4話
『こちら管制。N・E号聞こえるか?』
管制からの更新にマイクが返事を返す。
「ああ聞こえる。指示願う」
『ポート側のリニアカタパルトを起動させる。係船索を解く。補助エンジンを始動させ待機せよ』
「解った。ホセ、係船索が解かれたらすぐに補助エンジンの始動」
「了解」
『こちら管制。マイク聞こえるか?』
さっきとは別の管制官が話しかけてくる。ポートにいる間よく聞いた声だ。
「ああ聞こえてる。どかしたか?」
『なに、最後の挨拶だ。もうお前たちとは生きてる間には会えないだろうからな』
その言葉にお互い少し黙ってしまう。
『後、一分ほどで、リニアカタパルトから打ち出される。やりのこしたことは無いか?』
「ああ、大丈夫だ」
『30、29、28…………』
カウントダウンが響き渡る。
『お前らと一緒に仕事が出来て誇りに思う。よい旅を』
「ああ、こちらこそありがとう。じゃあ、元気でな湯川」
『ああ、よい旅をマイク』
『10、9、8……3、2、1』
その合図と共に、リニアカタパルトは勢いよくN・E号を暗闇の宇宙空間に押し出す。そのGは凄まじく、マイクたち五人はそれぞれのシートに押さえつけられるように形で、じっと耐えている。しかし、軌道エレベーターを出てすぐに、軌道エレベーターで感じていた重力は無くなり、すぐに身体は軽くなり、押さえつけられるような感覚から解放される。そして、身体の自由がきくようになったところでマイクがホセに指示を出す。
「ホセ、補助エンジン停止。その後、太陽帆展開」
「了解」
ホセはマイクの言葉にすぐに反応し、太陽帆を展開させるべくコンソールに向かって起動プログラムを打ち込み最後にエンターキーを押す。すると、今までその姿勢を保つために推力を押し出していた補助エンジンが停止、その後、すぐに船内にシュポンと微かな音が響き、圧縮空気で打ち出されたアンカーを付けたワイヤーがN・E号を中心に八方に広がり、それに固定された薄膜の太陽帆が展開される。太陽帆はN・E号の本体よりもかなり大きく、五倍以上の大きさがある。太陽帆は太陽からの光をいっぱいに受け、その色を金色に輝かせ、少しずつN・E号を加速させていく。
「太陽帆展開完了。発電状況OK、その他細かな傷も無し。すべてに異常なし」
太陽帆は太陽からの光を受け推進すると共に、その光を電気エネルギーに変換させる。
ホセの報告に、マイクは頷く。
「よし、当分は慣性飛行を続け、予定通り木製軌道でスイングバイを行って太陽系脱出速度まで持って行く」
そう話すマイクに茜は話し掛ける。
「マイク、重力区画の展開はどうしますか?」
「ああ、そうだな。今のうちにやっておこう。茜、頼む」
「了解。ボーリア、重力区画の展開を」
「了解しました副長」
ボーリアは茜に丁寧に返すと、重力区画の展開プログラムをコンソールに打ち込む。その後、少しの振動と共に、N・E号本体に格納されていた筒のような部分が四本の腕に支えられるように四方に延ばされる。そして、目一杯のばされると、今度はその先端に取り付けられた筒の両端が伸ばされ、円筒形になった四つの筒が結合される。その直径は太陽帆よりも一回りほど小さく、太陽帆の中に隠れてしまうくらいの大きさだ。
「重力区画展開完了。注水及び与圧作業開始します」
ボーリアは淡々と作業をこなしていく。ボーリアの前のコンソールには重力区画の注水状況と、与圧状況が表示されている。重力区画の周りは水槽になっており、その水槽が有害な宇宙線をある程度防ぐシールドになる。そして、船内の水の五十パーセントが常に水槽の中にあり、循環させて船内に濾過された水が送水されるようになっている。その水を飲料や、冷却水などに用いられるようになっている。
徐々に、与圧され、酸素濃度が二〇パーセントに達し、一気圧になったところでボーリアが報告する。
「重力区画与圧完了。ただ、注水はまだ三〇パーセントほどです。注水完了までは後一時間ほどかかる予定です」
ボーリアの報告を受け、それをマイクに報告する茜。
「了解。重力区画を解放。マイク、後一時間後に注水完了します。注水完了後、回転開始させます」
「解った。ホセ、シールドは問題ないか?」
「ああマイク、小惑星位なら弾き返せるくらい調子が良いぜ」
「解った。何かあったらすぐに知らせてくれ」
「了解」
「よし、これで長旅の準備は整った訳だな。木星軌道までは二交代での勤務とする。俺とボーリアをA班、茜とホセB班として、マリアはA班とB班の両方の勤務に跨る様にしてもらう。では、注水完了の一時間後から交代勤務を開始する」
「了解」
全員がそれに答える。
「さて、とりあえずみんなで飯を食おうか」
みんなにそう言うと全員から「賛成!」と答えが返ってくる。