第九話
我々はスズメ蜂との死闘で、経験値が上がったような気がした。
実際、仲間の僧侶に殺されかけたので、本当の意味での死闘だ。
殺虫成分の中に、何か良からぬものが入っていたのか、私たちは何らかのパワーを頂いた。
『レベルアーップ! 』
「チャラリ~ン! 」
あ。先ほどの音は、旅芸人が気を利かせて鳴らしてくれました。
なかなかやりますな、旅芸人。
私たちは、少し休憩をとることにした。
「ちょ、見て見て、これって魔法っぽくない? 」
チャラ男が、私のワンタッチステッキを伸ばしたり縮めたりしながら、
「ソイッ! ソイッ! 」
と、やっている。
やめろ、チャラ男。お前になど用はない。
チビッコ賢者は必死で夏休みの宿題をしている。
そんなに切羽詰まっているのなら、キャンプになど来なければ良いと思うのだが。
戦士は、おしぼりで身体中を拭いている。
オッサンだもの。
旅芸人は、何やら楽しげな曲を奏でている。
あぁ、癒される。
「旅芸人! うるせーよ! 」
僧侶様、旅芸人にご立腹。
そんな防護服着て、よく聞こえますな。
「アァ、もう! お腹すいた! 早くバンガローに行くよっ! 」
私は、もはや勇者などではない。
僧侶様にお仕えする家来の一人だ。
ププッ。まるで西遊記みたい。
「何笑ってンだ! しげぞう! 」
おぉ、くわばらくわばら。
僧侶様の防護服は、後ろも見えているようだ。
途中『宝箱』と書かれた段ボール箱を見つけた。
運営よ、もっと金をかけろ。
「魔法使い、開けろ」
僧侶様、扱い雑過ぎ。
「へい」
魔法使い、順応し過ぎ。
魔法使いチャラ男は、私のワンタッチステッキを、出したり引っ込めたりしながら
「ソイッ、ソイッ」
と、唱えた。
その姿はフェンシング選手のようで、美しいフォルムであったが、当然何も起こらなかった。
「馬鹿やろう! 」
僧侶が、ソイソイやっているチャラ男に突進した。
「ぎゃふっ! 」
チャラ男は、そのまま宝箱のような箱にぶつかり、無事、宝箱が開いた。
「ジャガイモ……」
それに、米、人参、玉ねぎ、カレールゥー。
やったぁ。今晩はカレーだ。
運営様よ、ありがとう。
腐ってしまうからなのか、さすがに肉は入っていなかったが、仕方あるまい。
道中、イノシシなどが現れたら、それを捕らえて肉にするまでだ。
宝箱っぽい箱は、一番体力がありそうでいて、実は何もしていない戦士が運ぶことになった。
結局、私たちはイノシシなどに出会うことなく、バンガローに到着した。