第三話『風林火山!鋼鉄戦線を突破せよ』
[7 January 1944 Siberia]
main characters
西住竹一
スターリン
酒井五郎
「バロン西住、そのまま武装解除し速やかに戦車を引き渡せ。」スターリンは言う。しかし150輌もの最新鋭機動戦車を武装集団に奪われることは安全保障上の大問題であるし、日本の国際的信用も地に堕ちるだろう。そして中国やその他枢軸諸国に対する未知数の脅威となる。何としてもこの戦車群を引き渡してはならない。欧州戦線に到達し、百式の陸上艦隊が到達するまでの時間を稼ぐために。
「運転士、前進せよ。」西住は命令する。運転士「それだば俺達ぁ死んじまうんだべ。」「死んでも構わん。靖国の友が待っている。」運転手が背後を振り返ると、彼は拳銃を突きつけられていることに気付いた。
「機関車からの応答、未だ確認できず。奴らめ、動き出しました。」戦車長はスターリンに報告する。「目標、日本人野郎。152mm榴弾砲、撃て。」スターリンが命令し車長が応じる。「副砲塔の射撃を許可する。」巨大な副砲塔が鈍い音を立て、その巨砲が西住らの機関車を指向する。Doom!砲弾が機関車をかすめ炸裂する。30センチ連装砲を搭載した主砲塔に動く気配はない。機関車相手では勿体ないのだろうか、否、目標が近すぎて俯角が取れないのだ。「各砲塔、自由射撃を開始せよ。何としても奴らを仕留めるのだ。」弾幕はますます激しくなる。
「逃げるなチョッパリ!」金成龍は叫びながら機関車に向い、その手に構えた拳銃コルトM1908を乱発する。「この窓は防弾ガラスなんでね。そんなヘナチョコ玉ではビクともしないんだべ。」金を嘲笑う運転手は内心焦っている。急げばデカい戦車に殺され急がねば西住に殺される。「前も後ろも地獄だ。せいぜい派手に飛ばすんだべ!」機関車のリミッターが解除された。戦車150両を連れる機関車のメーターの針は160キロを超過している。このディーゼル機関車は一体何千馬力なのだろうか。西住は満鉄車両開発部の血の滲むような努力を感じた。
「日本猿共め逃げても無駄だ!前進せよ、最大戦速!」1000t戦車の船舶用大出力エンジンが唸る。しかしその直後、車内に衝撃が走る。「発動機停止!」報告を聞いたスターリンは銃眼から外の様子を確認し、唖然とする。「なぜこんな大陸の奥地に爆撃編隊が...もしやこれが噂の...」
---「航空艦隊、全砲門開け。」旗艦原子力爆撃機「富嶽」機長である酒井司令は命令を下す。「対空戦闘!」1000t戦車から無数の弾丸が放たれるが届かずに、届いたとしても弾かれてしまう。まさに空飛ぶ要塞である。朝鮮北部で発見されたウランによって加速した理化学研究所の原子力動力研究は一定の成果を収め、その研究結果をもとに超小型動力炉が開発されたのだ。
150ミリを誇る1000t戦車の車体上部甲板も空からの砲撃には無力だった。爆弾倉に垂直に搭載された8.8cmFlaK42が一斉に火を噴く。1000t戦車自慢の装甲は蜂の巣となりその巨体は1分も経たずに大爆発を起こした。巨大なエンジンに引火したのか、弾薬庫に誘爆したのだろうか。いずれにせよ、20世紀を代表する鋼鉄の独裁者の壮烈なる最期であった。
☆最新鋭機動戦車
正式名称は「九九式中戦車」。ノモンハン戦後に四研-第四陸軍技術研究所-が開発した決戦機動戦車。従来の短加農砲から一転、長砲身の高初速砲を搭載することで列強の戦車に勝るとも劣らない性能を手に入れた。
装甲:車体前面60ミリ
砲塔前面80ミリ
武装:九九式七糎半戦車砲、一門
九七式車載重機関銃、二丁
時速:最大60キロメートル(整地)
次回予告:第四話『灼熱地獄!くろがねのキャラバンは西へ征く』