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ジックウ  作者: 藤原・インスパイア・十四六
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実在空想物とは

木崎たちの仲の良さを書けたらと思って書きました。

 フラッシュが焚かれる。

 その中を颯爽と善行寺が歩いてきた。

 カメラは20台程があるが、カメラマンは一人としていない。

 可動式のスタンドの上にカメラが据え付けられ、メディアのカメラ担当者が現地から離れた所から遠隔操作し、撮影をしている。

 自信に溢れ、フラッシュ慣れした善行寺が会見のテーブルにつき、持ち込んだ資料をテーブルに置いてから顔を上げる。それと同時にシャッター音とフラッシュの明かりがこれまでよりも強くなる。

 善行寺は顔を上げる際の美しさも気にしているようで、顔を上げた後、カメラ撮影をさせる時間を記者たちに与えている。

 彼が作り続ける中、カメラのフラッシュが眼鏡のレンズに反射する。彼のキメまくった瞳が拝めなかったのは、この会見を視聴する人々にとってせめてもの救いであろう。


 「人々は様々な困難を乗り越えて、今日(こんにち)まで進化してきた。天災地変、病原体、テロに戦争…人類は数多の困難をくぐり抜けながら生きてきたのだ!」


 善行寺が左中指で眼鏡を直す仕草をした。


 「そして、いま最もこの日本国で危惧しなければならぬのが…二次元だ!」


 善行寺の後方の幕の前にあった横長の大型ディスプレイが点灯し、二次元と表示された。


 「二次元の世界へ…、そんな儚くも淡い夢を抱く時代は終焉を告げたのだ。そう、彼女たちは実在するのです!」


 力強く演説を続けていた善行寺が急に沈んだ表情を作る。


 「しかし、彼女たちが原因で私たちの平和は脅かされている。皆が抱いた夢のようにはならず、彼女たちには私たちの常識が通用しない…」


 今まで感情の浮き沈みはあったものの長々と演説を続けていた善行寺が黙り込んだ。

表情は先ほどと同じく沈んでいる。早く話せとイライラを募らせる視聴者の声が聞こえてきそうだ。


 「なぜなのか…。なぜ彼女たちはこの日本に現れては暴れるのか…!?」


 中途半端に伸びた髪は、表情が沈んだ時に少し乱れていた。それを簡単に手櫛で整え、眼鏡を左中指で直した。

 フラッシュの多さで眼鏡のレンズが反射し、瞳は映らないものの口元の口角が上がり、不敵に笑う。

とんでもない悪巧みをしそうな官僚、やはり善行寺には一番お似合いな笑顔だ。


 「それは彼女たちが二次元であり、外連味に溢れた世界で過ごしていたからだ!」


 後方のディスプレイには、再度二次元と表示された後、外連味と表示された。


 「情報伝達が発達した現在、私たち警察ももうこれ以上隠しきれない。今日ここで発表しよう。京都府警は新たな組織を公式に発表する!実在空想物対策課!略してジックウの誕生である!!」


 ディスプレイも連動し、実在空想物対策課、ジックウと続けて表示された。フラッシュが過去最大に焚かれる。

 やりきった表情の善行寺。幕の裾で控えていた木崎と大町は善行寺のナルシストぶりに辟易している様子。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 府警内の端の端に急いで作られた実在空想物対策課の部屋があり、その中に実在空想物専用の留置所がある。

 即席の為、実在空想物が出られなくしていること以外、質素な作りで、予算の少なさが垣間見える。


 木崎が小窓から真佐を覗いている。そこへ大町が入ってくる。


 「木崎さん。先ほど捕まえたこの二次元ちゃん、追尾機能も持ってるみたいですね」


 木崎が小窓を締めて、大町に向き直る。


 「おい大町、その二次元ちゃんって言い方はやめろ。で、俺はコイツと組むのか?」

 「さすが、お察しが早いですね。この二次げ…、おっと失礼。実在空想物ですが、和魂(にぎみたま)のままだったようですし、危険はないかと」


 そこへ会見を終えたばかりの善行寺が颯爽と登場した。やりきった表情をしている。


 「おい善行寺、どう思う?」

 「いいんじゃないか木崎。だが、コイツは追尾には色々と条件がいるだろ?おい大町」

 「はい、その辺りはバッチリです。この実在空想物が出てくる『そちらに村正はありますか?』というマンガを熟読済です。追尾に必要な条件ももう満たした状態です」

 「大町にしては事前準備ができているな。なぁ木崎」

 「ああ、生意気だな」

 「だな」

 「って、ええ~~!!褒めてくれると思ったのに!そんなことよりもこの実在空想物が出てくるマンガ面白いんですよ。この子は真佐と言ってヒロインなんですが、村正を追い求めるラブコメディでし…」


