1話
遥か昔の事。まだ人類が地球にのみ、生存権を確保していた時代。深く暗い闇の中で一つの終焉を迎えようとしている物があった。それは苦しそうに形を歪め、終焉に抗うかのように総てを焼きつくす炎を真っ直ぐに伸ばし、やがてそれは終焉を迎える……
二一〇三年八月
『冒険者達』
「今日この日は、人類にとって記念すべき日になるでしょう……」
高らかに壇上で演説をする人物。宇宙科学開発機構【SSDO】の局長、ハリー・スティーブが自信ありげに演説を行っている。
その後ろには、今回の深宇宙探査船に乗り込む乗組員の五人が澄ました顔でハリーの演説を聞いている。しかし内心は眠くて仕方ないようだ。乗組員の一人、アフリカ地方の選抜で選ばれた長身の黒人、ホセ・サンボアが欠伸を噛み殺しながら、隣に座るアジア地区の選抜で選ばれた廣田茜に眠そうに話しかける。
「アカネ、今日のハリーやけに張り切ってると思わないか?」
茜はやや呆れ顔で答える。
「そりゃそうでしょ? なんせ、局長の人生を費やしたと言ってもいい事業が、今日ようやくお披露目されるんだから」
茜の隣に座る船長のマイク・リップスが少し咳払いをして小声で二人に注意する。
「お前さんがた、式典の最中だ。マスコミも大勢来ている。変な姿撮られないように気をつけろよ」
二人は船長の言葉に従い、真面目な顔でまた壇上で演説を続けるハリーの背中を見つめる。
「それでは、この深宇宙探査船『ノートルダム・エヴァンジル』号の勇敢なる五人の乗組員を紹介いたします」
ハリーは壇上から少し動き、五人を迎える。
「皆様方から見られて左から船長のマイケル・リップス、その隣が副船長の廣田茜、そして、MSのホセ・サンボア、同じくMSボーリア・メンデーレフ、そして、PSであり、医師でもあるマリア・スーベリア。この五人が、人類が初めて挑む深宇宙への初めての冒険者となるのです。皆様、彼らを盛大な拍手で迎えて下さい
ハリーが五人を紹介し終わったところで小声でマイクに話しかける。
「マイク、ちゃんと原稿は用意してきたんだろうな?」
「ああ大丈夫だハリー、一世一代の演説をしてみせるよ」
その言葉にハリーは『また余計な事を言わなければいいが……』と内心思いながらため息をつく。
「えー、今ご紹介あずかりました船長のマイケル・リップスです。この度は人類初の深宇宙への旅を前にして身の引き締まる思いです」
マイクはそこでいったん言葉を区切り、また話し出す。
「しかし、我々が地球に帰ってくる頃には恐らく我々の事を覚えている方はこの中にいる人達の一握りでしょう。なんせ、我々は光速の五〇パーセントという途方もないスピードで地球から遠ざかっていきます。しかし、この度SSDOが開発した超空間通信を用いれば我々の調査結果は瞬く間に全世界に配信される事でしょう。ですからみなさん、どうか我々の事を忘れないで下さいね」
マイクはそう言うと、少し笑みを浮かべる。そして、ハリーが心配する事もなく、マイクはその後難なく演説を終らせる。そして、式典を滞りなく終わらせる。