大英帝国の混乱
大英帝国 帝都ロンドン
ジブラルタル海峡にて艦隊の搭乗員が全員どこかにいなくなった時を同じくして現在、イギリス全土に白いモヤがかかっていた
謎の現象であり英国政府はすぐにモヤについて科学者らに調べさせたがわからなかった。モヤは次第に晴れていったが重大な事態が起きていた
艦隊からの通信が途絶えたのである。まさか植民地艦隊の連中に精鋭をやられるはずがない。何らかの原因で通信機器が不調なのだと考えた。だがそれは杞憂に終わった
なぜならば、派遣していた艦隊の搭乗員全員が軍港に帰っていたからである。乗っていた軍艦を除いて...
もちろん即座に艦隊の士官や下士官、水兵に至るまで全員が取り調べを受けた。だが、得られた情報は支離滅裂としか言いようがない妄言に近いものだった。
取り調べを受けた全員の証言は、「艦隊が白いモヤに包まれ気がつけば軍港にいた」という
これには、しばらく整理が必要だとイギリス当局は判断し艦隊の搭乗員らには休暇を言い渡された
これとは別に、さらに重大な事件が発生していたのである。それは欧州やアメリカ、アフリカアジアなどからの通信連絡が一切出来なくなったことである。これには政府を始めとする各省庁、軍や新聞社が大混乱を生じさせた
原因究明のため軍を派遣した結果、海底ケーブルが20海里先からすっぱりと消えて無くなっていることがわかった。これには大英帝国も呆然したが急いで新たな海底ケーブルを敷設しなければならなくなった。海底ケーブルなしに現代の戦争は行えない。情報を掴み生かすのは勝者の絶対条件だからだ
数日ほどたちこれまで起きた現象を整理していくうちにこれまで以上の現象がわかってしまった。それは、アイルランド島の消失である。さらにはフランスがドイツが欧州がユーラシア大陸がなくなっていたのである。それどころか今まで観測されていた星が消え見たこともない星座が観測された
これらの現象をまとめると偉大なる帝国大英帝国は小説や物語の中でしか起きなかった異世界へ転移したのである
異世界に転移したことが判明しさらなる苦難が浮き彫りとなった。それは、食料や各種資源の備蓄量である。大英帝国は植民地から輸入していたので食糧や各種資源は尽きることはないと思い込み備蓄など行っていなかったのである。備蓄量も細々と使い大目に見て2年もあるかどうかである
さらに、悪いことに当時のイギリスは環境汚染がひどく農地は荒れ果てていた。囲い込み政策によって農地も縮小されており今後イギリス国民は飢餓に陥ることは火を見るよりも明らかだった
植民地経営で肥えに肥えていた大帝国は異世界転移によって一気に痩せ細ったと言える。今までやってきた嫌がらせや非道な行為への天罰懲罰ともいえる
もしも、これらのことがフランスにでも知られることになれば途轍もなく皮肉まみれの記事が半年にわたって発行されること間違いなしである
大英帝国議会 貴族院議場
現在議会ではザワザワと騒がしく議論は紛糾している。
「これはどういうことなのですか!」
男は新聞を握りしめ声を荒げている。
「どうもこうも起きてしまった以上は受け入れるしかあるまい。そうでしょう?ウィルソン男爵」
別の男はなだめるように言い聞かせている。
ウィルソン男爵は噛み付くように声を上げる
「異世界に転移とはなんともバカバカしい。しかも、ロイターが堂々と報じているとは諸外国へ恥を晒しているも同然である!誰がこんな世迷言を信じるのですか⁉︎お答えいただけますかな、ウィンストン伯!」
「ええ、私は信じますとも。今まで起きた現象からそう言わざる得ないでしょう」
科学万能主義者であったウィンストン伯爵は達観したように答える
ウィルソン男爵はその答えに顔を真っ赤にして反論する
「これ以上ふざけないでいただけたい!」
ウィルソン男爵の周りの議員もそうだそうだとヤジを飛ばす
喧騒し議論が進まない
しばらくして議長が口を開いた
「みなさん!静粛にお願いします‼︎」
なかなか収集がつかないためこれを見かねた議長が場を鎮める。
「今、下手をすれば大英帝国の破滅であります。いかにこの大英帝国の影響力や市場を新世界に拡げられるかが破滅を回避する鍵であります。いまここで騒いだところでなにも起きません」
