表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
双子世界のパラドックス  作者: 喫茶店ラギ
Ⅰ、接触 ――Contact――
6/32

1-6

 この小説に出て来る雪風みたいに、いつもはポケーッとしてるけどいざって時にはキビキビ動く女の子が好き。

 あたしはそこを離れてルクナが向かった辺りへと走った。急に動いた為か脇腹が痛んだけど構ってはいられない。数刻の後ベンチに座っている彼女を見付けた。肩で息をしながらあたしは端麗な顔付きの少女に近づいた。


「ああ、櫻井さんですか。どうです?」

「こっちもあらかた片付いたよ」

「拓斗さんは?」

「唯……お友達が腰抜けちゃってね。今、唯の所にいるはずだよ。ルクナは?」

「私も終わりました。ほんの少数で助かりましたよ。襲撃と呼ぶには小規模すぎましたね」

「まあ、確かにね。運が良かったんでしょ」


 襲撃が訪れた場合、至る所から屑が湧き出て人を襲う。彼等の恐ろしいところは集団で来る事なのだ。だから今回の様に数が少ないと被害も最小限で済む。


 あたしはルクナの隣に座った。襲われた人々は皆一旦家に帰したんだそうで。あたしは槍を体内に仕舞うと、ベンチに背を預けた。所々で人の声がする。あたし達は無言で拓斗の帰りを待った。


 少しして拓斗が歩いて来た。彼と合流したあたし達は元来た道を歩いて引き返した。


「戦いの後も残らないんだな」


 彼の言うとおり、先程まで化け物が(ばつ)()していたこの通りも普段の光景に戻っていた。奴等は形を失った後世界に留まることが出来ずに霧散してしまう。


 喩え何体いようと、全て消えた後には死体は一つも残らない。体に付いた返り血だけは消えずにその場で地面に染みを作るらしい。


 あたしは無言で歩みを進める彼に訊いた。


「ねえ、唯は大丈夫だった?」

「パニック状態だったぞ。突然襲われて、突然助けられて、突然目の前で爆発が起こってな。派手に暴れるなら事前に知らせてくれ。僕だって驚いたんだからな」


 それが直裁の事を言っているのだと気付いたあたしは頭を掻いて苦笑した。彼は一つ嘆息すると、改めてあたしを見た。


「結局お前さんは何なんだよ」


 そう言えば能力を見せたのも先程が初めてだった。あたしはごめんねと言ってから続けた。


「あたしは火炎魔導(フレイム)の中の特異体――烈火魔導(バーニング)。体が聖なる炎で作られた人間。あたしの使う高威力の魔導はどれも体の一部を生け贄として発動するんだけど、あたしは体が炎だからその魔導の炎の一部を使ってもう一度体を作り直せるの。つまり火力の高い技を連発できるって事かな」


 魔導界にいる人間は特殊な技が使える。科学界で言う超能力の様なもので、人はこれを魔導、それを行使する人を魔導者と呼ぶ。


 また魔導にも火炎魔導(フレイム)の様に種類があり、それによって使える魔導は限られてくる。自分の体質にあった魔導は手足を動かすのと同じ様に自然に発動できるけれど、高位のそれはある程度練習を積

まなければいけないこともある。


 魔導の体質は遺伝するので、一家全員が同じ魔導と言うのも珍しくない。


 更に魔導は突然変異を起こすこともあり、そういった突発的に現れた変種の魔導を特異体と呼ぶのだ。


 あたしの様に元の魔導が強化された上位互換の特異体の他に、何ら関係の無い分類不可能な特異体が現れる事もある。また特異体が通常の魔導と子を産んだ場合後者が受け継がれる。


 特異体と特異体の子は、更に別種の特異体となる。このことからも世界結合結社(ユニバース)は魔導を遺伝子の一種ではないかと推測していると聞いたことがあるけど、あたしには解らない話だね。


