2-1 巡るタマシイ
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「きゅうぅー!」
ボクはドラゴン。
さいきんはまた、あたたかくなってきたから、生まれてからもうすぐでキセツが一つまわるんだ。
きょうも、いつものとおり、母さんが捕まえてくるエモノの肉にかぶりついておなかをみたす。
べつに何か、とくべつなことを考えているわけじゃあない。
ただ、ホンノウに身をまかせて、やりたいことをやるだけ。
まあ今のところは、こうやってたべることと、ねることぐらいしかできないんだけどね。
シッポをふんふんとふりながら、食べおわったエモノのほねをかじってあそぶ。
「きゅるる~ん」
けれども、いつからだっただろう? こんなふうにいろいろと考えれるようになったのは。
さっき、とくべつなことは考えてないって、いったばかりなんだけど……そうじゃなくて、今みたいにこうやって『どうでもいいこと』をぐるぐると考えれるようになったってこと。
そして、これができることが、おかしいんじゃなくて、これができることに、どうしてボクがギモンをもっているのか、というところがフシギだ。
どうして、こんなふうにかんがえれることが『おかしい』とおもうんだろう?
ほかにも、フシギにおもっていることはたくさんある。
どうして、今のせいかつはやることが少ないとおもうんだろう?
どうして、はやく外にでてみたいなんておもうんだろう?
どうして、『たいくつ』だとおもうんだろう?
ボクは、このドウクツの外をみたことなんて、一度もないのに。
……まって、そもそも、外をみたことがないのに、どうして外があるなんてわかっているのだろう?
「きゅう……」
どんどんナゾは広がっていくばかりだけど、ドウクツの外からやってくるポカポカのひかりに、どうにもならないくらいつよい眠気がやってくる。
かじっていたほねをその場において、さきにねてしまってるふたりの兄妹と、母さんがかたまっているところに入りこんで、ボクも丸くなる。
いま考えていることも、次におきたときには、ほとんど忘れてしまっているかな。
それでも、もしもおぼえていたなら、またつづきから考えてみよう。
……ボクは、いったい何なんだろう?
◇◆◇
知ってる限りだと、この春は生まれてからちょうど三回目のはずだ。
おれもずいぶんと成長して、身体の大きさは岩山にたくさん転がっている大きな岩と同じくらいになった。
それに比例して力も強くなっていって、今ではその辺にいるイノシシなどはもちろん、牛さえもひとりで狩れる。
翼を使った飛行は最初こそ苦労したけれど、すぐに問題なく飛べるようになったし、炎のブレスだって大人と変わらないくらいに吐けるようになった。
気付けば、青かった鱗もいつの間にかその黒さを増してきている。
……そろそろ、巣立ちの時が近いのかもしれない。
群れの中心にある広場を、高くから降り注ぐ陽のなかで同年代のドラゴンたちがじゃれ合って遊んでいるのを眺めながら、ひとりで森に歩いていく。
相変わらず、おれは仲間に馴染めない。
何だろうか……こう、ドラゴンとして生きることに抵抗を感じるというか、違和感があるというか。
いわゆる、前世の記憶、とでも言うのだろうか。
初めて見るものでも、何となくそれが何であるかを知っていたりする……気がする。
そして、何故か群れのみんな……ドラゴンは、いつになっても仲間だとは思えないんだ。
他には、おれがドラゴンであるとはっきりと認識したときも、理由も分からず少しばかり混乱したのを覚えている。
そうやって、他とは結構変わっているおれは、仲間からも若干距離を置かれている。
むしろ、おれが距離を取っている、の方が近いかな。
だから、一人になりたくて毎日森で遊ぶ。
時間を潰すためだったり、気配を消したり匂いを辿ったりといった狩りの練習をするためだったり、不思議な前世の記憶のようなものについてぼんやりと考えたりと、目的はその日によって様々だ。
最初の方こそ、ついてきて話しかけてきたり遊ぼうと誘ってくる、おれと同じ巣立ち前の仔竜はたくさんいたけれど、最近では彼らのほとんどが、しても挨拶程度になってきた。
……ほとんどが、だが。
「ラルルルッ!」
「……。」
いつもの通り、森の入り口でおれを待ち構えていたラゥナが、嬉しそうに声を上げながら森に向かうおれについてくる。
ラゥナと言うのは、何故か毎日森遊びについてくるようになったメスのドラゴンだ。
やることがなくて相当ヒマなのかは知らないが、この頃はどんな時間帯に森に入ろうとしても必ず居るんだよな。
いつも一体いつからおれを待っているんだろう、と疑問に思う。
「ルルッ」
ラゥナは歩くおれの隣に並んで、今日は何する? と当たり前のように訊いてくる。
おれも初めの方は、他の仲間たちにしていたのと同様に、関わらないよう無視を決め込んでいたんだけど、ラゥナは何が楽しいのか執拗におれに付き纏ってきた。
いつもそんな様子のラゥナに、なんだか悪いことをしているような気がして、少し前に仕方なく相手をしてみた。
相手にしたと言っても、話しかけてくる内容に軽く答えただけだったが、それでもラゥナは大げさに喜んで、それから毎日これである。
「……グルル」
適当に散歩した後に、昼寝でもしようかな。
一度相手をしてしまったからには、無理やり突き放すのも気が引ける。
今は、ラゥナのしたいようにさせておけば良い。
そのうち飽きて、他の仲間たちとのじゃれ合いとかに参加するようになるだろう。
おれはついてくるラゥナを気にしないようにしながら、森のさらに奥を目掛けて歩いていった。





