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運命を舞い渡る蝶と竜の血薬  作者: だーおん
竜狩りの失敗
1/28

1-1 村への襲撃

 

「あーあ、今日もなんもねぇか」


 紐を括り付けたイノシシを肩に担いで、日が暮れる前に狩場の森から拠点のアジトに帰る。

 今日も、ドラゴンの手掛かりは無し、と……。

 もちろん、手ぶらで帰るわけにも行かないから、今日もこうして適当な獲物を狩って持ち帰る。

 今はこれでやっていけているが、ジリ貧であるのはアジトの皆も分かっているはずだ。


「あ、お帰りなさい兄貴!」

「兄貴のお帰りだぞぉ」

「うっす、兄貴。今日はどうでしたかい?」


 木と布で作ってある簡素なテントの並ぶ中を進み、仲間たちが集う焚き火の広場にまでやってくると、俺を見つけた仲間たちがそれぞれに声を掛けてくる。

 担いできたイノシシと共にどかっと焚き火の近くに腰を降ろすと、仲間に勧められて酒を煽りながら首を横に振った。


「今日もハズレだ……」

「チキショー、俺らも手掛かりすら掴めねぇぜ」

「竜狩りは一旦置いておいて、そろそろでっかい盗みでもやらねぇと、酒もあと少しだ」


 最後に竜狩りをしたのは……二年前くらいか。

 珍しい赤黒い鱗の色のドラゴンのツガイを襲い、メスを殺して一部の素材と、仔竜を生きたまま一匹まるまる売り払った。

 特に生け捕りの仔竜は目を疑う金額で売れたのだが、この二年でそれも底を尽きかけている。

 二年探して全く情報が無いともなれば、仲間たちの士気も下がってしまうのは必然。

 何か、デマでも良いからそういうウワサがあれば良いんだが。


「そういやぁ聞いたか? 盗賊の奴等が言ってた話」

「ああ、あれだろ? 確かここから東にしばらく行ったところにある村が、大分前だがドラゴンの襲撃にあったやつだろ」


 その時、少し離れた所の仲間の話の内容がふと耳に留まった。


「知らないな。その話、詳しく教えてくれ」

「いやぁ、俺らも少し聞いただけで、詳しいことは何も分からんのさ」

「いつなのかもはっきりとは分からないんですぜ。分かってるのは、若いツガイのドラゴンだったってことぐらいだよなぁ」


 村に若いツガイのドラゴン、か。

 その情報がどれくらい昔かは分からないが、ツガイならば仔竜がいる可能性も十分にある。

 それに、近くに村があるのか……。

 なるほど、と俺は少し考えてから口を開く。


「行ってみるか? このままじゃあ、埒が明かんぞ」


 俺がそう言えば、仲間たち十数人が一瞬静かになったかと思うと、どっと歓声が湧き上がる。


「さすがは兄貴だ! そう言うと思ってたぜ!」

「確証が無かったんでぇ、はっきりは言えなかったんですぜい」

「兄貴が行くとなれば、付いていかない手は無いなぁ! あんたがこの中で一番腕が立つんだ!」

「そうと決まれば、さっそく人数集め始めねぇとな!」

「よし! 今夜は飲むぞぉ‼」


 その夜は、みんなで飲んで騒いで、残りの酒を全部飲み干すまでそれは続いた。



 ◇◆◇



「よし、ここか」


 かれこれ二日近く仲間と共に森の中を歩いていき、ようやく例の村にまで到着した。

 時刻は夕暮れ、しばらく村の様子を窺っていたが、そのまま近くで農作業をしていた少年を捕まえて、ドラゴン狩りをしに来たとして村のリーダーを呼ばせた。

 村の規模的には、俺らだけで十分だろう。

 走り去る少年の後ろ姿を見送ってしばらく、俺らもゆっくりと村の中心に向けて歩いていく。

 次第に木造の簡素な家が見られるようになってきて、異変に気付いたのか村人がその中から様子を伺っているのが分かった。


「兄貴、来ましたぜぃ」


 仲間の声に正面を向けば、一際威厳のあるおっさんと、そいつと顔のよく似た若い男の二人がやって来た。

 おっさんの方は、服装こそその辺の村人と変わらないが、幾つもの首飾りや腕の装飾を身に纏っていることから、こいつがこの村のリーダーで間違いないだろう。

