2話
そしてそれから一週間後、マイク達五人は軌道上にあるノートルダム・エヴァンジル号に向かう軌道エレベーターに乗り込んだ。軌道エレベーターでN・E号までは三日の時間が掛かるが、その間にも五人はこれからの予定の最終打ち合わせや機材のチェック。する事は山のようにある。N・E号に乗り込んでからも、まだ資材の積み込みが完了しておらず、出発まではまだ一週間はかかる。資材が積み終わっても植物プラントや、亜光側エンジンの試運転、シールドのチェック等々まだまだやる事はいっぱいある。実際に出発するまでにはあと二週間位の時間は掛かるだろう。
「ふー、早く星々の大海に旅に出たいもんだぜ」
ホセがそう呟くと、それにマイクも答える。
「まったくだ、俺が言うのもなんだが、こう訓練、訓練じゃ、いい加減飽きて来ちまうな」
「船長、そう言う発言はクルーの前では謹んで頂きたい」
ボーリアが船長をたしなめる。
「まあそう固い事言うなボーリア、俺達はこれから家族見たいなもんなんだ、今からそんなんじゃ、後が疲れるぞ?」
「しかし……」
ボーリアの言葉を遮るようにマイクが話す。
「あー、わかった、わかった。みんな、今からのミッションは緊張感を持って当たってくれよ。じゃないとボーリアがお冠だからな。いいか?」
マイクの言葉にみんなが笑う。しかし、ボーリアだけは不機嫌そうな顔をしている。
そして、順調に軌道エレベーターの行程は進み、第一宇宙ポートを過ぎ、予定通り無事五人は軌道エレベーターの最先端の、一五万キロ上空にある第二宇宙ポートまで到達する。そこから発射される宇宙船は今の所N・E号と、木星往還船だけだ。しかし、木星往還船は別のポートを使用している為、このポートは今の所N・E号の為だけに作られたと言っても過言ではない。しかし、これから先、N・E号を皮切りに幾度となくここから旅立って行く深宇宙探査船が出てくることだろうが、それはもっと未来の話である。
とにかく、五人は軌道エレベーターの最先端に到着する。
「なんだかガランとした所ね……」
まだN・E号以外の宇宙船の係留されていないドックを見てマリアはそう呟く。
「まあ、そうだろうな。ここから飛び立つ船は皆、第二宇宙速度、つまり地球の重力場から逃れるスピードを得られるポートだからね。今の所そんなスピードが必要な船はN・E号の他には木星往還船位だしな。それに、このポートは深宇宙探査船用のポートだからな」
ホセがマリアにそう説明する。
「ふーん、意外とホセって物知りなのね」
「以外にってどういう事だ、以外にって!」
ホセがムッとして言い返すが、マリアはそれを「はいはい」と言って殆ど無視する。そんな様子をよそに、茜とマイクは早速資材の搬入状況の確認をしている。
「船長、予定より少し遅れているようですが、誤差の範囲内です。予定通り出発準備に掛かれそうです」
茜は手元のタッチパネルを見てマイクに話しかける。マイクもその表示を見て頷く。
「そうだな。とにかく今日は各自部屋でゆっくり休んで、明朝八時から作業を開始しよう」
マイクがそう言うと、茜は「わかりました」と答え、それをほかのクルーに伝えようと皆に近寄る。そして、クルーに話しかけようとした時、ホセが茜に話しかける。
「おお、茜! 良い所に! 聞いてくれよ、マリアのやつ俺が親切に……」
ホセの言葉を途中で遮り、茜は連絡事項を告げる
「はいはい、後で聞くわ。みんな聞いて。今日の所は各自部屋でゆっくり休んで頂戴。準備は明朝八時から開始。それじゃ、みんな解散」
茜がそう言うと、ホセを除くクルーはそれぞれ割り当てられた部屋に移動する。
「茜まで俺の事……俺っていったい……」
ホセは一人ドックで落ち込むが、周りを見るとホセを置いて皆ドックから遠ざかっていく。
「お、おい! ちょっと待ってくれよ!」
おいて行かれたホセは急いでみんなの後を追う。