浮遊
ひとときの浮遊なら味わえる。
がんじがらめの世の中。
見えない緊縛で諦める前に、裸になって。
ここだけならいいでしょう。
冷たい床に膝をつき、自らの熱を感じとる。
満たされない疲労を流してもいい。
忌々しい嫉妬を流してもいい。
惑わす自惚れを流してもいい。
残骸を絡め取る排水口に、慰めの雫が落ちる。
誰もが見ていないけど、騒ぎたてないように。
滑らかな水面に泣きっ面を映して。
僅かな贅沢が湯槽から滑り落ちていく。
今だけならいいでしょう。
生き続けるために歩く足を、拮抗する重圧に解き放つ。
ありもしない毒に犯される身体を、産まれる前の想い出の中に。
浮きつ沈みつ、懺悔と後悔はいずれ消え失せる。
許せる日は、いつか必ず。
胸踊る航海は、取り敢えず満たされる。
見せたくない涙は、全身を沈めれば海になる。
母なる海は遠いから。
生命の泉は見つけられないから。
それでも、還る場所は知っている。
だからここで、赦されるまで沈んでみる。