大公の一手
遅れて申し訳ありませんでした。
ツヴァレンティア城 城門前
「なんともバロック式建築に近いですね」
「たしかに。なかなかの美しさを感じます」
皇太子殿下と王太子殿下はツヴァレンティア城の建造物群を感心している。日英両国の侍従や侍従武官も美しさに感心した。しかし、この使節団に付随している外交官たちはこの謁見ののちに行われるであろう交渉に気合を入れていた
ここで少し時間を遡る。それはコラトスの兵士がある意味かなりの機密情報を大公に報告してきたのである。その機密情報とは日本と英国にとって極めて常識的なものであるのだが彼らにとって絶望に叩き込むほどなものであった
執務室
「なんだと!あれが旧式の蒸気船なのかッ」
水晶通信で報告を受けたコラトス大公は大声を出し狼狽している。彼はもう一度確認のために水晶通信で兵士に問いかける。だがその返答は悪夢そのものだった
「間違いありません!あの様な蒸気推進装甲艦は彼等に取って旧式に過ぎないようです。英国海軍の装甲軍艦は彼らの装甲軍艦の概念に革命をもたらした物らしく、その上あの軍艦ですらすでに旧式になっているそうです!」
この時、コラトス大公は眩暈を起こし倒れかけるが乾坤一擲とも言えるアイディアを思いつく
「魔像を撮っておけ!だが撮るのはあくまで外観のみにしておけ。
魔像とはこの世界においての写真に相当する。念写の魔法と良質な水晶があれば誰にでも撮ることができる上に、水晶通信によって他の人に見せる事が出来るのだ
「わかりました」
コラトス兵は大公からの指示を受け戦艦三笠と戦艦ドレッドノートの魔像を撮影できるだけ撮影したのであった
城内 謁見の間
コラトス大公は謁見の間にて玉座に座っていた。彼は少しばかり血の気が引いていたが気を引き締め日本と英国との会談に臨もうとしていた
「ふぅ、下手に高圧的にならないようにしなくては...」
彼はにいる護衛の兵士に聞こえないよう呟いたのであった
数分後に皇太子殿下と王太子殿下を含めた外交使節団は謁見の間に入場した。所定の位置に案内されたのを見計らいコラトス大公が自己紹介と歓迎の言葉を言い始めた
「初めまして、大日本帝国と大英帝国の使節殿。私は16代コラトス大公。グラーセン・フォン・コラトスである。この度の訪問を歓迎する」
「大公閣下。お初にお目にかかります。私は大日本帝国皇太子明宮です。天皇陛下の名代として来訪しました。文明国筆頭の貴国に招待して頂けたことを感謝いたします」
コラトス大公に対して一礼をし敬意を払う皇太子殿下であった。続いて王太子殿下も自己紹介を始める
「大公閣下。私はThe Prince of Wales(王太子)のエドワードです。国王陛下の名代として来訪しました」
にこやかに自己紹介をするエドワード王太子殿下であった
その後、皇太子殿下と王太子殿下はコラトス大公に対して勲章を贈った。大日本帝国は大勲位菊花章頸飾を贈り大英帝国はガーター勲章を贈った。さらに、献上品として工業製品も送られたのであった。
しばらく話し合ったのちに謁見は終了し解散となり皇太子殿下と王太子殿下は城内の文明国の賓客用の部屋に案内された。謁見の間に残った大公は侍従を呼び明日の予定について指示を出す
「では、明日は会談を行うように手配します。」
「頼んだぞ」
「しかし、宜しかったのでしょうか?あの様な蛮族国家の者たちを文明国扱いをして?」
「馬鹿者。あれを見て蛮族といえるのか?」
「失礼いたしました 大公閣下」
「うむ、なら良い」
「では、私めはこれにて」
「うむ...」
彼は表情には出さなかったが内心とても焦っていた。何しろ蛮族国家だと思っていた国が自国どころか列強以上の国力があると確信したからだ。献上された工業製品は何しろかなり均質化されてなおかつ高品質であり自国の技術力があまりにも惨めであるとショックを受けたからだ