 あたしの烈火魔導(バーニング)は前述した通り生け贄にした部位を再構成することが可能な上位互換の特異体だ。


 火炎魔導(フレイム)の技はどれも生け贄を要求する。命の炎の一部を吸い取る事で爆発的な攻撃をなせる、そういう魔導なのだ。


 また体が聖なる炎なのでヘパイストスの石を体内に止めることも出来るけど、体へのダメージを無にする事は出来ない。


 再構成したとしても傷は残る。日光を種火にした炎でのみ体の治癒が出来るという制限付きなのだ。


 故にこの魔導も万能では無いとはいえ、瞬発的な火力であれば魔導の中でもトップクラスの性能を誇るのは利点だ。逆に小回りのきく魔導が少ないのが欠点だけど、その点は槍を持つことで対処している。


「ま、前線に出て相手を吹き飛ばすタイプって感じだね。説明になったかな?」

「お前さんの戦い方は解った」


 拓斗は後頭部を掻くと、嘆息した。あたしは首を傾げた。


「魔導……要するに超能力か。どうしてこっちには無いんだろうな。あれば今頃多くの人が自衛出来ているだろうにさ」

「魔導者の多くは攻撃をする魔導を使えませんよ。人を殺める事の出来る魔導はそれだけ上位にあたりますから、誰でも使える訳では無いんです。科学界の銃と同じですよ。皆が皆銃を持っていつでも人殺しが出来たら、それこそ世界が滅んでしまいますから」

「そういうものか」

「まあ逆に言えば、誰でも練習さえすれば人を殺せちゃうって事なんだけどね」

「というか便利だろう。炎を操る以外にも色々あるんだろ、魔導の種類は。電気とか水とか使えたら生活もぐっと楽になるだろうさ」


 拓斗の発言にルクナは首を横に振った。


「魔導は使う分だけ魔導者の体力を消費します。スタミナではなく、精神的な体力のことです。それが尽きると命に関わりますから、魔導者は本能的にそれが少なくなると魔導を使えなくなります。これも努力と、持って生まれた才能で底上げできますけどね」

「それに魔導者はそれぞれの魔導のせいで生活に制限が掛かったりする事もあるから、そこまで便利でもないんだよね」


 水を扱う水流魔導(アクア)は綺麗な水しか飲めない。火炎魔導(フレイム)は寒いところが滅法苦手。土砂魔導(マッド)などその傾向が酷く、定期的に栄養豊富な土を食べなければいけないと聞いた事がある。


「うまく出来ているんだな」

「そうでもしないと二つの世界に差が出来てしまいますからね」


 そこで丁度あたしの家に着いた。あたしは二人から離れて家に戻り、靴を脱ぐなりすぐに布団にくるまった。こちらに来てから久しく槍を持っていなかったので体が思った以上に鈍っている。準備運動無しで全力疾走して、そのまま戦闘に移ったからなのか、体に疲れがどっと来ていた。


 けれど戦い方は体に染み込んでいるらしい。特に何も考えずともあそこまで動けるのだからそうなのだろう。体が覚えるほどに経験した戦の体験がここで役立っている。


 あたしはそれが嫌だった。出来る事なら全て忘れてしまいたい。槍を持って記憶が刺激されたからなのか、目を瞑るとその頃の光景が瞼の裏に浮かんできた。


 自分は槍を携えている。周りには血を流している死体が点々とある。


 血の臭い以上に肉の焦げた悪臭が鼻を突いた。見渡せば、足下に黒くなっている何かが転がっていた。試しに蹴ってみると、それは首の所で造作も無く千切れ、バウンドして跳んでいった。


 体中が痛かったが致命傷では無い。せいぜい痣が少し出来ている程度の傷しか無いはずだ。近づいてくる者を片っ端から燃やし、恐れて逃げるのなら追ってその背中に炎を放つ。


 それだけであたしはこの戦場を生き長らえた。


 気付くと体が震えていた。あたしは自分の体を抱き締めた。


「…………あたしは、うんにゃ、あたしは悪くないんだ……悪くなんてないの」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