました。そして、会社の帰りや休日に、男にテニスをさせるようにしました。
テニスを始めてから、男は仕事でミスをしなくなり、夜もよく眠れているようでした。僕は思ったとおりに上手くいったので、とても満足しました。
3
次に、僕は男が通うテニス教室に、若くてきれいな女の子を作って通わせました。すると、男は以前より張り切ってテニスをするようになりました。
その女の子を作ってから、男は外見に気をつけるようになり、仕事もがんばるようになりました。男の急激な変わりように、僕は見ていておかしくなってしまいました。
また僕は、男と女の子がテニス教室でよく一緒になるようにしました。すると、男と女の子は次第に会話をするようになりました。
男と女の子が偶然に町で出会うようにもしました。何度か繰り返していくうちに、男と女の子はどんどん仲良くなっていきました。
男は、女の子をデートに誘いたいようでした。しかし自信がなく、なかなかできないようでした。
僕は、男が仕事で活躍するようにしました。職場での男の評価は高まって、周りの人たちよりも早く昇進することになりました。
ある日のこと、とうとう男が女の子をデートに誘いました。そして、女の子はすぐにそれを受けたのです。
4
僕はそこで、少しつまらない気分になりました。何もかも上手くいって、男が少し憎らしくなったのです。
デートの日が来ましたが、僕は女の子を待ち合わせ場所に向かわせませんでした。待ちぼうけをくらった男は、何度も女の子に連絡していましたが、それをつなげないようにしました。
テニス教室で一緒になっても、女の子に男を避けさせました。男は何とか話をしたいようでしたが、そのうちに女の子はテニス教室をやめてしまいました。
男はとても落胆しているようでした。仕事にも身が入らず、テニス教室にも行かなくなりました。
何度も男は女の子に電話をかけてみるのですが、なかなかつながりません。しばらくすると、電話番号自体が変わってしまったようでした。
僕は、ショックを受けている男を見て、面白がっていました。男が弱っていく様子が、なぜか快感なのです。
ある日のこと、男が仕事で町へ出ていると、女の子が歩いていました。男は声をかけようと思ったのですが、よく見ると、女の子は若い男と楽しそうに腕を組んで歩いていました。
それを見た男は、仕事をほっぽりだして家に帰ってしまいました。よほどショックだったのか、そのまま寝込んでしまいました。
男はそれから、会社に行かなくなりました。動けるようになっても、家に引きこもってゲームばかりするようになりました。
男は家にあったゲームをほとんどやり尽くしてしまいました。そこで、インターネットでゲームをダウンロードするようになって……。
僕はふと後ろを振り返りました。誰かに見られているような気分になったのです。