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元々ライトノベル用に書いてた作品なので、コピペのついでに改行位置を調節して読みやすくなるように手を加えています。
……元の文のままだと、十行くらい改行無しで地の文が続いたりしてましたからね。昔の私は改行が嫌いだったようです。
けたたましいサイレンの音で目が覚めた。朝っぱらから耳が劈ける様な大音量で警報が鳴り、あたしは文字通り飛び起きてしまった。
いつも朝に弱いあたしの脳が一瞬で覚める程の威力だった。飛び起きたあたしは余りのうるささに耳を塞いで布団の中に潜り、ひぃひぃと声を漏らしながらそれが終わるのを待っていた。
サイレンの後、警報はあたし達に緊急時の避難場所である杉久保台小学校を示した。そこであたしはやっと警報の意図を知った。いつかこの様な知らせが来るだろうとは思っていたけど、実際にどういった形で避難勧告が出されるかは解らなかった。
魔導界に行くあたしにとってこれは他人事の様なものだし、多少、避難勧告というものを楽しみにしていた事は否めない。いやだって、避難警報なんて人生の中でそうそう聞けるものじゃないからね。
半壊した自分の家で朝食を摂った。昨日ある程度片付けたつもりだったけど、屑のつけた傷跡はどうにもならない訳で、未だに家の中はハチャメチャだった。
あたしはそれを気にしないようにしてジャムを塗ったくった食パンを頬張った。
それから小一時間ほどして電話が鳴り出した。驚いて出ると、それは拓斗からだった。何故か酷く息を切らせている。
待ってて、唯。
あたし達が通っている中学校は名を宇宙第一中学校という。町の名前に肖った名前だけど別段町は宇宙技術に特化している訳でも無いただの田舎で、なしてこんな名前になったのかは解っていなかったりする。
あたしが生まれるずっと前にこの名前に決まったらしいと何かで読んだ記憶はあるけど当時の町長の意図を知る者が残っているはずも無く、町名を変えるのも面倒だという思想が町長に代々受け継がれ、今に至る。
あたしは小学四年生の時にこちらへと派遣された。その時転入したのが、杉久保台小学校という所。校庭におまけ程度の雑木林を持った普通の学校だ。
スリッパという建物はそれの隣に隣接している。正式名称をスリーパルク。A、B、C棟の三棟からなる十一階建てのマンションだ。
杉久保台小学校の生徒の内四割はここに住んでいる町の中でも比較的大きなマンションで、駅から遠いという欠点を除けば近くにゴルフ場なり小規模なデパートなりがあるそれなりに立地の良い建物となっている。
あたしの級友である永友唯もそこに住んでいるのだ。艶のある黒髪を後ろで括ってポニーテールにした、目鼻立ちがしっかり整った少女、唯。
無口で友人の少ない拓斗の一番の幼馴染みであるとはいえ、会話はいつも口論に発展して結局双方とも舌打ちをして去るという、いわゆる悪友のようなもの。
拓斗を幼い頃から知っている友人によると過去に彼は唯と一悶着あったらしいのだけど、あたしはそれを知らない。
あたしが拓斗にその旨を伝えると、彼は外に出て待っていろとだけ言って勢い良く電話を切ってしまった。あたしが駐車場で待っていると数分後に彼が姿を現した。ルクナも付いてきていた。
「場所はスリッパで間違いないんだな」
早口にそう問われ、あたしは首肯した。
「なしてルクナまで来るのさ」
「彼にもしもの事があっては困ります。それに、私なら多少力になれるでしょうからね」
「頼りになるよ」
それだけ言うと拓斗を先導として走り出した。
あたしのアパートからスリッパまでは全速力で走って一、二分程ある。唯の住んでいるB棟に辿り着いた時には三人共息を切らしてしまっていた。眼前には屑がはびこっている。だがそこまで数は多いようには思えない。
拓斗は一度深呼吸をすると、太刀を抜刀して走り出してしまった。
「櫻井さん、あなたは彼に付いていってあげて下さい。私は他の屑を片付けます」
