大魔王への道
プロローグ
この世界は大きく三つの世界に別れているという
ひとつは人間たちの住む世界 人間界
ひとつは地上の遥か上に存在し、天使や神々が住まうとされる 天界
ひとつはこの世界の何処かに存在し、魔王や悪魔たちが住んでいるといわれる 魔界
この物語は その中のひとつ 魔界から始まる物語・・・
◆◆◆◆◆
魔界 ホルカイデ地方 ノールクーニシル島
ペトリウス城
控えの間【フラム】
魔界の大陸北部に位置するホルカイデ地方、一年を通して三分の一は嵐が起き、晴れることのないこの土地は植物も育ちにくく、過酷な生存競争のため、生き残れる生物も少ない・・・
その孤島ノールクーニシル島は最北端に位置した。島の周りは切り立つ崖や岩場が大半を占め、高低差100メートルの断崖絶壁のその島はまさに難攻不落の自然要塞である。その地を欲する者たちが後を絶たず、奪い合いの絶えない島だったという。
約1000年前、時の実力者ハーヴィー・エンピリアン・アメイ・モーンによりこの島は平定された。
そして彼は後に、この城を建てた。
聳え立つペトリウス城、その昔、魔界の実力者が建てたと言われる城である。
小さな部屋である、大人が三人も入れば窮屈そうな広さだった。扉の真向かいに窓がひとつだけ、これといった調度品もなく部屋の真ん中には机がひとつ。椅子が二脚、あとは何もなかった。城の間取りというだけあってやたら天井は高い・・・。
そこには四人の男たちがいた。
二人が扉の傍に立ち、そして部屋の真ん中の机を挟んで二人の男が座っていた。
扉の傍にいるふたりは若く見えた。扉の右側に立っているのは、歳は12、3歳ぐらいか、まだ子供の域を越えていないように見える。背は160cmぐらいだろうか。まだ顔に幼さが残っていた。だが、子供っぽいが、立っているその姿は背筋も通り一分の隙も感じさせなかった。そして、何事にも動じない落ち着きを感じさせた。むしろその辺にいる中高年のオトナより落ち着いてる・・・。身なりもきちんとしていた、白のボタンダウンに黒のネクタイ、黒いスーツそして黒の革靴。身に付けているものに皺がひとつも無い。髪も綺麗に整えられている。ほんと見た目に反して格好がしっかりしていた。
そしてもうひとり、左側に立っているのは、歳はさっきの少年より、歳はもう少し上だろうか15、6歳に見えた。身長は少し高いか、170㎝ぐらいだろう。
血で染め上げられたかの様な真っ赤なジャケット、そして下には黒のシャツ、タイはせず、黒のパンツに真っ赤なブーツ、極太フレームの黒のサングラス、髪型はオールバック。
なにを言っているのかフンフンフーンと鼻唄混じりで扉の前に立っている。だが彼もまた姿勢がよく背筋をのばし、立ち位置が微動だにしていない。
そして、残りは座っている二人である。
ひとりは50歳前後に、もうひとりは30歳前後ぐらいに見えた。
扉側に座っている50歳前後に見える男だが、体が驚くほど大きかった。その男のせいで控えの間は一段と狭くなっていた。扉の前に立っている、二人の身長と比べてみても、その男は座っていても、なお二人の高さを越えていた。普通じゃなかった。おそらく2mは超えていると思われる。体の造りも凄かった、スーツ服を着ていても、その下に隠れている筋肉が分かる分厚い胸板、分厚い腕、分厚い指、分厚い首、分厚い脚、分厚い眉、分厚い口もへの字に結び、表情も分厚い。分厚い男であった。もしも笑うことがあるなら、見てみたい。そんなことを思わせるぐらい、武骨で分厚い男であった。
そして、その横に座っている30歳前後に見える男、脚を伸ばし、手を頭に掲げ椅子に凭れていた。分厚い男の横にいるせいで小さく見えるが、そんなことはない。分かりにくいが身長180cmはあるだろう。すらりと伸びた脚、服の下からでも分かる厚い胸板、そして鍛え上げられた上腕二頭筋。部屋の窓から見える海原とその先の大陸の方をじっと見つめいた。
部屋の窓からは、荒れた海を挟んで大陸が見える。
この魔界は幾つもの大陸と島が混在しているといわれている。
大陸側の海岸線には、魔界三大草原のひとつガゼロニ草原が臨めた。
海岸沿いに広がる、ガゼロニ草原はこの辺り特有の気候のせいで、発生する魔界落雷が起こっている。大地にあちらこちらで天から落ちるその光はまるで絵画のようであった。その光景はまさに自然がおりなす芸術である。プラズマボールに指で触れるとその指にプラズマが集まるように・・
この光景を一度は見ようと魔界全土から観光者が絶えない。
まあその観光者すらこの雷の餌食になるのだが・・・
本来なら避雷針などを設置しておけば、草原の移動なども簡単にこなせるのだが、動植物関係なく動くものに無差別に落雷してくるので、たまったもんじゃない。