「なんとかせねば...」
そう呟き考えを巡らせるがふと頭にあるアイディアが浮かび上がる。そのアイディアを実行するために侍従を呼び出し手配を行なった
ツヴァレンティア城 文明国賓客室
日本使節団の部屋
「明日は会談と交渉を行いますが、吉田君頼みましたよ」
「拝命致しました」
「君は、いつも通りにしっかりと仕事をこなしてくれればいい」
皇太子殿下は外交官になりたての吉田茂に優しい笑みで語りかける。吉田茂にとってはたまったものではなかった。なぜなら、新米外交官に対して過剰に期待されているように感じたからだ
「恐縮です」
「そんなに卑下しないでくれ。君の交渉の腕には期待しているのだから」
そう言われた吉田茂は頭をかいた。だが、皇族方を前であったことを思い出し慌てて姿勢を正したが皇太子殿下はニコニコしているだけであった
英国使節団の部屋
英国の外交官たちは如何に大英帝国の利益にするかを考えていた
「さて、我々が失敗することは本国の死を意味する」
「そうだな。我々の双肩にかかっているというのは少しばかり心が踊る。しかしだ、我々の陣営はまだ点を出していない。対してあのマールバラ公のチャーチル卿は手強くなった日本から技術を引き出したらしいからな。何としても利益を引き出さねば我々は厳しい目で見られる」
「だが、この世界の文明レベルは中世から近世だ。その世界の中でトップレベルの文明水準の我々をみたらどうすると思う?」
「他の国を出し抜くためにおそらく我々になんらかの工作をするはずだ」
「例えば?」
「やる工作としては政略結婚だ。確か事前調査によるとコラトス大公には23歳になる娘がいたはずだからな」
「政略結婚?確かに彼らにとっては有益であるが我々には何も利益はないぞ。むしろ技術指導してくれと頼み込まれリソースを消費させられるぞ」
「それは何としても拒否しなくてはならん」
「ここで羨ましく思うのは日本の皇帝一家だ。かの国の皇族は一切、外国の王室との血脈が入ってないからな。故に、前例がないから拒否ができる」
「それに対して、我々は政略結婚の前例が多すぎる。気づかれたら容赦無く責められるからな」
「グッ、どうすればいい?」
外交官たちはできる限りの知恵を絞り断る理由を考えていく。ある1人がふと思いつき提案する
「そうだ!こうしよう」
「なんだ急に?」
「ならば、殿下には申し訳ないがすでに既婚者であるとでっち上げよう。そうすれば、断れると思う。あっちがゴネようとしたら俺らでなんとかするか」
「そうだな。だが大公の機嫌を損ねないように遠回しに断ればいい。まぁ、あまりにも結婚の要求が直球過ぎたら理由を言う前に即座に断ろう。じゃないと本国の民衆に何言われるかたまったものじゃない。下手をすれば、ブンヤが喜んで煽ってくるからな」
「確かにな」
その後も英国の外交官たちは議論を重ねに重ね最適解を導き出していった
翌日の会談で、大英帝国の外交官が睨んだ通りにコラトス大公は政略結婚攻勢をかけてきた。だが、政略結婚は日英両国は拒否したのであった。日本側は、諸外国の王公族からの血縁を結んだりした事がない。前例がないので無理であると言った。英国側は、王太子には婚約者がいるため引き受けれないと断り、外交官たちがはじき出した想定にあった『妾でもいい』と言われないようににキリスト教の一派である英国国教会では一夫一妻制が決められていると宗教的な理由で封じた。コラトス大公は断られたことに憤りを感じたが超巨大軍艦が港に停泊しているので文明国筆頭のプライドよりも自国の安全を選んだのである。
その様子を見かねプライドを潰してしまったと考えた日英両国の外交官は友好価格での軍艦の購入と技術のテコ入れと交流を取り付けた。大公は、政略結婚攻勢は失敗したが当初の目的である技術の導入ができるようになり溜飲を下げ日英両国に対する優遇措置を取り付けると約束したのであった




