閑話 新兵器の開発
1898年 8月下旬
残暑も続く初秋、再び明治天皇と英傑たちは集まり会議を開いていた。その議題の中で明治天皇がある事を吐露したことでとある物の製造について話し始められていた
「ミサイルという噴進弾の開発でございますか?」
英傑らは声を揃えて明治天皇に問う
「うむ、あの夢で見たミサイルとやらを開発すればわざわざ大型戦艦を作らずに中型艦、小型艦で敵を撃ちたおす事が出来るであろう?」
明治天皇を含めた英傑たちも夢で未来の戦争を見ていたため製造した方が良いと考えていた。しかし、何人かは苦言を呈する
「しかし、あの女神はそのような設計図などを寄越さなかったではありませんか?我々が一から開発するのは時間がかかり過ぎると思われます」
「さらに基礎理論すら無いものを作るには研究費が莫大になります」
女神により日本は史実よりもはるかに富んでいたがそう易々と研究費を出すことは出来ない。研究費で国庫を切迫して仕舞えば馬鹿馬鹿しいものである。英傑の一人が言うように基礎理論のカケラすらない現状からミサイルなぞ夢のまた夢である
「確かにそうであるな」
そう明治天皇が呟いた時、テーブルの上が煙に包まれた。それを見た明治天皇らは『またか』と心の中で呟いた
そこには巫女服をまとった女神がいた
「来ちゃった」
語尾にハートマークを付けそうな言い方で女神が現れた。その言い方に英傑らはかなり怒りが込み上げたが明治天皇が宥めた事によりなんとか収めた
「して、汝は今日ここに何をしに参ったのか?」
「フッフッフッ。そなたらが話しておったミサイルの設計図を渡してやろうと来たのじゃ」
英傑らはピクリと反応し思わず立ち上がってしまいそうになったが抑えた
「我々に作るできるのか?その難しそうなモノを?」
東郷平八郎はこの時代の低い技術力で実現が可能なのか女神に問うた
「できるに決まっとろうが!しかもそなたらが歩むはずだった正史では誘導弾を作ってあるし大丈夫じゃ...もっとも女湯に激突してエロ爆弾とみっともないあだ名をつけられたんじゃが」
女神の話を聞いた彼らは(なんちゅー名前なんだ)と呆れ果てた
「ということはできるのですな?我々の科学力技術力でも?」
山縣有朋は女神に尋ねる
「なんとかな」
その言葉に英傑らはホッとするがその様子を見て女神は苦言を呈する
「まぁ、お主らが見たミサイルは最新型じゃ。いきなりそんなモン作れるわけがなかろう?」
「むむむ」
英傑らはそう言われ唸る。たしかに女神の言う通りである。技術の進歩とは常に積み重ねであり長時間かけて日進月歩するものである。それをいきなり最新型をポンと渡されても発展の余地が無いしそれで胡座かいて進歩を止めてしまう。それではどこぞの国のようになってしまう。それだけは何としても断固として回避しなければならない
「これから渡す物は技術力の低い国でも出来やすい物とそれを習作として作った後に作る物を渡しておく」
「汝の好意に感謝す」
明治天皇は女神に感謝を示した
「うむ!気にするでない。其方らが負けぬように目一杯手伝ってやろう」
そう言い残し女神はドロンと消えてしまった。そして女神がいた場所には設計図の入った木箱が置かれていた。その設計図は直ちに解析と設計図から基礎理論の確立を急がせた
木箱の中には先進的な兵器だけではなく艦砲の設計図も入っていた
1906年
配線が地面を走りその先には砲があった。白い実験服を着た研究者と海軍将校の姿があった
「アレが我が軍の秘密兵器か?」
「そのようですな」
「しかし、装填手が要らぬ砲とは...」
「将軍閣下、正確にはドラムマガジンに弾を込める人員は必要であります」
「まぁ、それを考えても人員の削減をできるのはありがたいな」
「そうでありますな」
人員を削減できるのは現在の日本の人口的にとてもありがたいことであった。その原因の一つが多額の投資による建設ラッシュが起きて働き手の不足が起きており財界や大蔵省、商工省から意訳すると『はよ、動員解除しろ。もしくは、徴兵制を見直せ』という要請があったからだ
「これより試作艦砲の実験を開始します!まずは、半自動砲から」
現在、ここ北海道では女神からもたらされた兵器群の試作と実験を行っている。今日の実験は複数の兵器が同時進行で行われている
半自動砲と呼ばれた砲は、アメリカで第二次大戦中に開発が始まり大戦後には、アメリカを含め西側諸国の海軍が採用したMk33 50口径3インチ速射砲である。
操作人員が砲を操り装填要員が手早く装填を行う。この時代の砲と比べるとありえないほどの速度である
「オオッ!早いぞ」
「常識を覆すような砲ですな」
「次に、紹介するのは中口径の艦砲です」
続いて披露された艦砲は、史実の秋月型防空駆逐艦に搭載された65口径10cm砲である。優れた砲口初速と優れた連射速度を発揮し防空艦の名に恥じない能力を発揮した。B-17を一機を叩き落としたことでも有名である
「撃てッ」
と研究員が 指示を出し砲弾を発射する。その砲口初速は1000m/sに達し、この時代の戦艦の主砲の初速を軽々と超えている。見学をしている将校たちは声が出なかった。彼らは圧倒的な神速と言える高初速を目の当たりにして恐ろしさを感じた。たかが駆逐艦の中口径の艦砲であってもこの時代の軍艦の装甲板を軽々とたたき割れる可能性があると考えたからだ
だが実際にはそんな高初速はいらないためいざという時以外には砲口初速810m/s程度に抑えて運用する
「では、お待ちかねの自動速射砲です」