地上を駆けるイレヴンラビットや最大2mを越してくる食虫オニアザミ、浅場の地中を移動するホルカイデデスマンなども落雷の餌食である。おそらくあちらこちらで落ちた雷の跡には、美味しいお肉が転がっていることだろう。そして、それを狙って食べにくるグリフォン・・・・も。
◆◆◆◆◆
直情径行、バカ正直、まさに猪突猛進タイプ、少し性格に難があるが、腕っぷしの強さを買われて今回の警護を任された、ホレス・ベヒーモ。
普段は普通の感覚だが、スキル《センス オブ ディスタンス》を使用するとlevelにもよるが、五感が常人の数倍にも上がる。
今回、ベヒーモが使用したレベルは10、レベル1でおよそ上下左右、半径10メートルの空間が把握できるようになる。今回はレベル10なので、約100メートルまで空間把握能力を上げていた。
フンフン言っている、ホレス・ベヒーモの鼻唄が不意に止んだ。そして、隣に立っている少年を見、そして声をかける。
「おいっ!チビ!姉さんのお帰りだ!!気付いてるんだろう!!」
チビと呼ばれた、少年クロウ・クロワッハ・ラッビーイームは落ち着いたまま、ホレス・ベヒーモを見返す。
「・・・・・・」
返事をしない少年に、苛立ちを感じながら、もう一度
「おいっ!!」
すると、呆れ顔で少年が口を開いた。
「・・・気付いていますがそれがなにか?、こちらの部屋に向かわれているのは承知していますが、まだこちらまでは、もう少し時間が掛かると思いますが。
ベヒモさんはなんでも、少し急きすぎなのでは・・・
・・・それに、ボクはチビという名前では、ありません。何度も言っていると思いますが、クロウ・クロワッハ・ラッビーイームという名前がありますので。ベヒモさん」
「ベヒ~~~~~モ!!、ベヒーモだ!!真ん中にーわすれてるぞ!!ラヴィ公!!」
「そうでしたか、ベヒーモさん」
と言う、ラッビーイーム。
ベヒーモが、いきなり拳をつくり、ラッビーイームの顔面にめがけて、正拳をお見舞いしようとする。
それも、ただの正拳をではない。ベヒーモの正拳である、彼の生まれ育った地で、ありとあらゆる者を屠り、魔界への冒険者、時折出現する勇者、魔界の強者たちを、滅してきた拳である、力を込めなくても、受けた者がただでいられるような拳ではなかった。
あまりのスピードのため、避ける間もなく、顎元を捕らえた・・・・・・・のはずだった。
その、不意打ちに近い拳を、なんとラッビーイームは何も無かったかの如く、掌で優しく包み込んだ。
「痛いじゃないですか・・・ベヒーモさん」
「ケッ!! 余裕ぶっこいてんじゃねぇぞ てめえ!!」
ブン!!と拳を降り戻すベヒーモ。
ぷらぷらと掌を振りながら、軽く流す、ラッビーイーム。
ヒートアップしてくる、ベヒーモ。
その二人のやり取りを見ていた、座っていた50歳前後の男が
声を掛けた。
「二人とも、ジャレ合うのも程々にしておきなさい。ルーシ様も居られるのですよ。それに、そろそろサタナキアが戻って来る頃でしょう。」
椅子に掛けていた50歳前後の男が口を挟んだ。
この巨漢、名前をマルバス・イエン・メイソンという。
「はいっ!!」
「ハイ、マルバス様」
「その事ですが、サタナキア様があと一刻ほどでお戻りになられます。マルバス様」
クロウ・クロワッハ・ラッビーイームが、口を開いた。
「ん、そうか・・・ラビ」
ベヒーモのようにスキルを発動しているわけでもないのに、
ラッビーイームは先程の話の内容でもそうだが、姉さんと呼ばれた人物、サタナキアがこちらに向かっているのが、わかっていた。
彼は一体どうやって、
それはラビも感知魔法《インベイドテリトリー(浸食する領域)》を行使していたからである。
自分の感覚を触手のように伸ばし、領域を把握していく能力、遠近両範囲を感知していける魔法である。レベルにより、
持続時間は変わるが・・・。
今回彼が使用したレベルは、レベル2およそ1時間ほどの持続時間のものである。
サナタキアが部屋を出て別れる時に、糸のように細い、触手をつけて伸ばしていたのである。
そして、その魔法の効果により、ベヒーモの拳をも軽く受け止めたのであった。
ラッビーイームの魔法センスは群を抜いていた。それが今回、選ばれた理由のひとつでもある。
さすが、ラッビーイームの成せる技である。
もし、サタナキアに何か、不具合が生じたとしても、即対応できるのである。
今回、立ち番を任せられた、ホレス・ベヒーモとクロウ・クロワッハ・ラッビーイームであった。
◆◆◆◆◆
さて、少し時間も過ぎたころ、ふと扉の向こうに気配がした。
コンコンコンコン扉をノックしてくる。
「私です。開けてもらえますか。」