表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ナンパ霊

作者: 桝田空気

深夜、仕事が終わり、アパートに帰ると、この前死んだはずの、二歳下の弟が部屋にいた。



ベッドに寝転がって、うまい棒を食べていた。


おれは目を丸くした。




「ちーす、兄ちゃんお帰り」

「え?ちょっ、何これ?え?もしかして、おまえ幽霊?」

「うん」

「うわ、まじで?」

「うんマジ」

「うわうわうわうわ、初めて見たわ。ちょっと触らせて触らせて」



おれは弟の体に、触ってみた。予想通りに手がすりぬけた。透け透けだ!スケスケ!



「うおおおっ、スケスケ!」

「ちょっと兄ちゃんくすぐったいよ!」

「ああ、悪い悪い」



おれは弟から離れた。



弟は3ヶ月前、実家の風呂場ですべって転んで頭を打って死んだ。二十歳。即死だった。



ヘラヘラしたチャラ男だったので、あの世でうまくやっていけるか心配だったが、元気そうで何よりだ。



「で、何しに来たんだ?」

「ああ、そうだった」



弟は残りのうまい棒を飲み込むと、おれの前に立ち、急にいやらしい顔つきになり、おれの背後に向かって話かけ始めた。



「ねえねえ、そこのお姉さん。初めまして。おれ、こいつの弟です。兄がいつもお世話になってます。いやあ、それにしても、お姉さん、きれいっすねえ」

「・・・・・・何だおまえいきなり?キモいぞ?」

「うっせーよ。いや、実はさ、おれ死んでから、見えるようになってわかったんだけどさ。兄ちゃんの守護霊、すっげえ美人なんだよね。石原さとみにそっくりで。それでお近づきになりたいと思って、今日ここに降りてきたってわけ」

「・・・・・・・・・」



・・・マジかこいつ?兄の守護霊をナンパしに来やがったのか。



「お姉さん、もし良ければ、おれといっしょに、三途の川沿いを散歩しに行きませんか?」

「ちょって待てよ!守護霊ナンパされて、連れていかれたら、おれはどうなるんだよ?」

「あ?知らねーよそんなの」

「おま、ふざけんなよてめえ!」



おれは弟を殴ってナンパを阻止しようとしたが、例によってスケスケなので、拳が当たらない。弟は、それを無視して、おれの守護霊を口説きつづけている。



やばい。守護霊を連れていかれたら、本当におれ、どうなってしまうんだ?



「え?」

突然、弟の表情がくもった。

「・・・・・・?」

「あ、お姉さん、そうだったんですか?・・・・・・はあ、じゃあ、その胸は・・・・・・手術?・・・・・・ああ、そうなんですね」

「・・・・・・どうしたんだよ」

弟は、なんともいえない微妙な表情になって、言った。

「兄ちゃんの守護霊、オカマなんだって」

「・・・・・・は?」

「そんなわけで、おれあの世に戻るわ。でもすげえなあ、最近のメイク技術って、本物の女性にしか見えないよ。・・・・・・・・あ、でもよく見たら、ヒゲの剃り残しがうっすらと」



そう言い残して、弟は成仏していった。



しばらくの間、ぼうぜんとしたあと、おれはその場にがっくしとひざをついた。



「おれの守護霊・・・・・・オカマかよ」





そのとき、耳たぶに、生暖かい息がかけられるのを感じた。



部屋の電灯がひとりでに消え、真っ暗になった。



数分後、おれの悲鳴が部屋に響きわたった。










「あ、そうそう、言い忘れてたんだけど、守護霊さん、今夜兄ちゃんの体を狙ってるみたいだから、気をつけてねって、・・・・・・・・・あちゃあ、遅かったか」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