そう言い残して彼女も走り去った。あたしは手当たり次第に屑を切り伏せる彼の後を追った。
途中、何カ所か屑に襲われている人がいたが、彼は最低限の屑だけを斬って彼等を助けていた。拓斗が残していった屑はあたしが掃討した。
ちらりと拓斗を見やる。身体の疲労はかなりあるだろうに、未だ被弾もしていないし、切り結んだ屑も全て一太刀で倒していた。
剣道経験者として刀に慣れているのか、覚醒者として戦いに目覚めたのか、彼の動きは素人にしては的確すぎた。彼は確実に戦い慣れている。あたしは眼前の屑を槍で突きながらそう確信した。
あたしの武器はハルバードに似た作りをした槍だ。炎と同化する特殊な鉄――ヘパイストスの石を用いて作られた特注品で、あたしの体内に仕舞っておくことが出来る特殊な武器なのだ。
やがて唯のいる所に辿り着いた。彼女は独り、マンションの階段を降りた広間で屑に囲まれていた。
「どけ」
拓斗がそう叫びながらその内の一体へと飛び込む。右上部からの袈裟斬りによって屑は倒された。彼はそのまま唯の近くに走り、彼女を背中に庇った。少し遅れてあたしも到着し、拓斗と永友を挟むようにして立った。
「別に来なくても良かったんだぞ」
「何言っているのさ、唯はあたしの親友でもあるの。放っておけないよ」
「え、拓斗? 雪?」
唯は突然現れたあたし達を交互に見て目を丸くした。口を呆けたように空けている。
「説明は後だ。お前さんはそこを動くな。絶対にだ」
「え、あ、うん」
「櫻井、そっちは任せたぞ」
「ういうい」
屑は少しずつ間合いを狭めてきている。あたしは槍を左脇に構え直して突撃した。同時に背後でも走る音がする。拓斗も攻撃し始めたらしい。
前方の屑の心臓を貫きつつ、それをそのまま押し倒す。倒れると共に槍を引き抜き、こちらに振り向こうとした一体の首を槍を横薙ぎに振って切り落とす。再度構え、首の無い一体の奥にいる屑へと突進。刹那、後ろで段平が打ち下ろされる。
奥の一体を突き刺し、引き抜く。どうっと音を立ててそれは倒れた。背後へと振り向くと、一直線上に屑が二体、大股で二歩ほどの所にいた。足を開き、重心を落として衝撃に備える。
「――直裁!」
目の前に紅蓮の魔法陣が描かれ始める。顔面くらいの大きさのそれを左拳で思い切り殴ると、魔法陣から鐘を撞く音が響いた。
直後魔法陣が展開、虚空に描かれる紅の線は炎を伴っていた。あたしの身長と同じ程に咲いた魔法陣に炎と化した左腕が吸い込まれる。そしてそれは、火を噴いた。
前方へと巨大な火柱が立つ。火柱の一部が切り離され、あたしの左肩とくっついて左腕を再構成した。火柱は焦げ目の轍を(わだち)地面に残し、屑を飲み込んで消えた。
構えを解いて拓斗の方を見ると、そちらも屑の掃討が済んだところだった。取り残された唯が目を白黒させている。それが可愛らしくて、歩み寄るあたしはつい笑ってしまった。
「驚かせちゃったね」
「ひ、火がどーんって」
彼女の腕は震えていた。急に目の前であれを見せられたら、驚くのも仕方無いよね。
「怪我は無いか」
拓斗が尋ねた瞬間、緊張が解れてしまった彼女はその場にへたり込んでしまった。首筋辺りまであるポニーテールが力無く項垂れている。彼はその肩を叩いた。
「まだ座るには早い。今の内に早く逃げるんだ」
「……うん」
「唯、無理しないでね。動けるようになってからで良いからね」
「それじゃあ遅いだろうが」
「大丈夫。こいつらだって無限に湧いてくる訳じゃ無いし、他の所のはルクナが片付けてくれているから、もう一度襲撃されない限り安全のはずだよ」
「そうか。……あいつの手伝いでもするか」
彼がそう言って駆け出そうとすると、その袖を唯が掴んだ。その指が震えているのを見付けたあたしは唯の気持ちを察して、拓斗の肩を叩きながら言った。
「ここにいてあげてよ。あたしが行くからさ」
「だが」
「あんたは唯を守ってあげて」
彼はむっとした表情をしていたが、ややあって渋々と頷いた。




