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「んあ……」
マキシが目を開けると、2つの太陽の直射日光が視界を一瞬くらませる。
あのクソ女神め、とんでもないところに飛ばしてくれたものだ。
彼女の言うことが夢でなかったなら、ここは異世界というもの。
それが真実であることは、空に浮かぶ2つの太陽から伺い知れる。
ということは、もう一つ、彼女が言ったことも夢ではないと言うことだ。
「畜生、最悪だ……転生チーレムなんて夢のまた夢じゃないか……」
日差しに慣れた彼の視界に、自分の手と足が見える。
黒く、毛深く、力強い手足。
そう、彼はゴリラとして生まれ変わったのだった。
「次会ったらただじゃおかねえからなあのクソ女神ー!!!」
叫び声が2つの太陽の浮かぶ空に響く。
木に止まっていた鳥たちが、驚いて飛び去っていった。
さてこれからどうしたもんかと頭を抱える彼に、空から近づく影があった。
"Grrrrrrrrrrrrr!!"
咆哮がビリビリと大気を震わせる。
羽音が近づき、止まる。
ドオオオン、と地響きと土煙。
"Grrrrrrrrrrrrrrrrrrrrr!!!"
「なっ、ドラゴン!?」
マキシを食べがいのある餌と考えたのか、巨体が首をもたげこちらを見据えた。
「つくづく最ッ低なとこに飛ばしてくれたなぁクソ女神!ああいいよやってやる!生きて!お前のとこにたどり着いて!この腕で殴り飛ばしてやる!」
マキシは地面を蹴り跳躍する。
「喰らえあぁ!フレイムナックル!!」
その拳が燃え上がりドラゴンの頬にぶち当たる。
鱗がバチバチと焼け、その巨体がぐらりと揺らいだ。
反動でマキシは更に上空に舞う。
「トドメぇ!!アイシクルランス!!」
周囲の空気を凍てつかせながら、巨大な槍がマキシの正面に現れる。
マキシは燃え盛る拳で氷の槍を殴りつけその推進力とした。
「喰らえええええ!!」
"Grrrrrrrrrrrrr!!!Gr……"
「はっ!あっけねえなあ!」
巨大な氷の槍に貫かれ、地面に磔にされたドラゴンは、拘束から逃れようとするもそのまま息絶えた。
「よっし、腹ごしらえだ。下処理下処理っと。」
つい数秒前まで自分を餌にしようとしていたものを、逆に喰らう。
魔法を使えるゴリラの前に、羽の生えた大きなトカゲ程度敵ではなかった。
クソ女神はあらすじに登場!TPOなど彼女にはクーポン券以下の価値しかないのだ!