悪役令嬢のお嬢様がヲタク(萌え)文化を広めるために手段をまったく選びません
私の名前はセバス・ヴァリアント。
黒髪のバーリアント家に仕える執事です。
うちのお嬢様はとても変わっていらしゃいます。
あれは15歳の時でした。
ある日突然、
「やばいこのキャラ悪役令嬢じゃん!?
フラグ回避しなきゃ婚約破棄じゃん!死刑じゃん!?
てかここオタク文化ねぇぇぇぇぇぇ!!!」
という意味不明の言葉を叫び、その日以来お嬢様は変わりました。
「オタク文化をうちの領地だけでも浸透させる!!!」
という、意味不明の言葉とともに、あらゆる手段を行使するようになったのです。
まずオタク文化を広めるためにも萌え対象が必要だわ!
本の普及よ!
とおっしゃっていたので、私が劇場の俳優達によく貴族のお嬢様はファンレターを送っていますがとお答えすれば
「あ、私二次専なの。三次パス」
と、意味不明な発言とともに、ありえないという顔でため息をつかれました。
二次や三次の違いがわかりませんが、お嬢様にとっては大切な基準なようです。
「萌え文化を広めるにはまず何より先に、市民一般の識字率をあげるべきだわ!
文字が読めなければ物語を書いても誰も読めない!
萌えを語るには他の人も本を読めなきゃ!!
学校よ!!!」
と、張り切りだし、旦那様に直談判に行き、そんな予算はないと断られました。
ここで、お嬢様の凄い所は
「お金がないなら儲ければいいじゃない!」
と、護衛をつれて一ヶ月ほど姿をくらまし、戻って来たときには伝説のブラックドラゴンを素材として持ち帰ったのです。
倒すどころか世に現れれば世界を滅ぼすと言われていたブラックドラゴンをです。
ええ、夢かと思いました。
というか、今でも悪い夢ではと思っています。
お嬢様に聞いた所
「バグ技で経験値ボーナスモンスターメタルマックスを無限に倒せる場所でレベル999にして、古代の遺跡に行ってきた!」
と、訳のわからない供述をしておりました。
はい。通常騎士でも最高レベルは35と言われています。
999などといえば、伝説の神級です。
理解はできても納得は出来なかった私はそっとその言葉を聞かなかったことにしました。
そしてそのブラックドラゴンを闇市で流し、豊潤な資産を得たお嬢様は平民も通える学校をつくりました。
子供達を働き手と使っている市民達が通わす事などないだろうと思っていましたが「給食」という支給をすることによって、市民が子供たちを積極的に学校へ通わすようになったのです。
「給食」にはその日の夕飯にとモンスターボードルボアの肉を持ち帰らせました。
農民たちは貴重なタンパク源がもらえるとこぞって我が子を学校へと通わせました。
お嬢様にその肉はどこで手に入れたのかと尋ねれば、
「簡単よ!
まずHPが20%未満になるとボードルボア(猪型モンスター)を召喚する悪霊師のモンスターを回復の泉にくくりつけて、鉄球を落とすの!
そうするとHPが20%未満になるからボードルボアを召喚するわ!
召喚する場所は定位置だからそこに召喚されると、鉄串の罠の設置してある落とし穴に落ちるわけ!
それで即死✩
あとは串刺しになったボードルボアを回収するだけ!
悪霊師は回復の泉で回復するから無限増殖よ!」
と、とても人間の所業とは思えぬ事を笑顔で言います。
私はその言葉も聞かなかったことにしました。
次に紙です。
お嬢様の学校は本来なら貴族でも買うのが高額になる紙製の本を無償で渡していたのです。
お嬢様にその資源はどこから手に入れたのかと尋ねれば。
「簡単よ!
まずHP20%いかになるとトレント(木製のモンスター)を召喚するアフロリーデを(以下略)」
はい。そのあとの言葉は私は聞かない事にしました。
いくらモンスターとはいえども同情を禁じ得ません。
そしてお嬢様のその献身的な領地への貢献は、領地の皆に認められ、平民たちの間では聖女とさえ言われるようになっていました。
ええ、もちろん市民の皆様はお嬢様のオタク文化を広めて萌えトークなるものがしたいという野望も。
配布している肉や紙などに使われる素材を量産するのにどれほど惨い事をしているかは知りませんから。
その事実を知っているのは一部のものにすぎません。
そして、我領地の識字率が広まり、お嬢様が推奨する小説家や漫画家という芸術分野の発展しだした頃。
事件がおこりました。
国が漫画や小説の発行の停止を求めてきたのです。
確かにお嬢様が身分を隠し執筆した本の中には悪い国王を倒し、新しい王になったなどという危険思想のものもありました。
そういった危険思想のものが国としては認められなかったのでしょう。
普通ならそこでその本を発行停止にするのですが……お嬢様は違いました。
「この話は私の最萌えの物語なの!?
引き裂かれた二人が国を滅ぼしキースとアンリがラブラブになるのが面白いのじゃない!
この話の萌え話しをするために今まで頑張ってきたのに発禁とかありえない!!
次は萌え仲間とカラオケをするために歌を広めるという仕事も待っているのに、こんなところで立ち止まれない!
こうなったら下克上よ!!!」
と、旦那様も周りの家臣も止めるのを聞かず、国に喧嘩を売りました。
一人で。
はい、誇張でもなんでもありません。
本当に一人で乗り込んでいき、制圧してしまったのです。
ええ、もう心臓が止まるかと思いました。
そして国を制圧し、女王となったお嬢様はその手腕で国を豊かにしました。
オタク文化が根付くにはまず世の中が豊かでないと余興に力を注げないもの!!!とおっしゃりながら。
……それでも。私は知っています。
お嬢様の言葉は半分は本当だとは思いますが、半分は照れ隠しなのだろうと。
「ん?なに笑ってるの?セバス?」
女王の執務をおえ、私と二人きりになったところでお嬢様がだらしなく足をくんだ格好で私に聞いてきます。
「いえ、お嬢様も立派になられたと思いまして」
私が微笑んでお嬢様に言えば
「何よ急に。
別に女王なんかいつまでもやってるつもりないからね!?
オタク文化が普及したらすぐに王位なんて譲って、私は平民になってオタク道を満喫する予定なんだから!」
お嬢様がムキになっていうのがおかしくて
「ではそういうことにしておきます」
と、微笑めば
「……なに!?その何でも見透かしてますみたいな態度!
私そういうの一番嫌いなんだから!」
と、拗ねてしまわれる。
そういった姿がおかしくて。
私はこの人に仕えられて幸せなのだと心から思います。
しばらくの沈黙のあと
「……あのさ。セバス」
と、お嬢様が意を決したかのような顔で私に問いかけてきます。
何か重要なお話でしょうか?
「はい?」
と、答えれば、一度視線をさまよわせた後、ぐっと力をいれて私を見つめ
「もし平民になっても、私について来てくれる?」
真剣な眼差しで聞いてきます。
思っても居なかった言葉に私が言葉を失えば
「……やっぱりダメ?」
と、悲しそうな表情になります。
まったくこの人は。
「い、いえ。
私はずっとついて行くつもりでしたので。
お嬢様が平民になったら仕えないというその発想がありませんでした」
私がいえば、お嬢様が顔を真っ赤にしてほころばせた。
この人は私に対してだけは本当に顔にでやすくて。
そこがまた愛おしいのですが。
「うん!ありがとうセバスが一緒にいてくれるなら嬉しい!」
と、微笑むそのお姿が眩しくて。
私もつられて微笑むのだった。