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ガバガバ乙女の直感
同じ様な風景が続く中あたし達はルクナの後に続いた。日輪は繁殖力が高い上に周辺の光エネルギーをかっさらっていくので、日陰の森には日輪以外の植物は殆ど生息できないのだという。
そのせいで同じ景色ばかりが続いてしまう。実際、ルクナ自身も迷ってしまったと言っていた。それが致命的な体力消耗に繋がってしまったらしい。
城下町への最短ルートは既にルクナが見付けていて、その道中には目印として踵で抉った程度の小さな穴が掘ってある。それを辿れば良いだけなので今回は迷う事は無かった。
口では大丈夫と言っていたがやはり体力が足りないらしく、ルクナは終始ふらふらとした足取りで歩いていた。意識ははっきりとしているし千鳥足な訳ではないのでそこまで心配していないとはいえ、それでもやはりおっかない場面が幾つかあった。
「無理しないでね。本当に駄目そうだったらまたあたしがこいつら薙ぎ倒すから」
「本当に駄目そうだったら頼みますよ」
そう言いながら彼女は日輪の葉を毟って口に放り込んだ。何でもそうすることで葉に蓄えられているエネルギーを微量ながら摂取できるらしい。
「でも死ぬほど苦いですから真似しないでくださいね」
「既に櫻井が実践したがな」
「確かに死ぬほど苦かった」
笑いながら言うと二人に溜め息を付かれた。失礼な奴等だな。
更にしばらく歩くと街が見えてきた。木造の家が建ち並んでいる、何処にでもありそうな街だ。その奥に半壊した城がある。街に入るための門は開け放しになっているらしい。門番すらいなかった。
街の外側に民家が集まり、中間層に宿泊所、城の周りが市場になっているらしい。取り敢えず宿を決め、伝書鳩を飛ばず。それがあたし達に出来る全てだった。
「けどさ、良くそんなに持ち合わせがあったね」
「そんな事はありません。三人で泊まるとなると、もしかしたらお金が足りない可能性も出て来ますし」
「足りなくなったらどうするのさ」
「その時はその時です。私が羽衣を纏って市場で一稼ぎするも良し、櫻井さんに路上裏で槍を片手に頑張って貰うも良し。それとも拓斗さん、内職してみます?」
「断る」
街中を練り歩き、丁度良さそうな民泊を見付けたあたし達はそこに泊まる事にした。この街では日本語が通じないので受け付けなどは全てルクナの仕事となった。彼女によるとこの宿は後払いで、日数を決めず泊まる代わりに帰る時に精算する仕組みらしい。
案内された部屋は質素だった。扉から見て左側にベッドが二つ並び、その反対側の壁に木で作った小さな机が置いてある。扉の向かいに大きな窓が開いており、部屋の脇に暖炉が置かれていた。壁は一応白く塗られている様ではあるけど年季が入っているせいかかなり黒ずんでしまっている。
「日当たりが良くて低価格な部屋を選んで貰いました。曰く付きらしくって、かなり安いんですよ、この部屋」
「それ色々と大丈夫なの?」
「これだけ日の光が入っていれば文句はありません」
彼女の判断基準はそれしかないらしい。
「曰くって、何だよ。人でも死んだのか?」
「あ、そうらしいですよ。ちょっと前に」
しれっと彼女は答えた。あたしは思わず短い悲鳴をあげてしまった。何て部屋を頼みやがったんだこいつは。あたしは絶句した。
「何でも幼い子供が病気で死んでしまったらしいです。家の前で倒れていたのでこの部屋で看病していたら、数日後に。伝染病じゃないので安心してください」
「出来るかボケ」
だが頼んでしまったものはもう覆せない。渋々あたし達はここに泊まる事を了承した。
ベッドが二つしか無い事については、その二つをくっつけてあたしを真ん中にして川の字で寝ることとなった。寝るときはあたしがあの魔導を使う事も決まった。
荷物の整理が終わった辺りで宿主の奥さんが部屋に尋ねてきた。昼食をご馳走してくれるらしい。かれこれ昨日から何も食べていなかったあたし達はそれに甘えることにした。
リビングの様なところでテーブルを三人で囲み、パンとスープを頂いた。可も無く不可も無い味だったが、空腹だったことも助けて格別な味に思えた。
最強の調味料である空腹の威力は絶大であることを思い知らされた。
それが済んだ後ルクナは奥さんから貰ったらしい紙に本部へ送りつける手紙の内容を書いていた。今の現在地、そこに至った過程、救助要請が簡素に書かれている。
「これを持って伝書鳩の所に行けば終わりですね」
「あってま、今日中に行くの?」
「出来るだけ早いほうが良いですから。善は急げ、です」
紙を便箋に仕舞った彼女は立ち上がり、財布をポケットに仕舞い込んで外へと歩き出した。その足取りはやはり何処か危うげだった。
「独りで大丈夫?」
「……多分」
あの森の中を歩き通してきたのだから彼女の疲労はかなり溜まっているはずだけれど、今から街の中心部に行って伝書鳩の店を探さなくては彼女の時間制限が来てしまう。今出かけないと帰る頃には日没が来てしまう恐れが出て来る。今のルクナの体力では日没以降は動けないだろう。
今行くしか無い。だがそれは彼女にとってかなりの負担になる。どうしたものか。
あたしがあれこれ考えていると、隣で嘆息が聞こえた。
「見栄を張るな。僕が付いていく」
溜め息交じりにそう言った拓斗はルクナの隣に並んだ。拓斗は続けて言った。
「嫌だと言っても付いていくからな。途中で倒れられたら困るんだ。それに市場も見てみたいし、丁度良い」
少しの間拓斗の顔を見ていた彼女は、ややあって小さく頭を下げた。
「助かります」
「じゃ、じゃああたしも」
「櫻井さんはここで留守をお願いします」
彼女はあたしの発言を一蹴して拓斗とともに歩き出してしまった。強引に付いていくことも出来たが、あたしは敢えてそれをしなかった。何となく二人きりにした方が面白そうだったとその時感じたからだ。
あたしの乙女の直感が間違ったことは無い。




