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ジックウ  作者: 藤原・インスパイア・十四六
3/3

京都御苑

ミッションスタート

 京都府警本部から少し東へ出ると、京都御所が出てくる。

 京都御所の中には樹木を大きく茂り、桜も保存状態が良く太い幹を誇っている。

 桜吹雪が舞い散る中、砂利の上で真佐が足を止めた。

 木崎と大町も立ち止まる。


 「この辺りで良いかの」

 「なんだよ」


 真佐が刀を鞘から抜きだす。木崎が一瞬身構える。

 それを見た真佐の口元だけが笑う。


 「安心せい。今さらそちとやり合うつもりは毛頭ない。殺気も出しておらぬじゃろ?」

 「それもそうか」


 木崎が肩の力を抜き、背伸びをする。大町は目を輝かせながら真佐の追尾の術の発動を今か今かと待ちわびている。

 

 「どれ、カズーリとやらの居場所を探るかのう」


 真佐は刀を地面に突き立て、何か呪文のようなものを小さく唱える。

 

 「この国にはおらぬようじゃぞ」

 「えっと、お前の言う国って江戸とかそういうやつ?」


 刀を突き立てたまま、真佐が顔を上げる。


 「馬鹿を申せ。日本国じゃ。木崎、私は現代の世界から来ておるのじゃぞ」


 木崎は、現代の世界という独特の表現に戸惑ったが、大町が説明していた内容を思い出し、納得した。二次元でも時代モノではなく、現代モノのマンガということらしい。

 大町も時には役に立つと思った。大町が満面の笑みで木崎を覗き込んでくる。

 木崎は大町のことを良い方に解釈しようとした自分を瞬時に後悔した。

 真佐が再び唱え、念じ始める。


 「遠いのぉ…。米国じゃ」

 「あ、アメリカですか?!ちょっと待て下さい。実在空想物は今まで京都にしか出現してないんですよ?!それがアメリカ?僕たちはどうしようも無いじゃないじゃないですか」


 真佐が大町を手で制する。


 「ちと待て。ヤツは動いておる…。とてつもない速さじゃ」

 「どうせ、飛行機だろ?」

 「木崎、私も飛行機ぐらい知っておるわ。そんなものではない。この速さ尋常ではないぞ!」


 大町が鞄から古びた分厚い本を取り出す。

 表紙には『DIVINE FIRE』とある。カズーリが主人公として出てくるRPGゲームの攻略本のようだ。

 付箋がいくつも貼ってあり、慣れたてつきで、攻略本を繰っていく。

 木崎は、大町が熟読したと言っていたことを思い出した。


 「そんな古い本よく見つけたな」

 「ええ。被害を拡大させない為にもホシの情報を集めるのは、刑事(デカ)の基本でしょ?」


 大町は木崎に目もくれずに話す。手元は目にも留まらない程の速さでページを繰っていたが、本を綴じ、木崎に顔を向けた。


 「それに僕は彼女たちと仲良くなりたいんです。昔からアニメもマンガもゲームも大好きで、こんな趣味警察の中じゃあまり良い方に思われないだろうなって考えてましたが、実在空想物対策課なら、僕が彼女たちを救ってあげられるのかなって…」


 真佐が小さく咳払いをした。


 「そちの思いは結構じゃが、もう手遅れかもしれん」

 「どういうことだ?」

 「カズーリとやらは、恐らく魔法を使って移動をしておるのではないのか?」

 

 急ぎ大町が攻略本を再び繰り始めた。

 あるページで手が止まり、人差し指で文字をなぞった。そして指が止まる。


 「移動の魔法は、35レベルで覚えるそうですね…」

 

 木崎が本を覗き込む。


 「35レベルねぇ。前にもゲームキャラがいたな。あれは何レベルだったっけ」

 「たしか20レベルでしたね」


 木崎が腕を組み、黙り込む。口は(つぐ)んでいる。


 「まあ、でもゲームタイトルそのものが違うので、レベルだけで強さは測れないと思いますが」

 「でも強いだろ?」

 「恐らく、かなり。このゲームの当時の評価や書き込みを確認していると、32レベル以降スキルや魔法の幅が格段に上がるようなので」

 「それはそれは…嬉しいことで…。真佐、ホシは今どの辺りだ?ハワイ?もっと近かったりして」


 真佐が突き立てた刀が小さく振動する。


 「すでに到着しておるぞ」

 「なに?!」


 木崎と大町が顔を見合わせる。


 「ど、どこに着いたんですか?」

 「ここ京都じゃよ。近いの…、御所内のグラウンドのようなじゃな」

 「木崎さん急ぎましょう!カズーリが荒魂化しないうちに…!!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 カズーリは御所の北側にある広いグランドに降りてきていた。