ガシャコンという音がし発砲音が響く。発砲音が止む前に次弾装填が開始され再びガシャコンという音がする。それを繰り返し発砲は続けられる。それを見て海軍将校らは驚嘆の声を上げる。モデルとなった兵器はオートメラーラ社の76mm速射砲である。ただ、史実より強化された科学力と言っても現時点の日本の科学力では発射速度は毎分六十発が限界であったがそれでも十分なほどであった
「なんて速さだ!」
「なんと恐ろしい」
その反応に満足した研究員だったがさらに彼らが驚くことを披露した。研究員がスイッチを押すと秒間60°という速さで砲塔が旋回しさらに仰俯角さえ秒間35°という猛速で調整ができる
「射角調整すら機械で出来るのか!」
「これは海戦が変わるどころか軍艦の設計すら変わってしまうぞ!」
研究者はニヤリと笑う。彼らが驚くのは無理もない。彼らには単に装填手が不要としか伝えてなかったからだ
「驚いた。佐竹研究員、お見事です」
「ヘッヘッヘ。苦労した甲斐がありました」
目元にクマができ不健康そうな男は少々不気味な笑いを浮かべる
「そういえば、コレのスケールアップ版が他に完成していると聞きましたが?」
「ええ、確かに完成していますが」
そのスケールアップ版とはオートメラーラ社の127mm速射砲である。対艦対空などいろいろな役目をこなせる優秀な砲である。現実での西側諸国を始め自衛隊の護衛艦、イージス艦にも採用されている。他の艦砲とは、アメリカ海軍で使用されたMk.39 54口径5インチ砲とアメリカ海軍のMk42 54口径5インチ砲とMk45 54口径5インチ速射砲である。どの艦砲も優れた物であり甲乙つけがたい物であったが機械的な信頼性から言うとMk45であったが技術的観点からいうとMk39がまだなんとか再現可能という結論であった
「それも見せていただきたいのですが?」
「ダメです」
あまりのキッパリさに将校らはずっこけた。そのズッコケぶりは大阪の漫才劇場に負けずとも劣らないほどであった
「何故だ!」
「佐竹さん、そんなこと言わないで見せて頂けませんか?」
懇願するように研究員に詰め寄る海軍将校だったが研究員は反論する
「あなた方に見せるのは後です。まずは天皇陛下が御覧になられるのが先ではないかと?」
「あっ!」
天皇陛下の御名を出されてしまいなんとも言えなくなった海軍将校らであった。のちに明治天皇がそれらの試作砲を見たとき海軍将校らと同じような反応をした
これらの砲は最初に海防艦、掃海艇、松型駆逐艦、秋月型駆逐艦に搭載された。のちに対空砲、副砲として巡洋艦と戦艦に搭載されることとなった。のちにこの蓄積された経験から独自のシステムを作り上げ15.2cm砲クラスの速射砲が作られることになり海軍戦力の強化となった
その後、将校たちは射撃統制装置を見て必要性を実感し海軍の全艦に配備するように手配したのであった。
数日後 同実験場
女神が新たに持って来た設計図から作り出したミサイルの実験が行われる。ジリジリと暑い初秋の昼、明治天皇らはその涙滴型をした物体を見つめている
「本日の実験は誘導噴進弾の実験であります。それでは実験を開始します!」
誘導噴進弾は発射筒に装填され最終確認が終わりアイコンタクトで研究員らはタイミングを見計らった
「まずは、噴進弾甲型!」
研究員が誘導噴進弾甲型と呼んだミサイルは旧ソヴィエト連邦の開発したP-15対艦ミサイルであった。この対艦ミサイルの射程は46kmとこの時代からするととんでもない射程であった。戦艦三笠の30.5cm砲で約14000m、戦艦オライオンの13.5インチ砲で21000m、戦艦金剛の14インチ砲で22000mほどなので倍以上の射程を誇るこのミサイルはまさに驚異であり怪物なシロモノであった
「点火ッ!」
スイッチを入れ推進器から猛烈な炎を噴き出す。マッハ0.9の速度を出し標的艦向かって突っ込む。この日、この世界で初めてミサイルが空を飛翔した。V1ロケットが飛ぶ30年以上先を行ったのである。
明治天皇らは固唾を飲んで双眼鏡を手に標的艦に目を向ける。数秒後に見事に命中し標的艦を海の藻屑とする
「成功です!」
その場にいる人間は歓喜に包まれた。だが、もう一本のミサイルが残っている。今度のミサイルは、P-15対艦ミサイルとは異なる発射筒に装填される。装填が完了し明治天皇と英傑らの方へ向き直り開始を伝える
「では、改めて誘導噴進弾乙型の実験を開始します!」
乙型はハープーン対艦ミサイルであり現実世界では現在、米国をはじめ西側諸国、日本などで使用されている非常に優秀な対艦誘導弾である。性能は、有効射程100kmを超え飛翔速度はマッハ0.9という速さである。こちらも命中し標的艦を海の藻屑とする
英傑らは驚きおののいている。夢の中の映像で見たことはあったが実物を目の当たりにすると知識としての記憶であり知っていても驚きを隠せない
その後も女神が新たにもたらした兵器などの実験が行われ続けた
実験が終わり英傑たちは用意された建物内で話し合いを行なっていた
「陛下、噴進弾の運用は如何なようにされますか?」
「うむ、しばらくの間は駆逐艦などの補助艦艇で運用するべし。補助艦艇ならば諜報員や列強の武官は入りたがらない」
なぜ明治天皇が駆逐艦といったのか?
それはこの時代の常識では戦艦こそが究極の兵器であり戦略兵器であった。この時代は駆逐艦などの補助艦艇はオマケのような存在であり明治天皇はそこに着目した。この発想により列強の魔の手を払い諜報員などを跳ね除けたのであった