 ……で、横の若いのはその息子とかだろうか。

 そうやってまじまじと観察している内に、おっさんはある程度まで近付いた所で歩みを止め、口を開いた。


「村長だ。……既に話は聞いた。必要なものは何だ」

「なるほど、話が早くて助かる。俺らは明日の昼に森に出発する。それまでの二十六人分の家、食事、……それから、若い女も準備しろ。出来なければ──」

「ちょっと待ってください!」


 俺の言葉を遮って、突然村長の横のガキが大声を上げて遮る。


「ドラゴンは確かに村に来ましたが、危険なんてありません!」

「おいてめぇ! 自分の立場を──」

「まあ待て、面白いじゃないか。詳しく聞かせてもらおうか」


 声を荒げる仲間を嗜めると、そのガキに話の続きを促す。

 この状況で口答えに出るとは、相当な度胸の持ち主か、それとも……。


「あのドラゴンは怪我をしていたんです! そこでベリンダさん……村のみんなで治療したら、何もすることなく二匹で森に帰って行ったんです。物はもちろん、人にも被害は出てないんです! それどころか、彼らは怪我が完全に治るまでの間、狩りをしてその獲物を分けてくれていたんです!」

「ほう、そうか。それから?」


 いかにも分かったかのように、わざとらしく大きく頷いてガキを見据える。

 そんな俺の様子に拍子抜けしたのか、そいつは少し勢いを落とした声で続ける。


「いや、だから、その……ドラゴンは危険なんかじゃないんです。それに、姿を見せたのは二年前のそれっきりですし……」

「なるほどね。それで?」

「……え?」

「いや、え? じゃないだろ。続きはどうしたんだ?」


 俺の返答に、そのガキは狼狽した様子で視線を彷徨わせて黙り込む。

 どうやら、ただの脳内お花畑の大馬鹿野郎のようだ。


「そいつが襲ってきたらどうする? お前に責任が取れるのか?」

「だから、あのツガイのドラゴンはそんなことは──」

「そのツガイがしなくても、他のドラゴンが住み着いている可能性は? それで被害が出てもお前は言えるのか? 森にはあのツガイがいるから退治しに行けない、って。それで被害者と、その関係者は納得できるのか?」

「……。」


 ガキはようやく俺の言わんとすることをようやく理解してきたようで、俯いて黙り込んでしまう。

 おいおい、もう終わりかよ。食ってかかるわりには大したことないじゃねえかよ。


「それに、もしだ。もし仮に、そのドラゴンが人間に友好的で、危険が無いとしよう。それがどうした? 俺らがドラゴン狩りをすることに、何か関係でもあるのか? なあ、お前らはどう思う?」

「いやぁ、全然分かりませんねぇ!」

「俺もさっぱりだぜ!」


 わざとらしく大声で後ろの仲間に聞けば、にやにやとしながら男どもが答える。


 村長は、しばらく前から苦虫を噛み潰したような表情で俺らの会話を見守っている。

 おそらく、こいつはもう全部分かってるんだろうな。

 ……対して若いのは何かの気にでも触ったのか、歯を食いしばって怒りを露わにしている。

 これだから中途半端な思考回路のクソガキは嫌いなんだ。


「なんて奴ら……! ドラゴンに手を出してみろ! お前らなんか──」

「おいエル、よせ、もう良い!」

「そうだよなぁ、俺らは優しいよなぁ。命の危険が伴うドラゴン狩りをして、わざわざこの村を救ってやるんだからよ。たとえ失敗したとしても、それ相応の報酬を出すのが道理ってもんだよな!」


 そこまで言えば、ようやくガキは己の置かれている状況を本当に理解出来たようで、みるみる顔から血の気が引いて行くのが分かった。

 自ら墓穴を掘るとはまさにこのこと、全くここまで馬鹿野郎だと清々しさすら覚える。


「話は終わりか? あいにく、俺らは疲れてるんだ。さっそく寝床と飯を用意してもらおうか」


 リーダーと、隣のガキは何も言わずに顔を伏せた。

 無言。それは屈服の証。

 後ろの方から、どっと歓声が聞こえて来た。

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