 大町が熱く語れば語るほど、木崎と善行寺は心の距離を離れていったが、そんなことは構いもせず、喋り続ける大町。

 木崎と善行寺は大町の語りをBGMが如く受け流し、次の実在空想物について話しをしながら部屋を出て行った。

 木崎と善行寺が出て行くと、留置所の中から声が聞こえてきた。


 「くくく、私が果たして奴らに協力するかのぉ?」


 実在空想物の声には陰湿な響きがあった。大町を試しているようにも思える。


 「大丈夫です!木崎さんはああ見えて良い人ですから」


 あっけらかんと答える大町。実在空想物の言葉の意図を理解しているのか全く読めない。


 「おぬしとは会話にもならんの…。まぁ好きにさせてもらうかの」

 「連れないなぁ。でも僕たちといるといい事があるかもしれませんよ」

 「ほぅ、それはなんじゃ?」

 「妖刀村正ですよ」

 「なに?!」

 「それでなくても僕たちは実在空想物に接する機会がこの世界の中では断トツに多いんですから、真佐ちゃんにとってもメリットはあると思いますよ」

 「なるほどの…」

 「よろしくね。真佐ちゃん!」

 「その『ちゃん』付けは止めぬか!」


 真佐の声色から少し雲が晴れたような響きがあった。大町にはそれだけも嬉しかったようで、跳ねるようにスキップをして部屋を後にした。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 翌日、実在空想物対策課の部屋で会議が開かれていた。

 大町が資料をスワイプしながら説明をする。真佐は席に座らず入口付近に突っ立ている。

 大町の説明を他所にくだらない話を続ける木崎と善行寺。


 「なあ木崎、俺の演説は良かっただろ?」

 「ああ、素晴らしく吐き気を催したな」

 「だろ?ってお前何言ってやがる。感性が著しく欠如しているのじゃないか」

 「キャリアも出世街道から外れると大変だなぁと思ってな」

 「言ってくれるじゃないか。確かにこんな府警内でも端の端…。今後どうなるかも分からん課の課長だと。30手前の俺がな。詰んだと俺も思ったよ…」


 大町が腰を上げ大声を出す。


 「お二人とも、聞いてませんね?!」

 「善行寺、どう思う?コイツ無駄に仕切りたがるよな」

 「生意気以外の何物でもない」

 「なんですか!?じゃあ説明がなくても大丈夫なんですか?」


 木崎と善行寺が顔を見合わせる。


 「善行寺。説明よろしく」

 「よろしい。今回の実在空想物は、カズーリ。ディヴァインファイアというRPGゲームのヒロインだ。多少は魔法も使うし、大きな剣はとてつもなく威力があるようだ。コイツの一振りには気を付けた方がいい」


 何も見ずに話しだす善行寺。大町がスワイプしながら内容が合っているか確かめている。


 「尚、人間を殺した数が経験値換算され、日に日に強くなる。ゲーム系はこれがあるから長引くと厄介だな。あとこのゲームの特徴は、ラスボスは倒すものの、ハッピーエンドでは終わらない所だ。この実在空想物の行動、心理に影響を与えるかもしれん」

 「バッドエンドってどんなのだよ?」

 「ラスボスは倒すものの世界が潰れて終わるそうだ。木崎」


 ここまでの説明内容が、自身が見ていた資料と相違が見られなかったようで、大町が勢いよく腰を上げる。怒ったとも笑ったとも分からぬ表情で顔が赤くなった。


 「カカカカ!さすがキャリア様だ!よし、真佐ちゃん!木崎さんと行ってちょうだい!」


 さすがの真佐も大町の性格の一変に一抹の不安を感じる。


 「お、おい木崎とやら。ヤツは、大町は気でも狂ったのか?」

 「大丈夫。気にすることはない。大町は色々と…、そうだな…なんというか…自由なんだ…脳みそ含め」

 「そうか、済まぬな。触れてはならぬモノに触れてしもうた気分じゃ」

 「ちょっとー!そこー!なに僕をダシに仲良くってるんですかー!!」


 大町の顔はまだ赤く、怒りは収まっていないようだ。

 不気味な笑い声が会議室に谺した。


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