 グランドには野球をする人々の他、我が子を抱くように結びつけた母親が二人、立って話し込んでいるようだった。

 カズーリは二人の方に近付いていた。


 「この子たちが大きくなる頃を考えると、少し不満ね」

 「不安なんてものじゃないわよ。人口はどんどん減るし、外国人の雇用拡大で経済は良いとは言わなくても、破綻してなくても、今より良くなる要素なんてないんだから」

 「そ、そうなのね。私は難しいことは分からないけど、とにかく不安で…」

 「そうね、子育て世代からすれば、市の支援制度ももっと手厚くしてもらいたいわ。結局人口が増えないことには、経済も良くならないんだから…」


 カズーリが数歩近付く。


 「市がよくないから、不安なのか?」


 急に話しかけてこられて、キョトンとする母親たち。


 「市は市で頑張ってるんだろうけ…」

 「そうよ!市が悪いのよ。いや、府も同然かしら。京都は観光都市なのよ?インバウンド特需も20年前から比べても多くなっているはずなのよ。そういった収益を子育て世代に回さずに、結局人口の多い高齢者にばかり手厚くしようと、いまだにしちゃうんだから。団塊の世代が多いからって言ったって、もう90代よ?それより未来ある子どもに回して欲しいわ」

 

 カズーリが声をあげ笑い出す。

 不気味に思い、我が子を庇うようにしながら距離をあける母親たち。


 「まだ間に合いそうだ。ありがとう。もう一つ教えて欲しい…」



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 木崎たちがグラウンドに到着するもカズーリらしき人影が見当たらない。


 「真佐!また魔法で飛んだのかもしれない。大町、俺たちは聞き込みだ」


 木崎と大町が手分けして周囲の人々に話かけていく。

 真佐はカズーリの居場所を特定させる為に再び刀を地面に突き立てる。


 「木崎さん!カズーリの向かった先が分かりました」


 大町が駆け寄ってきた。カズーリは府庁と市役所のどちらがここから近いかを聞いて、去っていったらしい。


 「カズーリは近くじゃ。今の話を考慮すると府庁ではないかの」

 

 木崎が舌うちをする。


 「なんだよ。また戻るのかよ。急ぎ府庁へ向かうぞ!」


 木崎たちが急ぎ、走り出す。

 木崎の腕時計型通信機が光っている。善行寺から通信が入っている。


 ≪木崎。大変なことになった≫

 「今も大変だ。これ以上の問題は勘弁だね」

 ≪今回のカズーリだが、米国政府が引き渡せと日本外務省に言ってきているようだ。大量殺人鬼として、国際手配する動きもあるらしい≫

 「また面倒なことに…」

 ≪カズーリは人々に憎むべき相手を聞いて回っていたらしい。愚痴程度に言ったことも真に受けて、数珠つなぎのように人々を殺している。中には政府要人や警察官。裏の社会の重要人物もいたらしい≫


 木崎は御所を抜け、信号が赤だったので、止まった。


 「それで俺たちはどうしろと?」

 「捕獲を最優先としてくれ。日本政府は米国にカズーリを引き渡したいと言ってきている。先月のG30でも米国と反対の意見を出した政府はあちらのご機嫌取りをしたいのかもしれない。今回がちょうどその機会と考えているようだ」

 「簡単に言ってくれるな」

 ≪急いで捕獲してくれ。今は俺たちだけで動けるが、米国からのオーダーの為なら日本政府はなりふり構わずやってくるかもしれん。自衛隊も出動する可能性がある。もっといえば米国の軍が動くかもしれん≫


 信号が青になったので、木崎がまた走り出す。


 「そうなった方が俺たちは楽じゃんかよ」

 ≪何を言っている。そうなれば俺たちみたいな組織を不要と思う連中がまた活動を活発にし出す。政府のもう一つの懸念は中国、韓国を刺激しないかということだ。お前も分かってるだろ?実在空想物は普通の弾丸では意味がない。実在空想物について無知な米軍が出動し、もし被害が出たら?米軍は更なる軍を派遣し出す。軍の動きが活発になれば中・韓を刺激することになりかねない。やり方を一つでも間違えれば、日本は戦争に巻き込まれることになるぞ!≫

 「万が一の…」

 ≪万に一つ。その可能性がある。木崎、お前は実在空想物が出現するまで、アニメやマンガのキャラクターがこの世に出てくることを妄想ではなく、予見していたか?≫

 「それは…」

 ≪万が一の事態が起きた場合、人間はその瞬間は衝撃を受けるだろうが、慣れるのも早い。戦争が始まれば、『どう防ぐか』ではなく、『どう勝つか』に意識が変化していくことも俺たちが考えているスピードより早いかもしれない。そうなってしまえば90年前同様この国はまた過ちを犯してしまうぞ!≫


 木崎達が府庁前に到着する。府庁の中へ入っていこうとするカズーリを発見した。


 「難しいことは、お前に任せるさ。俺たちは最善を尽くしてあの実在空想物を捕獲、排除することに専念する」


 大町が木崎を見て頷いた。

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