第八話
我々は、さらに奥へと進んでいった。
そこに巨大な蜂の集団が現れた。
ちなみに巨大と言っても、そこら辺にいる蜂と変わらない大きさだ。
ここは、読者に緊迫感を持っていただくために、あえて『巨大』と言っておこう。
「うわー。これも、運営側の仕業か! 」
へっぽこ魔法使いのチャラ男が叫ぶ。
「いえ。この蜂は、昔からこの辺りに生息するスズメ蜂ですよ」
ナイス、賢者!
君のそのナイスな頭脳で、そこにいるチャラ男を叩きのめしてやれ。
「敵のデータが取れたわ。しげぞう、行け! 」
いやいや、僧侶さん?
命令を出すのは、大抵、勇者と決まっていますよ?
僧侶がギロリとにらむので、私は慌ててナップサックを開いた
もう、どっちが敵なのか、分からない。
「武器、武器……」
私は手探りでナップサックのの中を引っ掻き回した。
「お? 」
私の手に、何やら武器っぽい物が触れた。
「そりゃ」
私はナップサックの中から、武器っぽい物を繰り出した。
『シャキーン! 』
私が手にした物は、お年寄りがよく使う、折り畳み式の杖だった。
格好良く伸びてくれたのは良かったが、ランニング&ステテコ&腹巻き姿で、こんな杖を振り回したら、ただの『ご乱心爺さん』だ。
杖にもご丁寧に『モリタ シゲゾウ』と、油性ペンで書かれてあり、
『勇者が初めて装備する武器は、木の棒と決まっておる。』
と、書かれた付箋がついていた。
シゲゾウめ。
次に会った時は、無視してやる。
私は気を取り直し、
「戦士よ、そのトゲトゲボールが付いた鎖を振り回し、敵を蹴散らしてくれ! 」
と、指示を出した。
おぉ。
自分で言うのも何だが、初めて勇者らしい事をした。
「アタシ、小さいものが苦手なのよね」
戦士に問う。
お前は一体何が得意なのだ?
「では、魔法使い。魔法でやっつけるんだ! 」
「ハァ? 魔法が使えないから、このキャンプに参加してるんじゃん。何言ってんの? 」
ヘッポコチャラチャラ魔法使い、お前とは、いつか必ず一戦交える時が来るだろう。
旅芸人……、ここでは何も出来ませんね。
赤い鼻を付けたせいで、少々酸欠状態になってるし。
賢者……、敵のスズメ蜂をスケッチしてるよ!
それ、夏休みの自由研究だよね。
「もう、このオタンコナスども! 」
僧侶のあの可愛い顔から何をどうすれば、そんな乱暴な言葉が繰り出されるのか……。
僧侶は、背中に背負ったタンクにホースを繋いで
「ゥオラァァァ……! 」
と、何かを散布した。
……待って。
それ、殺虫剤ですよね。
僧侶さんは、防護服を着てますよね。
私たちは、丸腰なのですが……。
よいこは真似をしないで……、ね……。