続けて議長は言う
「現在の大英帝国の状況はまさしくドン底と言ってもいいくらいです。食料も各種資源も多く見積もって2年程度しか持ちません。幸いなことに我が国は石炭には恵まれていますので海洋調査は滞りなく行えます。この議題は海洋調査派遣と海底ケーブル敷設を行うか否かです。では、採決をお願いします」
議長は議場を鎮め議員らを冷静にさせた
そして採決の結果 全会一致で異世界の海洋調査派遣と海底ケーブルの敷設が決定された
数週間後 異世界海上
改装三等戦列艦 マジェスティック号
ここ10日で複数の無人島を発見したが大陸を見つけられず見渡す限り海ばかりであった
「ハァ、今日も今日とて海ばっかりだよ」
若い水兵は愚痴を漏らしながら釣りをしている
「愚痴るなよ。こちとらだってキツイのじゃから」
隣に座っていた年長の水兵は諌めるように言う
「だってよ、異世界だぜ異世界。信じられるかってんだ。しかも旧式の戦列艦を蒸気機関載せ替えて無理やりすぎんぜ」
さらに愚痴を言う若い水兵
「まだ、帆船時代と比べりゃマシじゃよ。帆船と比べて速度もあるし砲も前装式じゃなく後装式のアームストロング社製の最新のものじゃし。補給艦の脚も伸びて食事にある程度不自由は無いんじゃ。ただ缶焚き組は可哀想じゃがな...」
「そりゃわかったんだけどよ。ただ俺はライムの味と娯楽をなんとかしてほしいものだよ。せめて精鋭の戦艦センチュリオンに乗りたかったぜ」
「馬鹿を言うな。切り札をいきなり切って負けたら話にならん」
老水兵は若い水兵を叱るように言う
「そんなもんかねぇ・・・っと釣れた釣れた」
若い水兵はビチビチと跳ねるイキの良い魚を釣った
「むっ、今日はお前さんが先か」
悔しがる老水兵
「今日はジジイに勝ったぜ。んじゃ、俺はバケツ取ってくるからアンタは釣り糸でも垂らしときな」
「クゥーッ!生意気言いおって」
老水兵はぶつくさと恨み言を言いながらふと遠くを見つめていると大陸らしきものが見えてきた
「オーイッ!大陸が見えたぞーっ‼︎」
この事態に老水兵は皆に知らせるため力一杯思い切り叫んだ
異世界に来てから大英帝国にとっての一筋の希望の光に等しいものであった。この陸地の発見は即座にイギリス本土に伝えられ国民は歓喜に包まれた
イギリス海軍は陸地に上陸し橋頭堡を築き上げ異世界の大陸への足掛かりを作った
異世界に転移して最も気をつけなければならないことは疫病である。もしも、人類にとって致命的な種が存在すればひとたまりもないし大英帝国の破滅である。
科学者を引き連れ植物や土、虫類や菌類など様々なサンプルの採取が行われ各種検査の結果、致命的な種は存在せず地球に似た植生であることが判明した
この報告に英国政府は安堵しそれと同時に新たな市場を開拓できると考えた
だかその考えは無意味となった
驚いたことに地球で空想妄想の産物である生物の存在が確認されたのである
その生物とは、ワイバーンとグリフォンである。さらに悪いことに人が跨り襲ってきたのあった。しかも跨っていたのは騎士らしき格好をした人間であったため異世界の軍隊はワイバーンを航空戦力として配備済みであることが推測された
これを受け大英帝国軍は直ちに対空砲や飛行機の実用化を急いのであった
数日後、異世界にも国家あることが判明した
その国家は外交交渉をしたいと現地の司令官に通達してきた
とある議員の手記
なんと異世界にも国家の存在が確認された。驚いたことに我々の言語が通じているという。原理は不明だが通じることに越したことはない
現地の軍からの報告によると異世界の国家のレベルは中世程度だか魔法が存在していることが判明した。魔法技術を鑑みて文明レベルは中世と近世の過渡期であると推測されるため偉大なる祖国大英帝国も油断してはならない
異世界の国家が我が国大英帝国と交渉をしたいと使節団を派遣を検討していると伝えてきた
その使節は数週間後に来訪する予定である。ただ、いきなり襲ったことに関してはきっちり耳を揃えて対価を払っていただかなければならない
その交渉は私が行うが大英帝国の名に恥じないように臨みたい